2014年に日本支社を設立、2015年1月にはアジア環太平洋地域での事業を強化するため、元アイレップ社の横田氏をカントリーマネージャーに据えた米大手DSPのMediaMath。今回は、カントリーマネージャーに就任した横田氏にDSP「TerminalOne」の特長とは? アメリカがインハウスでDSPを運用する理由、MediaMathが目指す世界観とは? など、同社だから語れるプログラマティックな領域の今後の展望を聞いてきました!

全世界の5000社のインターネットマーケティングを担うMediaMath

MediaMathとはどのような企業ですか?

MediaMathは2007年に創業し、DSPを中心としたマーケティングOSを提供するグローバル企業です。現在本社はニューヨークにあり、12か国にオフィス、9か国にデータセンターを構えています。NYに本社があることからサンフランシスコにあるシリコンバレーにあるインターネット企業とは雰囲気が違っており、経営陣のバックグラウンドを見ても、金融やコンサルティング、マーケティング関係といった人も多く、テクノロジーに特化したプロフェショナル集団であると言えます。

MediaMathが提供しているプロダクトは、DSPを中心としたマーケティングOS「TerminalOne」、ソーシャルメディアのキャンペーン管理を行う「Upcast」です。

MediaMathにはどんな特徴がありますか?

MediaMathの特長の中で代表的なものを挙げると以下の3つです。

1つは、プログラマティックマーケティングのリーダーとして市場を牽引してきたことです。MediaMathは技術開発に熱心に取り組む会社で、2007年というアドテクノロジー市場が未成熟だった時代に創業し、2008年には世界初となるRTBのテクノロジーを開発しDSPの提供を開始しました。その後は、最近話題となっているPMP(プライベートマーケットプレイス)も日本よりかなり早い2011年から提供を開始していて、現在も様々なチャレンジを続けています。

2つ目の特長は、MediaMathがデマンドサイドに特化した事業展開を行い、広告主の成果の実現に注力していることです。競合他社の中にはデマンドサイドとパブリッシャーサイドの両サイドの事業を行っている企業もありますが、MediaMathは創業当時から変わらず広告主だけと向き合っています。MediaMathはテクノロジーに特化していると語られてしまうことも多いのですが、実際は広告主の方により高い投資対効果(ROI)をもたらすことを一番大事にしています。

最後の特長は、グローバル企業として、クライアントやパートナーの提携数が多いことです。現在300社を超えるテクノロジーベンダーと提携し、あらゆる広告主からのニーズに応えられるようにしています。MediaMathは成長の過程で自社開発だけだと市場の成長や広告主のニーズに追いつかない部分があったので、歴史の中で数々の買収を行っています。2013年にはアカマイ・テクノロジーズの「Akamai Advertising Decision Solutions(ADS)」というクッキーレスのトラッキングテクノロジーを買収しました。その他にも昨年にはソーシャルメディアのキャンペーンを管理するUpcastを買収しました。facebookやTwitter、iADなどが繋がっており、「TerminalOne」と合わせ、クロスメディアでターゲットへのリーチができるようになっています。

2008年にDSP事業を始めて8年目だと思いますが、現在MediaMathではグローバルで何社のクライアントがいるのですか?

全世界で5000社程度のお客様がいます。ご理解をしていただきたいのは、アメリカと日本ではDSPの利用状況が異なっているということです。日本だと代理店が10から15程度のプラットフォームを使って運用を行いますが、アメリカやヨーロッパでは一度契約をするとプラットフォームを絞る傾向にあるため、MediaMathのプラットフォームだけ使うというケースがほとんどです。代表的な業種を挙げると、総合ショッピングモール、グローバルオークションサイト、大手ファッション、米デパートなど幅広い企業にご導入頂いています。

このようにDSP事業社を絞って運用するという背景には、海外ではインハウスが発達しているため、運用する人材がしっかりとクライアントサイドに在籍しているというのが大きいと思います。その他にも、大きい企業になればなるほど1st Party Dataの情報量も多く、ひとつの代理店に任せることが出来ないという課題を抱えていたり、複数の代理店、もしくはDSPを使うことが非効率であるという理由もあります。もちろん、このインハウス文化が日本のスタンダードになるわけではないと思いますが、特に1st Party Dataの活用などの面において、このような問題意識は広まってくるのではないでしょうか。

MediaMathの差別化ポイントとは

グローバルで活躍する様々なDSPがありますが、競合となるのはどの企業になるのですか?

DSPというツールとしての競合は、Google社のDoubleClick Bid Manager、AppNexas社、TURN社などです。いわゆるグローバルでテクノロジーを活用したマーケティングを行っている大手企業です。アメリカのケースではありますが、昨年弊社のマーケティングの部門が発表した資料によると、昨年20回程度競合企業と運用コンペティションを行って、弊社DSPの勝率が9割だったというデータも発表されています。

運用コンペティションで勝率が9割になった理由は何だと思われますか?

勝因の1つはテクノロジーだと思います。「TerminalOne」は透明性とコントロール性が高いという特長があり、日頃の運用で蓄積したデータが管理画面上で分かりやすく可視化され、そのデータを見ながら運用者が一つ一つ細かな設定に手を加えることができます。

また、アドテクは人が運用するものなので、運用ノウハウを持っているチームを所有していることも理由の1つだと思います。弊社にはプラットフォームソリューションズという部署があり、お客様に対し、どのような運用をしたら成果が出るかというのを熱心にコンサルティングしています。アドテクノロジーを利用するツールだけを提供するということは行っていないので、日々、MediaMath内にノウハウが溜まり、このような成果が出せたのだと思います。

その他に日本のDSPと差別化となる部分はありますか?

弊社がアドテクに先進的なアメリカを拠点にしていることで、先進的なお客様からの常に新しい要望をヒアリングすることができます。最近では、DSPをブランディングで活用することも多く、ブランディングをDSPで行う場合に、どういった指標で運用するべきか、どうブランドリフトを達成するかなどを、事例を交えながら一緒に考えていけるのはグローバルDSPならではの強みで、日本の担当者から喜ばれるポイントではないでしょうか。

また、現時点だと、日本のローカルDSPではPMPの管理機能を持っていない、もしくはPMPの機能を開始したばかりの企業がほとんどなので、そのあたりに興味のある方にも参考になるお話ができると思います。

グローバルDSPだからできること

MediaMathとして日本のローカルのDSPをどのように見ていますか?

日本という代理店文化の根づいた特殊な市場で、しっかりとしたポジションを築いていると思います。一方で日本企業のDSPは日本市場の中だけで利用されているので、弊社とは成立の仕方が違うなと思います。

広告主が世界規模のDSPを利用するメリットは何なのでしょうか?

グローバルスケールという部分だと思います。世界中のクライアントの要望を吸い上げ、技術開発の人材投資をしたり、買収をしたりして、いち早く要望にお応えします。なかでも現在はクロスメディア対応に注力していて、ソーシャルネットワークの統合やクッキーレスの対応なども行っています。昨年にはTactadsという、端末を横断したターゲティングやクッキーに依存しないターゲティングの技術を保有する会社を買収しました。もうすぐクロスメディアアプローチができるようになります。

またメディアの在庫もグローバルスケールで膨大に持っています。「TerminalOne」は、世界中のメディアとパートナー契約を結んでいるため、2015年初めの実績で、月間約2.4兆インプレッションの在庫にリーチが可能です。

鍵は「人材教育」

近年、業界の中では、アドテクのプレイヤーが増えたことで広告の配信経路が複雑化し、その透明性について議論されています。DSPの役割についてどのようにお考えですか??

それぞれの国でビジネスの考え方は様々なので一概には言えないと思います。日本のように、成果を達成するプロセスが明確ではなくても、結果的に目標を達成できていればそれが正しいという考え方があります。しかしその一方で、アメリカでは、透明性を持って運用を行いたいというニーズは確実に高まっています。つまり、クライアントが今使っているコストが本当に適切なのか、達成プロセスは再現性があるものなのか、この課題に対する1つ流れが、DSPのインハウス化ではないかと思います。

DSPをインハウス化するメリットとデメリットを教えて下さい

DSPをインハウス化するメリットは、1st Party Dataを含む様々なデータ管理を社内で行える点、また社内の事業サイドと連携することでキャンペーンの一貫性を保つことが出来るという点です。

デメリットはやはり人材投資の部分です。テクノロジーを活用する人材は1日では育たないので、社内でDSPの運用を行うためには年間を通してPDCAを回しながら運用を行う人材を教育し雇用し続けるという大きな体力が必要です。インハウス化というのは、人材投資に対する考え方と言ってもよいと思っています。人材投資を社内にするか、社外にするかということです。クライアント企業に人を派遣することが広告代理店などのマーケティング企業の役割のひとつになるのではないでしょうか。

このような背景からMediaMathでは人材の教育に力を入れており、「New Marketing Institute」というプログラムを用意しています。これはインターネット広告の広義の意味から細かな運用の知識などを学習できるトレーニングプログラムです。学習練度のレベルを分けて、オンライン広告の歴史や、プログラマティックとは何かという基本的な部分から学習を始め、講座とテストを繰り返しながらより深い内容を学習していきます。そして受講が完了すると認定資格を取得することが可能です。このプログラムには、アメリカだけで5,000名以上の方に参加頂いています。参加者は大企業の広告運用担当者から、広告代理店のプランナーなど様々で、例えば、これまで以上にデジタル広告の領域に力を入れる為にアメリカの地方都市で広告代理店を営んでいる中小企業の社長さんなどもこのプログラムに参加しています。基礎的な部分から、実際に「TarminalOne」を利用してみる講座や「TarminalOne」のケーススタディを学ぶ講座などもあります。

実はこのプログラムの初級編を、今年後半から日本でも開始したいと考えています。日本では、プログラマティックの概念もまだまだ色々な解釈がされています。人材教育に対する啓蒙やPRといった活動がいまの日本には必要だと思っており、多くの方に受講して頂きたいです。

御社は今後日本においても原則インハウスでMediaMathのDSPを使ってもらう方針なのでしょうか?

インハウスの事例はアメリカでは広く取られている方法ですが、日本では代理店が重要な役割を担っていると思います。まずは代理店と一緒にクライアントの課題に応えてながらソリューションを提供していくことを優先したいと思います。

MediaMathが目指すテクノロジー×人が作り出す世界観。
- テクノロジーのみでパフォーマンスを出すなんて幻想である

MediaMathさんは今後どのような世界観でDSPを提供していくのでしょうか?

テクノロジーの本質的な話にもなると思いますが、本来技術は、人間の知恵や考え方を補完するものだという考え方があると思います。例えば、私は過去にサーチ業界に在籍していたのですが、10年くらい前に自動最適化ツールが何社か日本に参入してきたことで、運用者の作業が大幅に軽減されるのではないかと期待をしました。確かに作業は軽減されたのですが、より高い成果を出すためにはマニュアルの運用との組み合わせが重要にだということに気づきました。アドテクノロジーツールというのは、経験値と実力がある運用者が、より高い成果を実現するためにあるものだと思います。

過去と比較して、アドテクで実現できることは増えました。しかし、それに伴ってテクノロジーを管理する担当者が増えたという企業も多いのではないでしょうか。つまり、テクノロジーは人の作業を完全には代替できないのです。そこで我々MediaMathは、テクノロジーにより最終的な決断まで行うための最適な情報や、フィードバックを行えるツールを提供したい。どれだけ技術が発達しても、すべてのデータをインプットして、勝手に良いパフォーマンスを出してくれるといった世界は幻想だと思います。

実際に運用者に話を聞くと、MediaMathのプラットフォームは一見複雑に見えますが、様々なターゲティング手法が備わっていたり、幅広いデータが取得が可能であるという点で最適化を行い易いとのことでした。最終的には、能力のある運用担当者が本当に使いやすい、つまりは成果の出しやすいテクノロジーを提供していくことがMediaMathの目指す方向です。テクノロジーが発達すれば発達するほど、運用者の能力や知恵の重要性が増してくると思います。

最後に一言お願いします

私は以前オーバーチュアという会社に勤めていました。オーバーチュアではサーチの業界に人材を輩出してきたので、将来的にはMediaMathという会社が日本の市場に対してプログラマティックな人材をしてきた会社と思われるようになりたいなと思っています。自身の歴史を振り返ってみると、リスティング広告、サーチ業界を作ってきたなという自負があるので、これからはこのプログラマティックな領域の発展のために尽力したいです。MediaMathには今後若手の人材が入社してくる予定もあるので、今30歳くらいの若手の社員が40歳前後になったときに日本のプログラマティック業界をリードしていて、新しいテクノロジーが他国から入ってきたときに日本支社の代表になってるみたいなことになったら、とても嬉しいですね。

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本稿は、adingo Marketing Magazineに掲載された記事を転載したものです。