九州大学(九大)と東京工業大学(東工大)は、両大らの研究グループが、金属酸化物であるチタン酸ストロンチウム(SrTiO3-δ)に高濃度の酸素欠陥と電子をドープすることで、紫外光照射下における水素生成速度、酸素生成速度がそれぞれ40倍、3倍と大幅に向上することを発見し、その理由が、紫外光照射により励起された電子寿命の延長およびホール流束の増大によることを明らかにしたと発表した。

この成果は、九大エネルギー研究教育機構(Q-PIT)の山崎仁丈教授、稲盛フロンティア研究センターの兵頭潤次特任助教、東工大の前田和彦准教授、熊谷啓特任助教、西岡駿太大学院生、豊田工業大学の山片啓准教授、Junie Jhon M. Vequizo博士、物質・材料研究機構(NIMS)の木本浩司博士、山下俊介博士らの研究グループによるもので、米国化学会の国際学術誌「ACS Catalysis」のオンライン速報版で6月19 日に掲載され、7月3日に確定版で公開された。

  • 電子ドープした光触媒では励起した電子の寿命が著しく長くなる(出所:九大ニュースリリース※PDF)

    電子ドープした光触媒では励起した電子の寿命が著しく長くなる(出所:九大ニュースリリース※PDF)

太陽光を利用して水から水素を生成する光触媒は、日本人研究者を中心として研究が進められている。これまでの光触媒開発は、主にトライアンドエラーによるもので、高性能光触媒を合理的に設計することが難しく、何を制御すれば高性能化できるのか十分にわかっていなかった。

今回、研究グループは、金属酸化物であるチタン酸ストロンチウム(SrTiO3-δ)に高濃度の酸素欠陥と電子をドープすることで、紫外光照射下における水素生成速度、酸素生成速度がそれぞれ40倍、3倍と大幅に向上することを発見した。また、この理由が、紫外光照射により励起された電子寿命の延長およびホール流束の増大に よることを明らかにした。

つまり、電子ドープした光触媒では、励起した電子の寿命が著しく長くなり、また、電子ドープ により表面近傍の半導体におけるバンド曲がりが大きくなる。これらの影響により、反応に利用される電子・ホール数が向上し、水素・酸素生成速度が大きくなるといえる。

これらは、材料科学と触媒化学の学際融合研究による成果であり、この光触媒設計指針に基づいて新規光触媒を開発することで、今後は太陽光と光触媒を利用した水素生成反応のさらなる高性能化が期待される。

研究者は、以下のようにコメントしている。「電子のドーピングは『欠陥』を結晶格子の中に作ることで導入されます。不具合や失敗のようなネガティブな印象を与える「欠陥」という言葉ですが、触媒材料における「欠陥」は、高機能化や新機能の創出のための重要な因子で、私たちは欠陥制御による高機能性材料の創出を目指しています」