ベルギーの独立系半導体ナノテク半導体研究機関のimecは、10月11日に東京都内で年次研究成果発表イベント「imec Technology Forum Japan 2019(ITF Japan 2019)」が開催され、日本のソニーとimecがCMOSイメージセンサに関する講演を行った。
イメージセンサにAIを組み込むソニー
ソニーの半導体子会社であるソニーセミコンダクタソリューションズ代表取締役社長の清水照士氏は、「イメージセンサとAIの可能性と社会への貢献」と題した招待講演において、「世界は食糧不足、高齢化、都市化、異常気象などさまざまな問題を抱えているが、これらの解決のためには、持続可能なスマートな社会を実現しなければならない。ソニーはイメージセンサとAIを結合することでその実現に貢献していきたい」と述べた。
イメージング(ヒューマンビジョン)とAIを結び付けて活用すれば、今まで以上に画像の品質を向上させることができるようになる。しかし、その可能性は人の目の性能で制限される。これに対して、センシング(マシンビジョン)とAIの組み合わせは、活用の仕方次第で無限の可能性が示され、スマートフォンばかりではなく、自動車や監視、産業などさまざまな分野に応用できる。AIをクラウドで活用するかエッジで活用するか2通りのやり方があるが、清水氏は「特に、イメージセンサというハードウェアにエッジAIプロセッシングを組み合わせることがソニーの強みになるだろう」と述べた。ソニーはイメージセンサ、DRAM、周辺ロジック回路を3次元積層する技術をすでに実用化しているが、そこにさらにAI機能を搭載する計画が進行中だという。
短波長赤外領域のモノリシック薄膜イメージセンサを開発したimec
一方、imecのイメージャー開発プリグラムマネージャーであるPawel Malinowski氏は、開発したばかりの近赤外線(NIR)/短波長赤外線(SWIR)の光を取り込むモノリシック薄膜イメージセンサ(イメージャー)に関する報告を行った。
モノリシックイメージャーは、従来のIRイメージャーの処理と比較して、製造スループットとコストを向上させると同時に、数Mピクセルの解像度を実現したという。 IRイメージャーは、監視カメラ、生体認証、バーチャルリアリティ、マシンビジョン、産業オートメーションなどの可能性を拡大する可能性があるという。
今まで、赤外線イメージセンサはハイブリッド技術により製造されていた。半導体検出器と電子読み出しは別々の結晶基板で製造され、ピクセルまたはチップ周辺レベルで相互接続されていた。結果的に、スループットの低い高価で時間のかかるプロセスであるため、暗い条件下での信号ノイズを低減するために冷却が必要になることが多く、解像度も制限されていた。 そのため、コンシューマーアプリケーションとしてIRイメージャーを利用できる分野は一部に限られており、研究者はさまざまなモノリシックアプローチを検討する必要性に迫られてきた。
imecのIRイメージャーは、電子読み取り回路の上に量子ドットに基づく新しい薄膜光検出器ピクセルを積層した構成となっている。ウェハベースの大量生産と互換性のあるモノリシックプロセスで製造されている。
ピクセルには、無機光吸収剤の性能に匹敵する、またはそれを上回る新しく開発された高性能低バンドギャップ量子ドット材料が埋め込まれている。可視光から最長2μmの波長までのスペクトルをターゲットとしている。 シリコン基板上のテストフォトダイオードは、940nm波長で60%を超える量子効率を達成し、1450nmで20%を超えるため、市販のInGaAs光検出器に匹敵する暗電流での非冷却動作が可能である。プロトタイプのピクセル数は758×512でピクセルピッチは5μmである。
Pawel Malinowski氏は「開発したイメージャーは、目に安全な光源と組み合わせた次世代のスマートフォンカメラにも搭載でき、拡張現実のためのコンパクトなセンシングモジュールを実現できる。検査分野への応用では、食品やプラスチックの選別に使用したり、コントラストの良い低照度カメラの監視に使用したりできる。さらに、悪天候や煙の中でもイメージをとらえられるので消防への用途も想定可能で、将来的には先進運転支援システム(ADAS)への応用も視野に入れている」と語った。
将来的には、完全なウェハベースのNIRおよびSWIR技術の開発をし、革新的なイメージセンサ、カメラ、スマートイメージングアプリのロードマップを備えた企業向けの技術を開発することを目指しているという。現在のSWIR光検出器は、フランダース州の「戦略的基礎研究プロジェクト」と学術パートナーのゲント大学およびハッセルト大学、フランダースに拠点を置くイメージング技術開発企業とのコラボレーションの成果だという。