富士通は5月15日、量子現象に着想を得た、組み合わせ最適化問題を高速に解く次世代のアーキテクチャー「デジタルアニーラ」を活用した「FUJITSU Quantum-inspired Computing Digital Annealer」(以下、デジタルアニーラ クラウドサービス)の提供を、本日より開始したことを発表した。日本国内での提供を皮切りに、2018年度中に北米・欧州・アジアにて順次展開する。

  • Digital Annealing Unit(DAU)

    Digital Annealing Unit(DAU)

実社会におけるさまざまな要因の組み合わせを考慮しながら、最適解を見つけ出す組み合わせ最適化問題に対し、従来のコンピューティングパワーでは計算能力に限界がある。次世代のコンピュータとして量子コンピュータ(量子アニーリングマシン)の開発が進んでいるが、ハードウェア面での制約が大きく、実用規模の問題が簡単に解けるようになるには多くの技術的課題を克服する必要がある。

富士通研究所は、高い設計自由度やノイズ耐性というデジタル回路の利点と量子現象に着想を得た高速性を併せ持つ、組み合わせ最適化問題専用のアーキテクチャー「デジタルアニーラ」を2016年に発表し、富士通のサービス化に向けともに開発を進めてきた。

このたび富士通は、組み合わせ最適化問題を高速に解く「デジタルアニーラ クラウドサービス」と、これまでのAIやビッグデータ解析技術に加え、「デジタルアニーラ」の開発に携わるノウハウを集結させ、専門技術者が顧客の課題定義や数式モデル構築、数式モデルを利活用するためのアプリケーション開発を支援する「デジタルアニーラ テクニカルサービス」を提供開始する。

デジタルアニーラは、コンピュータ内部で素子同士が自由に信号をやりとりできる全結合型の設計が採用されている。1024個のビット値が全結合で相互接続され、さらにビット間の結合の強さを65536階調で細かく表現できるため、現行の量子アニーリングマシンでは扱えなかった複雑で大規模な問題も解くことが可能だという。また、ノイズの影響も受けにくく、特別な冷却装置のない室温でも安定動作が行える。

同社は、「デジタルアニーラ クラウドサービス」の適用領域を拡大するため、量子コンピュータ向けソフトウェアのトップベンダーである1QB Information Technologies(以下、1QBit)とグローバルにビジネス協業を実施し、2018年度より1QBitのクラウドサービスからも「デジタルアニーラ」が利用できるようになる。1QBitのフレームワークを「デジタルアニーラ クラウドサービス」に実装することで、適用領域を拡大する。

また、同社はカナダのトロント大学とのパートナーシップを強化しており、現在、交通・ネットワーク・金融・医療の4つの分野で5件の「デジタルアニーラ」の応用に関する共同研究を進めている。さらに、同社は企業や社会の課題を解決するため、膨大な並列計算処理を実現するHPC、AIを牽引するディープラーニング、そして「デジタルアニーラ」の3つの技術を持ち、それぞれが強みを生かして支え合っている。

同社は高度なデータ分析技術が必要な「デジタルアニーラ」およびAIに関連する高度な人材を集結し、先進ユースケースの蓄積および全世界の顧客への適用を加速するための中核拠点として、AI Headquartersをカナダのバンクーバーに2018年度上期に新設するという。

今後、同社のプロセッサ開発技術と最先端のCMOSテクノロジーにより、新たに「デジタルアニーラ」専用プロセッサ「Digital Annealing Unit(DAU)」を開発し、ビット間全結合の規模を現在の1024ビットから8192ビットへ、結合精度を16ビットから最大64ビットの1845京階調まで拡張することで、さらなる大規模な問題への適用を目指す。これにより、交通渋滞や災害時の復旧計画などの複雑な社会課題も、計算できるようになるということだ。