(左から)沖縄セルラー電話 代表取締役社長 北川 洋氏、多良間村長 伊良皆 光夫氏、カルティベイト 代表取締役社長 開 梨香氏、京都大学 経営管理大学院教授 若林 靖永氏、KDDI 総務・人事本部 本部長 村本 伸一氏

KDDIや沖縄セルラー電話、カルティベイト、京都大学 若林 靖永氏は共同で、沖縄の離島に住む子供達の教育環境と情報リテラシーを向上させるための「沖縄離島"15の春"旅立ち応援プロジェクト」を推進すると発表した。

同プロジェクトでは、子供達と共に英語で離島ガイドを作成する「Shimap!(シマップ)」と、タブレット端末を活用した「スマート教材」、親子ケータイ教室を離島でも開催する3つの施策を行なう。

Shimap!では、地図情報だけでは分からない島の貴重な自然や歴史、文化、特産品などをまとめたマップを作成。英語版を作成することで、世界に対する発信ができるほか、英語学習にも繋げられるメリットがある。また、子供達に郷土に対する誇りを持ってもらうことと同時に、ネットを活用した情報発信の楽しさも経験してもらう狙いがある。

続く「スマート教材」では、京都大学の若林 靖永氏の監修のもと、地元の教員と連携して島独自の教育特性に合わせた新たな教育カリキュラムを提供する。タブレット端末はiPad Airを沖縄セルラー電話がLTEモデルを無償提供し、屋外活用も視野に入れた取り組みを行なう。

最後の親子ケータイ教室では、KDDIと沖縄セルラー電話が共同で、中学3年生を子供に持つ親を対象に子供とのスマートフォンに対するリテラシーを養ってもらう教育を行なう。初めは北大東島と南大東島、多良間島の3島から開始するが、順次その他離島でも教室を開催する予定。

自立をサポート

沖縄県那覇市の沖縄セルラー電話本社で行なわれた会見には、沖縄セルラー電話 代表取締役社長 北川 洋氏、多良間村長 伊良皆 光夫氏、カルティベイト 代表取締役社長 開 梨香氏、京都大学 経営管理大学院教授 若林 靖永氏、KDDI 総務・人事本部 本部長 村本 伸一氏が登壇した。

初めにプロジェクトの説明を行なった開氏のカルティベイトは、離島にありがちな社会問題を解決するこういった事業を企画・コンサルティングを行なっている。

沖縄には学校がある離島が29島存在するが、そのうち病院や高校がある離島はわずか4島。隣接する島を除く23島に今回のプロジェクト名にもある"15の春"という問題が存在する。15の春とは、沖縄本島などの高校に進学する子供達が、生まれ育った島を離れて生活する際に起こる問題で、新しい環境になじめず孤立してしまったり、都市社会の流れに流されてしまい、非行に走ることがあるという。プロジェクトでは「自分の足で立てるようにサポートする」(開氏)ことを主眼に置いている。

続いて登壇した若林氏は京都大学で経営学を教えており、経営学のTOC(Theory of Constraints)を応用した「教育のためのTOC」をこのプロジェクトで活用する。これは、TOCの基本である思考プロセスを子供達自身に会得してもらうように開発したプログラムで「根本的に生きていく上で重要なことは何か」(若林氏)を考えるようにするものだという。

若林氏は沖縄に多数存在する離島が「特別な状況にある」と認識した上で「個々の島に寄り添った"現地主義"が大事だ」と話す。島にいる先生達と個別に打ち合わせを行なった上で、「子供達に求められることは何か、教育を充実させることで重要なことは何かを認識して考えていくことが大事だ」という。

島それぞれに最適化した教材を用意する上でタブレット端末の活用は重要だといい、その一方でタブレット端末がうまく活かされていない現状を嘆く。

「タブレット端末を活用した教育は多くの教育関係者が挑戦しているが、特定の問題、領域にしか使われておらず、なかなか成果に結びついていない。メリットを生かした教材を提供するには、個別で教材を最適化していくことが重要。"TOC"に沿ったカリキュラムを提供することで、新しい教育を提供していければ」(若林氏)

TOCカリキュラムによる「スマート教材」では、「基礎学力の向上」や「丸暗記だけではない、応用力の向上」、これらの学習効果による自信創出、コミュニケーション力向上を図っていくという。スライドやオンライン授業だけではなく、ムービーやチャットなども含めた多角的な活用を行なっていく予定だ。

これら"15の春"対策の活動を支援する存在が、沖縄地方で「au」サービスを提供する沖縄セルラー電話だ。同社は教育に利用されるタブレット端末30台と回線を無償提供。さらに、"15の春"対策として、ネットリテラシーを身につける「ケータイ教室」を離島で行なう。

沖縄地方でも先進的な教育を行ないたいという先生がタブレット端末をすでに利用しているケースはあるといい、そういった先生の中には「Wi-Fiモデルではなく、屋外でも使えて授業のフィールドを外に広げられるLTEモデルを利用したい」というニーズがあるという。今回の取り組みでは「Shimap!」で活用し、島をより深く知るような活用法を模索していくという。

また、スマートフォンを安心・安全に使うための「ケータイ教室」では、"15の春"を機に親元を離れる場合の「ネットの正しい使い方を知らずに旅立ってしまう」(沖縄セルラー電話・北川氏)ことによるトラブル回避を避けるために、基本的なスマートフォンの使い方からネットにおける個人情報の取り扱い方までを広く教えていくという。

KDDIの村本氏も「スマホやアプリで生活が便利になった一方で、犯罪に巻き込まれたり、ネット上のいじめに繋がっている」と語り、将来的に子供達が巻き込まれないように2006年からKDDIとしてケータイ教室を実施している取り組みを紹介。保護者や先生を含めて180万人がこれまでに受講しており、2013年度には過去最高の3000回の開催に至った。

最後に登壇した多良間村長の伊良皆氏は、子供達が中学を卒業すると村を離れることや、年長の子供は15歳で生活に入っていく厳しい環境だと離島の大変さを説明した上で「このプロジェクトの『ふるさとへの誇りを持つ』ことは良いことだと思う。自分と島に誇りを持って頑張ろうとしている子供達の励みになればなぁと思う」と語った。