物質・材料研究機構(NIMS、茨城県つくば市)で、世界最高磁場となる超1GHz核磁気共鳴(NMR)システムの開発が大詰めを迎えている。超伝導磁石の磁場を8月から徐々に上げ、10月1日、ついに1GHzを超えて1001MHz(23.5テスラ)の世界最高磁場を発生させることに成功した。研究チームが10月2日発表した。

写真. 世界最高磁場の1001MHzの発生に成功したNMR磁石と研究チーム。2列目右端の遺影が木吉司博士、その左が研究チーム代表の清水禎NIMS強磁場ステーション長=10月1日、茨城県つくば市のNIMS強磁場ステーション(提供:物質・材料研究機構)

開発したのは、NIMSの強磁場ステーションを中心として、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター、神戸製鋼所、JEOL RESONANCEからなる20人以上の研究チーム。NIMS強磁場ステーションに新しいNMR磁石を設置して、より高性能、高分解能の解析ができるNMRの実現を目指して、研究開発と実験を重ねてきた。

この超伝導磁石の最大の特徴は、既存のニオブ系超伝導材料でなく、新しいビスマス系高温超伝導線を用いることで、より大きな電流を流して、従来の技術の限界だった1000MHz(23.5テスラ、ドイツが2009年に達成)を超える磁場を発生させることを可能にした点にある。プロジェクトは06年に始まったが、11年の東日本大震災による損傷に伴う2年間の大修理、研究代表者だったNIMSの木吉司(きよし つかさ)博士の急死(2013年1月)、同年の(超伝導状態にするために極低温を実現する)ヘリウムの供給危機など幾多の困難を乗り越えてきた。

今後も、設計上の限界値である1030MHz(24.2テスラ)に向けて磁場を上げる実験を続ける。研究チーム代表の清水禎(しみず ただし)NIMS強磁場ステーション長は「NMRの磁石以外の分光計などはほぼできており、システムとして磁石の開発だけが残っていた。完成していた磁石が東日本大震災で全部壊れて絶望的になったが、何とか持ち直して大修理し、NMR磁石として世界最高磁場を達成できた。木吉司さんらが取り組んできた足かけ20年の努力がようやく実った。日本の超伝導研究のシンボルのような到達点だ」と話している。