産業技術総合研究所(産総研)は、同所ナノ材料研究部門ナノ界面計測グループの宮前孝行主任研究員、機能化学研究部門 光材料化学グループの高田徳幸主任研究員が、次世代化学材料評価技術研究組合(CEREBA)と、有機EL素子駆動時の内部の電荷の挙動を、分子レベルで非破壊計測できる新たなオペランド計測技術を開発したことを発表した。同技術の詳細は、応用物理学会「Applied Physics Express」に掲載予定で、9月15~18日に東北大学で開催される第11回分子科学討論会2017でも発表される。

今回開発した時間分解測定装置の概要図

多層積層有機EL素子では、発光層の前後に電子や正孔を運ぶための有機層がある。高機能化や省エネルギー化のためには、電荷を効率よく発光層まで到達させる必要があり、有機層内部や界面での電荷の生成、輸送挙動を調べることが求められる。しかし、従来の計測方法では、複数の有機層の情報が重なったデータから個々の有機層や電荷の状態を取り出すことは困難であった。そこで研究グループは、動作中の有機EL素子の分子種の時間変化と素子内部を流れる電荷を測定する技術の開発に取り組んだ。

今回開発された技術は、産総研が以前に開発した「電界誘起2重共鳴SFG分光法」を基に、SFGで測定する「時間」を変化させながら、電荷により刻々と変化する分子の振る舞いをとらえることができる新しい評価解析技術で、有機デバイス中の電荷の振る舞いを非破壊で調べることができる。

具体的には、SFG分光法で用いるレーザーに同期させたパルス電圧を有機EL素子にかけて、レーザー照射とパルス電圧をかけるタイミングを少しずつずらしながらSFG分光測定を行う、時間分解と呼ばれる手法を用いた。素子を構成する有機膜の厚さは数10ナノメートル程度で、この極薄な層内を移動する電荷の様子を調べるには高精度で高い時間分解能が必要である。このたび開発された技術では、数10ナノ秒の精度で分子の変化を追跡できるので、発光している有機EL素子内部の分子や電荷の状態をリアルタイムで評価できる。

研究グループは今後、新規材料を用いた有機EL素子を今回開発した手法で測定し、次世代テレビやスマートフォンなどで用いられる有機EL素子の動作機構解明や長寿命化、さらに省エネルギー化、低コスト化のための新規材料開発や、それらを実際の素子に組み込んだ際の実際の電荷輸送特性を分子レベルの情報から直接解き明かすことが期待されると説明している。