SAPジャパン 代表取締役会長 内田 士郎

三菱地所とSAPジャパンは7月2日、東京都千代田区にあるオフィスビル「大手町ビル」にビジネスイノベーションスペース「(仮称)TechLab」を開設すると発表した。TechLabは、新規ビジネスの創出を目的としたビジネスイノベーションのためのコラボラティブスペースとなる。

SAPジャパン 代表取締役会長の内田士郎氏は、同社の変革を通じ、国内でイノベーションを創出する際の課題が3つの「P」で表すことができることに気付いたと説明した。

3つの「P」とは、「Place(創造性を高める環境、出島)」「Process(共通言語フレームワーク)」「People(同質から抜け出し、"異邦人"と交わる)」を指す。「TechLab」では、これら3つの要素を提供することで、イノベーションの実現を目指す。

まず、「TechLab」自体が「Place」の役割を担う。「新規事業に出島は必要」と内田氏は語る。SAPはグローバルでイノベーションに関わる人材を4000人抱えているとともに、アメリカやドイツなど世界中にイノベーションの拠点を構えている。これら拠点で得られたノウハウを「TechLab」でも生かしていく。

「Process」とは、実践的かつ創造的な課題解決のための形式的方法であるデザインシンキングを指す。デザインシンキングに基づき、真の課題を特定し、多様・柔軟な発想で考え、事業性と実現する技術を踏まえ、素早くカタチにしていく。「TechLab」では、デザインシンキングに関するプログラムの提供を行う。

「People」としては、同社が3月に発足したイノベーションを促進するためのオープンな異業種コミュニティ「Business Innovators Network」に参画する変革を志向する企業、スタートアップ企業、ベンチャーキャピタル/アクセラレーター、アカデミアをステークホルダーに据える。内田氏は「TechLabで、多様なステークホルダーを有機的に結合し、4者一体となって、日本発のイノベーションを発信していく」と述べた。

TechLabには、「Business Innovators Network」に参画するステークホルダーを中心に、大企業、スタートアップ企業、ベンチャーキャピタル、研究者、デザインファームなどが入居する予定だ。

TechLabでは、約2000平方メートルのスペースに、各ステークホルダーの拠点となるオフィス、デザインシンキング実施のためのエリア、ビジネス創出のための工房、プロモーション動画を撮影するためのスタジオ、入居者の交流を促すラウンジやイベントスペースなどが設けられる予定だ。加えて、イノベーション創出のためのきっかけとなるコミュ二ティ間のコラボレーションの促進を行うコミュニティマネージャーや、デザインシンキングファシリテーターなど、SAPジャパンのスタッフが常駐する。

  • 「TechLab」のイメージ

SAPジャパン バイスプレジデント チーフカスタマーオフィサー兼デジタルエコシステム統括本部長 大我猛氏

TechLabで提供するイノベーションを支援するメニューについては、バイスプレジデント チーフカスタマーオフィサー兼デジタルエコシステム統括本部長を務める大我猛氏が説明した。同氏は、TechLabを統括している。TechLabでは、「Inspire」「ideate」「Develop」という3つのステージに分けて、「Business Innovators Network」に参画するステークホルダーを巻き込んで、イノベーションの実現を目指す。各ステージの所要期間は1カ月と想定されており、3カ月サイクルでサービスを提供する。

「Inspire」では、新規事業のリーダーのマインドを刺激する。具体的には、SAP自身が実践するイントラプレナー育成プログラム「SAP.IO」、シリコンバレーで提供している顧客向け次世代リーダー育成プログラム「RELAY」を活用する。

「Ideate」では、創造的なアイデアを練る。具体的には、「オープンイノベーション・コミュニティ」「デザインシンキング・ワークショップ」「プロトタイピング・スタジオ」などを活用して、アイデアを創出する。「テクノロジーありきではなく、ユーザーのニーズをとらえることに重きを置いている」と大我氏。

「Develop」では、アイデアの具体化に向けた座組つくりを行う。具体的には、ビジネススキームパートナーリング、ビジネスのプロトタイプ構築などに取り組む。「TechLab」には、実証実験やテストマーケティングが行える環境が設けられるという。

三菱地所 執行役常務 湯浅哲生氏

TechLabは、三菱地所がリノベーションを進める大手町ビルの6階に2018年11月に開設される予定だ。大手町ビルのリノベーションについては、三菱地所 執行役常務の湯浅哲生氏が説明を行った。

大手町ビルは今年で築60年を迎えたが、「100年ビル」に挑戦すべく、大規模なリノベーションに着手する。同ビルが建つ大丸有エリアはこれまでの20年にわたり、オフィス機能に加えて商業機能を備えた複合開発が行われてきた。そして今後は、「多様な交流機会が存在」「チャレンジできる環境」「刺激にあふれる街」「ビジネスが生まれる街」など、人と企業が可能性を感じ、進化できる街「OPEN INNOVATION FIELD」を目指していくという。

こうした中、「『小割貸付に適したフロア形状』『低層ビルならではの上下階の移動による偶発的なコミュニケーションの創出』といった大手町ビルのポテンシャルを最大限に生かし、「OPEN INNOVATION FIELD」を実現するため、リノベーションを選択した」と、湯浅氏は説明した。

リノベーション後のビルでは、東側を「LABゾーン」と位置づけ、新たなビジネスが創出される場を目指す。また、同ビルで現在展開されているFintech拠点「FINOLAB」の床面積を650坪から1200坪に拡張する。トヨタ自動車の自動運転を支える周辺技術の開発拠点が入居することも決まっている。