東京工業大学(東工大)は、欠陥構造を導入した多層カーボンナノチューブ(CNT)が燃料電池や金属空気電池などの空気極(正極)に応用可能な高い触媒活性を持つことを発見したと発表した。

同成果は、同大大学院 総合理工学研究科の脇慶子准教授らによるもの。詳細は、英国科学誌「Energy and Environmental Science」に掲載される。

今回、金属酸化物微粒子の触媒活性を利用してCNT表面にナノオーダの細孔を形成・制御することに成功した。この構造はCNTの新たな触媒活性や貯蔵特性を付与し、多方面への応用が期待される。また、欠陥構造導入後の多層CNTに金属不純物はほとんど残っていなかったことから、多層CNTの高い触媒活性は不純物によるものではなく、人工的に形成した欠陥構造によるものであることを確認した。燃料電池などの触媒は資源的に希少で高価な白金が使われている。このため、カーボンに金属や窒素を添加した触媒などの研究成果が報告されているが、触媒活性のメカニズムはこれまで解明されていなかった。

多層CNTのコストは1万円/kg程度と言われており、貴金属の1/100以下である。炭素触媒を充分に高性能化できれば、大幅なコスト削減が可能となる。今後の課題としては、耐久性の確認やさらなる高性能化が挙げられるが、今回開発した金属や窒素をほとんど含まない触媒は、炭素系触媒の活性を理解するための重要な手掛かりとなり、燃料電池や金属空気電池などの触媒設計に役立つと期待される。さらに、ナノ細孔を持つ多層CNTの構造を生かして、CNTの中空空間を利用したナノリアクタやドラッグデリバリーシステムなど様々な応用への展開などが期待できるとコメントしている。

欠陥形成プロセスの模式図