パブリッククラウドに適していないシステムを移行
外為取引のオンラインサービスや投資信託サービスを提供するヤフーグループ金融子会社であるワイジェイFXは、開発環境のベースプラットフォームとして「Red Hat OpenStack Platform」を採用した。
これにより、同社はシステム開発に使ってきたパブリッククラウド環境を、Red Hat OpenStack Platformをベースに構築したプライベートクラウドに移行した。5年間ベースで価格を比較すると、プライベートクラウドに価格メリットがあるという。
ワイジェイFXはこれまでVMwareベースで開発されている国産のパブリッククラウドサービスを利用してきた。しかし、同社のシステムが常にリソースを消費するようなタイプであるため、パブリッククラウドのメリットが減ってきたこと、コストの面で折り合いがつかなくなってきたこと、インフラの作業を効率化することなどから、今回の切り替えに踏み切ったそうだ。
パブリッククラウドはすぐにサービスを利用できるという利点がある。反面、I/Oバウンダリなサービスは性能を発揮することが難しく、さらに常にリソースを使い続けるようなシステムはコストが膨れ上がることも知られている。
したがって、I/Oバウンダリなサービスやリソースを使い続けるようなシステムを利用している場合、パブリッククラウドよりもオンプレミスやプライベートクラウドのほうが適した選択肢となる。
ワイジェイFXの今回の取り組みは、より最適なプラットフォームへ移行することでコストダウンと開発効率向上の双方を狙ったものといえる。
決め手は「制御権を取り戻すこと」
さらに、パブリッククラウドには融通が効かないという問題もある。何らかの問題が発生した場合も、インスタンスで想定している性能が出せない場合も、対応はパブリッククラウドサービスを提供しているベンダーに委ねられることになる。
つまり、自分たちで対処することはできない。かゆいところに手が届かないというか、結局問題が解決できないまま使い続けることになるとこともよくある。
ワイジェイFXでシステム管理部マネージャを務める齋藤光氏は今回の開発プラットフォームの移行について「社内に制御権を取り戻すことが大きな動機になった」と話す。
プライベートクラウドであれば、すべてを社内のエンジニアでコントロールできる。ノードの追加によるスケールアップも問題発生時の対処も、パブリッククラウドでは手の出なかった部分を自分たちで制御することができる。これが、「Red Hat OpenStack Platform」を導入した大きな理由になったというわけだ。パブリッククラウドを使うことで得られた経験を基に、次の一手に踏み切ったと言えよう。
齋藤氏によると、新しいプラットフォームとしてOpenStackを採用するという方向性は最初から見えていたという。OpenStackをそのまま自分たちで組み上げるアプローチもあれば、各社が提供しているOpenStackソリューションを利用するアプローチもあるが、齋藤氏は社内で開発を行い、技術を蓄積できるうえ、サポートも得られるRed Hat OpenStack Platformが選択肢としてバランスがよかったと語る。
OpenStackをすべて自分たちで組み上げるには、それ相応に技術力と人員が必要になる。逆に、ガチガチに固められたOpenStackソリューションを採用すると、導入は簡単になるがソリューションを提供するベンダーに依存することになるし、社内に技術もノウハウも貯まらない。
Red Hat OpenStack Platformであれば、Red HatやSIerのサポートを得ながら、あくまでも社内のエンジニア主導で開発が進められると判断したそうだ。制御権を自分たちに取り戻す――これが、ワイジェイFXがRed Hat OpenStack Platformを採用した最大の理由ということになる。
OpenStackはドキュメントとの戦い
一方、齋藤氏はOpenStackを使ったプラットフォーム構築やシステム開発は「ドキュメントとの戦いになる」と指摘する。日本語のドキュメントも提供されているが、最新のバージョンに対応する情報が欲しかったり、日本語訳では意味がよくわからなかったりする場合は、英語のドキュメントを読む必要がある。
さらに、ドキュメントが100%正確ではないこともあり、そうした場合はソースコードを読む必要があるなど、「とにかくドキュメントとどう向き合っていくかがOpenStackを使いこなすカギになるだろう」と齋藤氏は話す。
既存のパブリッククラウドからの移行だが、Ansibleを使って構築したシステムはすぐに移行が完了したそうだ。しかし、仮想環境に依存するような作り方をしたシステムはイメージの抽出から新しい仮想環境に適用させるための設定ファイルの書き換えなどに長い時間がかかり、「他のプラットフォームへ移行させること前提でシステムを開発しておくことが大切」と、齋藤氏はアドバイスをくれた。