今年、世界最大のSSPである「PubMatic」は、ソネット・メディア・ネットワークスとの業務提携を行い、本格的に日本でのSSP事業をスタートしました。日本のマーケットにどのような魅力を感じたのか? 既存のSSPの問題点は何なのか? そして彼らが目指す世界とは? 日本法人代表である前川さんに深く切り込んで聞いてきました。

PubMaticの特徴は、とにかくメディアしか見ないこと

まずはPubMaticとはどのようなサービスなのか教えて下さい

私たちPumMaticは、2006年にアメリカで設立されました。事業内容は、プレミアムなパブリッシャさんに重点を置いて展開しているSSPです。世界中に様々なSSPがありますが、我々はその中でも特に対パブリッシャさんに特化しているところが、他のSSPとは一線を画した存在であると認識しています。

現在私たちは、世界中で事業展開を行っており、今年の4月から日本でも事業を開始しました。まだまだ日本のマーケットでは、啓蒙活動のフェーズなのかなと認識しています。

サービスの特徴は、通常のSSPさんがされているイールドマネージメントに加え、ユニファイドオプティマイゼーション、プライベートマーケットプレイス(PMP)を、PC・モバイルデバイスにかかわらず1つのプラットフォームで世界中で展開しているところかと思います。

SSP最大手としてもう1社「Rubicon Project(以下Rubicon)」という会社がありますが、彼らとの違いはどのようなところにあるのでしょうか?

最も大きな違いは、Rubiconさんは、メディア側のSSPという立ち位置から、徐々に広告主とメディアの間の立ち位置にシフトしているところです。徐々にSSPというメディアサイドの立ち位置を広告主サイドへ移し、アドエクスチェンジとしての要素が強まりつつあるのかなと思っています。その方向性の違いが、最も大きな違いです。

また、日本進出の方法についてお話ししますと、おそらくRubiconさんはダイレクトでパブリッシャさんの獲得に動かれていますが、我々は戦略的にソネットさんとパートナーシップを組んで営業活動を行っています。そこも大きな違いです。

「日本に本物のSSPはいない」海外SSPだからわかる日本市場の特徴とは?

日本進出に関してどのようなところにチャンスを感じたのですか?

日本のRTB市場は、今後世界第2位まで発展すると言われています。我々にとって、その巨大なマーケットは非常に大きな魅力です。これが1つ目の大きなチャンスです。

もう1つ、私が感じている魅力は、現在の日本のバイヤーとセラーの力関係です。

私は、日本の市場は明らかにデマンドサイド(広告主側)に力が偏っていると思っています。これは私の前職のコムスコアの時代から感じていました。現在デマンドサイド(広告主側)のイノベーションは、非常に多く日本国内に入ってきており、その結果、よりターゲティング精度が高く、より広告効果の高いインプレッションを、安く買い付けられるという状況になっています。そうなると、メディアは値段を下げてでも自分たちの枠を提供しないとマネタイズができない、結果としてGoogle AdExchangeに頼らざる得なくなって、疲弊してしまう。このような状況が日本では発生していると考えています。現在日本のDSPが、たくさんのテクノロジーやソリューションをデマンドサイド(広告主側)に提供しているのに対し、日本のSSPは、残念ながら十分なソリューションをメディアに提供できていません。そこをPubMaticという会社ができる限りやっていきたいと思っていますし、チャンスも大きいと思っています。

どのような理由から、日本ではデマンドサイドとサプライサイドの不均衡、SSPが機能していない状況になっているとお考えですか?

サプライサイド(メディア側)がデマンドサイド(広告主側)のことを知らなさすぎというのが1つ大きな理由だと思います。

メディアはもっとデマンドのことを知るべきです。もっとデマンドサイドの開拓をするべきだし、それを行うためにどのようにすればいいのかを、SSPと共に考えていく必要があると思っています。単純に愚直に営業して純広告だけを売っていてもダメだし、かといって、すべてをRTBにすればいいのか? というと、それはそれで違うと思います。メディアマネタイズについて、どのようにすればもっとも効果的なのかをメディアさんと共に考えるのが本来のSSPの姿であり、それを手助けするのがプログラマティックと呼ばれるテクノロジーだと思っています。

実際に私がメディアさんとお話をすると、非常に良質な在庫をお持ちなのに、「いやーうちなんかじゃ買ってくれる広告主さんなんていないですよ」という方がいるんです。けれどもそれは絶対に違います。きちんと自分たちのインベントリー(在庫)を理解して、広告主に正しく提示し、広告主が価値があると判断すれば高くても必ず買いますから。まずは自分たちの魅力を正しく自分たちが理解して、きちんとデマンドサイド(広告主側)伝えていくことが重要だと思います。

冗談みたいな話ですが「純広? 売れないよ。ディスプレイ広告? 単価低いし。最近何がはやっているんだろう? ネイティブアドだ!ネイティブアドに行こう!」みたいな状況が本当にあるじゃないですか? 別にネイティブアドが悪いわけじゃないですが、もっと考えていただきたいと思います。結局大切なことは、純広告だろうがRTBだろうが、ネイティブアドだろうが、メディアさんが持っている価値を、いかにマネタイズに活かしていくのかということです。それにはメディアさんの知見も必要ですし、テクノロジーも必要です。そしてもちろんそのテクノロジーを活用するためには、PubMaticのようなSSPというのは不可欠な存在であると信じています。

メディアさんからすると、なるべくSSPに任せたいというニーズはありますよね?

パートナーとしてSSPを利用することと、マネタイズを丸投げするのは全然違います。プログラマティックはAutomation(自動化)といえば、確かにそうなのですが、すべてが自動で、何も人間がしなくていいかというとそうではないはずです。プログラマティックの中にも、メディアの特性を理解している人が運用するからこそできる領域、メディア担当者でないとやれない領域が必ずあるはずなんです。メディアさんにもそこは理解いただきたくて、広告枠をSSPに預ければすべてマネタイズがうまくいくなんてことはあるわけがないんです。「3ヶ月で効果が出なかったら辞めます」とSEMのトライアルみたいな言い方をされる方もいますが、そんな軽い気持ちで自分たちのマネタイゼーションを考えないでほしいと思います。SSPとメディアは中長期的なパートナーシップできちんと取り組んで行くという姿勢が必要です。SSP魔法の杖じゃないので、お互いが様々なこと理解してはじめて成立すると思っています。

それに加えて状況がより悪くなっているのは、Fluctさんがいる前で言いづらいですが、SSPは魔法の杖であるかのような誤った考え方に、あえて乗っかって営業しているSSPさんがいるということです。「うちに任せてもらえれば全部マネタイズしますよ」「ほら、ちょっとCPM上がったでしょ? これがSSPのパワーです!」と平気でいう人たちもいます。結局メディアがきちんと学習をしなければ、本来助けてくれるはずのSSPさえ助けてくれない状況になるんです。

日本には現在たくさんのSSPがありますが、それらのSSPが日本で成功していたのか? というと、私は決して成功していないと思っています。PubMaticはレッドオーシャンの日本のSSPマーケットに入ってきたとおっしゃる方もいますが、私はまだまだブルーオーシャンだと思っているんです。「SSPとはどんな存在なのか? 」ということすらわかっていない方がこれだけいるわけです。その状況は早く改善すべきだし、PubMaticとしてできることがあれば、できる限りやっていこうと思っています。

その他に日本のマーケットの特徴などはありますか?

日本では多くの会社がDSPとSSPを両方されていますよね。これは素晴らしい側面もあるのかもしれませんが、危険な側面もあると思うんです。本来利益が相反するこの2つのプラットフォームが1つの会社にあるというのは非常に難しいはずですし、果たして利益を最大化すべき広告主とメディアそれぞれに最適な提案ができるのだろうか? どうやってやっているのだろう? というのは正直疑問です

PubMaticは冒頭申し上げた通り2006年からSSP専業でやっています。PubMaticがデマンドサイドに動くことはないですし、今後もDSPをはじめることは絶対にありません。

実は、日本支社を作るときに本社から日本のマーケットリサーチに数名来たのですが、そのときに言われたのが、「日本はDSPが本来DSPがすべきことをやっていない、SSPが本来のSSPの役割を担っていない」ということなんです。どこかアドネットワーク的というか、エクスチェンジ的な要素が強いですよね。海外にもSSPとExchangeを同義であると考えている人たちが実はいるんですが、日本でも多くの人がそう考えています。けれどもこの2つはまったく違うものです。デマンドサイドとサプライサイドをつなぐのがExchange、SSPは必ずメディアサイドに立ち、メディアさんに特化した動きを取るものがSSPだと考えています。本来立ち位置が違うものを同じものとしてとらえてしまっている状況もあるかと思います。

一方で、広告主の特徴に日米の差はあるのでしょうか?

日本は明らかにダイレクトレスポンスの要素が強いですね。アメリカでは、ディスプレイにブランディング効果の要素を取り込む取り組みというのは、日本よりも先進的だと思います。単純なクリックやコンバージョン以外の効果がディスプレイ広告には明らかにあるということをきちんと証明する取り組みというのが行われています。

日本でもこの動きは最近高まってきていますが、ここは是非継続していただきたいですし、メディアサイドの我々としても、クリックやコンバージョン以外の価値をきちんと伝えて行く努力はしていかなければならないと思っています。

PMPが次のキーワード? ワークフローの自動化は1つの大きなチャンス

PubMaticで行われる取引はどのようなものがあるのでしょうか?

まずこの概念図をご覧ください。

これまでRTBと呼ばれていたものは、一番下の「オープンマーケット」と読んでいるものです。これは、いわゆる日本でも一般的に行われているRTB取引のことです。すべてのDSPに枠が開放され買い付けできるチャンスがある一般的なRTB取引のオークションスタイルです。

加えてオープンオークション以外の上の2つを合わせて、私たちは「プログラマティックダイレクト」と読んでいます。「プログラマティックダイレクト」には「プライベートマーケットプレイス」と「オートメーティッドギャランティード」と呼ばれる2つの取引形態があります。

近年日本でも話題になっているプライベートマーケットプレイス(PMP)は概念図の黄色の部分です。PMPは、あらかじめデマンドサイド(広告主側)とサプライサイド(メディア側)で価格などについて同意されたDSPだけが参加できるオークションです。これはオープンマーケットと違い、あらかじめ価格や条件をメディアが決められますから、メディアサイドの考えや意思を反映させやすいというメリットがあります。

一番上のオレンジの「オートメーティッドギャランティード」は、純広告だと思って下さい。ただし純広告を配信するために必要な様々な業務(ワークフロー)をSSPを利用して自動化することで運用コストを一気に下げることが特徴です。

通常だとメディアが広告枠を販売する場合、営業が純広告の営業を代理店さんなどにすると思うのですが、PubMaticを利用してPMPなどのプログラマティックダイレクトで取引を行う場合、営業活動はどのように変わるのでしょうか?

PubMaticとDSP等のデマンドサイドが接続すると、PubMaticを利用しているメディアさんは、自分の枠をどのような条件で、いくらで販売したいと思っているのかをオンライン上からリアルタイムに接続先のデマンドに「呼びかける」ことができます。つまり管理画面上からオンラインに営業活動ができるわけです。もちろんその中で個別のDSPやトレーディングデスクにアプローチしたいと思えば、管理画面から特定のデマンドへメールでアプローチする機能なども備えていますし、基本的には、なるべくSSPのプラットフォーム上で取引上必要な活動・作業は解決するようにしています。

私たちはプログラマティックの1つの大きな要素の1つに「ワークフローのオートメーション化(自動化)」というものがあると思っています。これはなるべく取引にかかる様々な手続き、たとえば営業活動や請求処理などもプラットフォーム上でやってしまおうというものです。このコストを下げていく動きというのは現在非常にアメリカでも盛んで、なるべくプラットフォームを利用することで日々の作業を減らしていこうという動きが活発に出てきています。

実は日本のお客さまにPubMaticのご紹介をしたときに非常に興味を持っていただいている部分もこのワークフローの自動化を含めたPMP(プライベートマーケットプレイス)の部分なんです。もちろん既存のメディアレップさんとの位置づけの違いだったり、日本独特の市場環境の中で適応をさせていく必要はありますが、PMPに対する興味は非常に高いので我々としてもそのニーズをきちんととらえていきたいと思っています。

PMPなどPubMaticのプラットフォームを最大限に活用しようとなると、ある程度プレミアムな媒体が親和性が高くなるのでしょうか?

ここは非常に大切な話で、プレミアムというのは実はインプレッション量が多いという意味と必ずしも同じではないということが重要だと思っています。インプレッションはあまり多くはなかったとしても、より何か特化した情報をお持ちのメディアさんは「プレミアム」という枠組みに位置づけられるでしょうし、良質なコンテンツを広いユーザーに提供しているところも「プレミアム」として位置づけられるべきだと思います。「プレミアム」とは何なのか? と考えると、必ずしもインプレッションの量だけではないということは非常に大切な考え方だと思います。

また、仮にインプレッションが少なかったとしても、複数のメディアがコンソーシアムのようにつながることで、1つの大きなプライベートマーケットプレイスを作ることは、デマンドサイドにとって、サプライサイドにとっても次の大きなチャンスとしてあるのかなと思っています。

PubMaticがソネットメディアネットワークスを選んだ理由とは?

PubMaticは日本進出にあたり、ソネットメディアネットワークスをパートナーに選ばれました。2つの会社の関係性と、どのような理由から選ばれたのか教えて下さい

ソネットメディアネットワークさんは、私たちの日本進出における最重要のパートナーとして、主にメディア開拓のパートナーシップの部分でパートナーシップを組んでいます。従いまして、PubMaticはバックエンドでパブリッシャさんのサポート、デマンドサイドとの調整・連携、テクノロジーの部分を主に担当し、ソネットさんにはメディア開拓をお手伝いいただくという役割です。

私たちがソネットメディアネットワークスをパートナーとして選んだ理由は、ソネットさんが以前からやっていたビジネスと我々のビジネスとの親和性を感じたからです。私たちにとって、ソネットさんが既に持っていたメディアとのパイプには非常に魅力を感じていたし、ソネットさんが最もパートナーにふさわしいと感じてパートナーシップを組みました。

モバイルのマネタイズに関してはどのように取り組んでいるのでしょうか? また課題はありますか?

モバイルのマネタイズはまだまだこれからだと思っています。モバイルの価値をどのように見い出すのか? ということをより考えていかないといけないと思っています。

ただし、間違いないのは、デマンドサイドから考えると、1つのSSPのチャネルからPCにもモバイルにもすべてのインベントリ(在庫)にアクセスできたほうがいいということです。よってPubMaticは今後もワンプラットフォームですべてのインベントリ(在庫)にアクセスできるプラットフォームであるべきだと考えています。

PubMaticは去年モバイルのアドサーバーのmoceanを買収しました。SSPとアドサーバーは極めて親和性が高いと思っていますし、海外ではすでに積極的に動き始まっていて、非常に大きなコマースさんなどで話が進んでいます。日本でもいち早く進めていきたいと思っています。

ただし、日本は今までの歴史もあってモバイルの単価がまだまだ非常に安いのが現状です。このような新しいイノベーションが浸透することによって、これらの状態が好転するのではないかと考えていますし、そこはパブリッシャさんと共に努力していきたいと思っています。

PubMaticが考える今後のイノベーションとは?

今後よりメディアがプログラマティックに移行してくるとどのようなイノベーションが起きる可能性あるのでしょうか?

たとえばモバイルでいうとたとえば位置情報をつかったキャンペーンなどもアメリカでは始まっていますし、様々な新しいイノベーションが起きはじめています。

日本は残念ながらまだまだSSPが本当のSSPではありません。ただ我々のような海外のプレイヤーも積極的に参入することで、今後日本でも本当のSSPが生まれてくること、それ自体がイノベーションなのではないかと考えています。

最後に何かメッセージはありますか

PubMaticが日本に対して感じているチャンスは非常に大きいです。本当に本気でやろうとしていますし、日本のマーケットを本気で変えようと思っています。よくある、外資系の会社が小さなブランチの1つとして日本に来ているわけではなく、本当に本気で日本で参入しようとしています。今後非常に積極的に採用を行っていきますし、何より日本の市場を最適で正常なマーケットに変えていきたいという思いがあります。

この思いに共感いただいて、一緒にやりたいというような人がいたら来てほしいと思っていますし、ディスカッションをやりたいメディアさんがいたらどんどん連絡をしていただきたいと思います。テクノロジーについて、マーケットについて、やりたいことがあればどんどん連絡してきてください。ともに日本のパブリッシャ市場を変えていきましょう。

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本稿は、adingo Marketing Magazineに掲載された記事を転載したものです。