九州大学(九大)は、トカラ海峡において乱流の観測を行い、同海峡が世界の外洋の中でも世界最大級の乱流混合を生じるホットスポットであることを示したと発表した。研究グループは、これにより、黒潮域の豊かな生物生産を支える仕組みの解明につながることが期待できると説明している。

同成果は、同大応用力学研究所地球環境力学部門の学術研究員である堤英輔氏、松野健 特任教授、千手智晴 准教授と、米国ワシントン大学、鹿児島大学、愛媛大学らで構成される共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学誌「Journal of Geophysical Research」(オンライン版)に掲載された。

OMIXプロジェクトの概念図 (出所:九州大学プレスリリース)

海洋に数多く存在する微細な渦(乱流)は海洋中の熱や物質を鉛直方向に輸送することで、海洋の構造と循環、ひいては海洋生態系や気候にまで影響を及ぼしている。しかし、このような乱流がどこで、どのように、どれくらい生じているかは未解明の部分が多く残されている。

そうした背景の中で現在、海洋の微細な乱流をキーファクターとして海洋の大循環と生態系、気候変動の仕組みを明らかにする科学研究費・新学術領域研究「海洋混合学の創設(OMIX)」が展開されている。同研究は、その一環として行われたもの。これまで、強い乱流が生じていると考えられながらも実態が明らかでなかった九州南部のトカラ海峡において現場観測を行い、そこでの乱流混合について調査した。

その結果、トカラ海峡に散在する水深100m~200mの海山に400m~500mの厚さを持って海洋表層を流れる黒潮が衝突することで、海山の下流で活発な乱流が発生していることを見出した。また、その強度(鉛直渦拡散係数)は通常の外洋域の値に比べて100倍~1000倍もの値になり、海山近傍では、さらにその10倍以上の値が推測された。

トカラ海峡の地形図と観測された乱流の強度。黒潮の流軸上で海山の下流に位置する測点B4においてもっとも強い乱流が計測された(丸の色は赤いほど強い乱流がその点で生じていることをあらわし、赤と緑の線は水深200mと300mの等深線を示す (出所:九州大学プレスリリース)

研究グループは同成果に関して、トカラ海峡が世界の外洋の中でも世界最大級の乱流混合を生じるホットスポットであることを乱流の直接観測に基づいて初めて示したものであると説明している。また、このような強い乱流は、黒潮深層の豊富な栄養を海洋表層の有光層へ運ぶため、黒潮域の豊かな生物生産を支える仕組みの解明につながることが期待されるとしている。