2016年4月20日から22日に千葉県の幕張メッセで、「第2回国際ドローン展」が開催された。この中から筆者が気になったいくつかの展示をご紹介しよう。本記事で紹介するのは、内閣府の革新的研究開発推進プログラム「ImPACT(インパクト)」で進めている研究開発だ。

ImPACTは、科学技術振興機構に応募した大学などの機関の研究に内閣府の資金を投入し、イノベーションを起こそうというプログラムだ。

災害で使えるタフなドローン

さまざまなイノベーションを目指すImPACTの中に、タフ・ロボティクス・チャレンジという部門がある。災害などの厳しい環境で、現場の状況がわからない中でも活動できるロボットを開発しようとする部門だ。その中でもさらに飛行ロボット、自律的に飛行できるドローンの実現に向けた研究開発が今回の発表だ。大学や機関が提案したテーマごとに研究している近未来のドローン技術を見ていこう。

6個のアンテナで正確に位置測定する「マルチGNSS」

早稲田大学のマルチGNSS実験機。マルチコプターの6本のアームを延長した先にGNSSアンテナを装着している。アンテナ自体は安価な市販品を使用し、コストを抑えた。

ビルの間など、電波が乱反射する環境でも位置精度を高めるため、マルチコプターの6つの回転翼の先にそれぞれGNSS(GPSなどの衛星測位システム)アンテナを取り付け、誤差を小さくするのが早稲田大学の研究だ。また6つのアンテナを精密に比較することでドローンの傾きを0.1度という高精度で測定できるため、通常のドローンが使用する慣性センサなしで飛行できる。

GPSとレーザーを自動で組み合わせる「統合ナビゲーション」

信州大学の実験映像。建物に見立てたコンテナの中を通り抜けていく。入る前はGPS、中ではレーザー、抜けた後はGPSとスムーズに切り替わっていく。

建物の中や森林など、空が見えない場所に入り込むと、GPSの電波は受信できなくなってしまう。そこでレーザーを使った位置推定を組み合わせるのが信州大学の研究。レーザーで周辺の物体を3Dスキャンし、地図のように周囲の状況を調べながら避けて飛ぶ機能にGPSを組み合わせ、建物に入ったり出たりしながら正確な飛行が可能。

可変ピッチ制御で飛行性能をアップ

大阪府立大学らによる可変ピッチマルチコプター。現在はベース機を改造しているため6つのローターにモーターが付いているが、次の機体では本体のモーターでシャフト駆動し簡素化するとのこと。

大阪府立大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、大阪大学、金沢大学の共同研究は、可変ピッチローターを使った飛行性能アップだ。

普通、マルチコプターはローターにひとつずつモーターを付け、それぞれの回転数を変えることで制御する。この研究は逆に、ローターの回転数は変えずにローターのピッチ(ひねり)を変えることで操縦しようというものだ。回転数を変えるより機敏な制御で、強風下でも飛行できることを目指している。

故障しても飛べるタフな機体

ドローンの基本性能を高める研究をしている千葉大学の機体。

千葉大学はドローン機体そのものの研究をしており、各チームのドローンはこの機体をベースに改造している。さらに研究を進め、モーターが1つ故障しても飛行継続できる制御、時速70km以上で飛行できるパワー、着水可能な機体やフォーメーション飛行など、災害で求められるタフな機体へ向けた基本性能アップを研究中だ。

ドローンで声を聞いて、生き埋めの人を発見する

東京工業大学らによる、ドローンにマイクロホンアレイを取り付ける研究。実験は熊本で行われたようだ。今回の震災には間に合わなかったが、頼もしい研究だ。

最後に、ドローンそのものではないが革新的な研究をご紹介しよう。東京工業大学、熊本大学、早稲田大学の共同研究は、ドローンにマイクを付けて人の声を探すというものだ。

大災害で家屋が倒壊した場合、生き埋めになっている人を探すのにヘリコプターの音が邪魔になることがあるが、ドローンもかなりうるさいはずだ。しかし、複数のマイクを組み合わせたマイクロホンアレイ技術で音の方向を絞り込むことにより、ドローン自身が発する騒音の中から、小さな声を聞き分けて人を探すことができるというのだ。

研究は2018年度まで、実用化へ

ImPACTでの研究は2018年までの予定で、以後は実用化を目指している。それぞれの研究が別の機体になるわけではなく、全てを盛り込んだ災害用タフ・ドローンになるかもしれないし、いくつかの技術を組み合わせた機体になったり、あるいは一般のドローンに個別に応用されるかもしれない。

ドローンの話題性からは一歩遅れた感のある日本だが、こういった高度な機能を備えたドローンでイノベーションを起こし、巻き返すことを期待したい。