2019年はRed Hat OpenShift 4

米Red Hatはこのほど、年次イベント「Red Hat Summit 2019」を開催した。5月9日の基調講演は、同社の製品を導入している顧客を壇上に招いて事例を紹介しつつ、Red Hatのキーパーソンがポイントを解説するスタイルで進められた。顧客の業種が多岐にわたっていたため、発表の内容はさまざまだったが、共通点として、次の3つが発表の要になっていたように見える。

  • Red Hat OpenShift 4
  • 人工知能技術
  • ハードウェアの活用
Red Hat、Senior Vice President of Customer Experience and Engagement (CEE)、Marco Bill-Peter氏

5月9日の基調講演に登壇したRed Hat, Senior Vice President of Customer Experience and Engagement (CEE), Marco Bill-Peter氏

3つのポイントは一見するとバラバラに見えるが、関連性がある。

まず、顧客の企業システムやサービスを開発する基盤として「Red Hat OpenShift 4」がある。基調講演を通じて、Red Hatが最も主張したかったのはこれだろう。次に、さまざまな業種で利用が進んでいるAIだが、Red HatはAIの利用がRed Hat OpenShift上で行われているとしている。迅速なデプロイとスケーラビリティの高い基盤があってこそ、AIの活用が現実的なものとなるという。

ハードウェアはこうした活動すべての基盤となる。Red Hatは「ハイブリッドクラウド」の推進を掲げているが、これは既存のパブリッククラウドも、データセンターに構築するプライベートクラウドも、社内の仮想環境も、すべてを組み合わせてシステムを構築および利用するという考え方だ。ここで、ラックマウントサーバといったハードウェアを組み合わせてプライベートクラウドを構築することをRed Hatは強く主張している。

基調講演では、壇上に設置されたラックマウントサーバ群で動作するRed Hat Enterprise Linux 8およびそのほかのプロダクトを使って、デモンストレーションが披露された。壇上にラックマウントサーバが設置されている間は、会場にラックマウントサーバのファンが高速回転する甲高い音が常に響いており、まるでちょっとしたデータセンターで発表を行っているようだった。

  • 基調講演の壇上に設置されたラックマウントサーバ群

    基調講演の壇上に設置されたラックマウントサーバ群

コモディティ化したOpenStack

Red Hatは2020年度の事業戦略として、次の3つの技術を柱として掲げている。

技術 戦略
OpenStack Platform ハイブリッドクラウド基盤
OpenShift Container Platform クラウドネイティブアプリケーション基盤
Ansible Automation クラウドに対応した管理と自動化
Red Hat、Vice President and Chief Technology Officer、Chris Wright氏

5月9日の基調講演に登壇したRed Hat, Vice President and Chief Technology Officer, Chris Wright氏

しかし、Red Hat Summit 2019でアピールされていたのは「Red Hat OpenShift 4」だ。OpenStackはどちらかというオペレーティングシステム側のインフラ技術で、OpenShiftはどちらかというとアプリケーション側のインフラ技術といえる。乱暴に言ってしまえば、OpenStackの上にOpenShiftを構築するようなイメージとなる(もちろんその限りではないが)。今回のサミットでOpenStackにあまり焦点が当てられなかった背景には、すでにOpenStackがインフラストラクチャとして一般化したことも理由としてあるだろう。

また、Red Hat Ansibleもそれほどフォーカスが当たっていなかったが、これにはAnsibleの対象とする領域が発表にあまり向いていないことに理由があるように思える。

Ansibleは管理とモニタリングが主な領域となる。システムを運用していく上で欠かすことのできない領域だが、地味かつ大変な領域でもあり、多くの人の前で大々的に発表するのに適していない領域でないことも事実だ。しかし、

とはいえ、3本柱の1つに掲げられているように、実務において重要な領域であることに変わりはなく、システム管理とモニタリングなどに関するサービスはRed Hat Summit 2019で繰り返し発表が行われていた。

「制御権は顧客が持つ」というRed Hatの手法

Red Hat Enterprise Linux 8、Red Hat OpenStack、Red Hat OpenShift、Red hat Ansible――これらが同社の掲げる基幹プロダクトということになるが、競合するベンダーが提供するサービスと比べると、可能な限りプロダクトやシステムの制御権を顧客に持たせようとするRed Hadの姿勢が見て取れる。

クラウドプラットフォームやクラウドAPIは導入が容易だ。しかし、仮にシステムに問題が発生した場合、ユーザーはクラウドプラットフォームやクラウドAPI側の問題を深く追求することはできない。そもそも、こうしたサービスを利用する場合、クラウドサービスを提供しているベンダーのプラットフォームに問題が発生しても、サービスが止まらないように分散システムを前提として設計を行うほうが戦術としてはしっくりくる。

また、パブリッククラウドプラットフォームにはあたりハズレがあることは開発者ならよく知っていることだ。インスタンスを作成するタイミングで良い環境が当てられることもあれば、問題の出やすい環境が割り当てられることもある。問題の出やすい環境を導入してしまっても、ユーザーが問題を解決できることはまずないといってよい。インスタンスを作り直すことが、ユーザーができることだ。

一方、Red Hatの提供するソリューションは、そうした細かな部分に関しても制御権を顧客に委ねる作りになっている。数台から数百台といったラックマウントサーバを使ってプライベートクラウドを構築し、そこでOpenShiftによる環境を構築する。システム管理はAnsibleで実施する。これにより、ハードウェアの問題もシステムの問題もユーザーが追求できる。このようにユーザーがシステムを制御できると、運用コストの削減も容易な面があり、選択肢として魅力的になってきている。