大阪大学(阪大)は10月8日、細胞内に侵入した病原細菌が「オートファジー(自食作用)」によって殺される仕組みを明らかにしたと発表した。

成果は、阪大大学院 生命機能研究科/医学系研究科の吉森保教授、同・藤田尚信元助教らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、米国東海岸時間10月7日付けで米科学誌「Journal of Cell Biology」オンライン版に掲載された。

オートファジーを担う「オートファゴソーム」は、膜で包まれた直径約1μmのいびつな球形の「細胞(内)小器官」(細胞内部に存在する膜(生体膜)でできた袋状の微細構造体で、形状もサイズも役割も異なる複数の種類がある)で、必要に応じて細胞の中に現れ、細胞内に生じた老廃物などを包み込んで分解する働きを持っている。

そのオートファゴソームは細胞自身の成分だけではなく、侵入してきた病原細菌をも分解するという、免疫機能を持つことも吉森教授らはこれまでの研究で見つけていた。しかし、細胞がどうやって菌の侵入を察知してオートファゴソームを作って菌を包み込むのかはわかっていなかったのである。

細胞小器官の1つである「エンドソーム」は、細胞外の栄養などを取り込む役割を持つが、サルモネラを含む多くの病原細菌はそれを利用して細胞への侵入を行う。研究チームは、サルモネラがエンドソームから出ようと膜を傷つけるとオートファゴソームが形成され、エンドソームごとサルモネラを包み込むことを発見。そこで、ある試薬を表面に付着させた微小な人工のポリスチレンビーズを用いて、さらなる詳細な解析が進められた。このビーズは、サルモネラのようにエンドソームに入り、その膜に穴を開けるのでサルモネラの代用になり、かつサルモネラのように生きていて複雑なほかの反応を起こさないので侵入の解析に好都合なのである。

ビーズを用いた解析の結果、オートファゴソームは傷ついたエンドソームしかターゲットにしないこと、傷ついたエンドソームにタンパク質「ユビキチン」が結合し、それが目印となってオートファゴソームが周りに形成されることなどが確認された。画像1が、その様子を撮影したもの。細胞内に侵入した人工ビーズを包むエンドソーム膜に穴が開く(下段)。エンドソーム膜に穴が開くと結合するタンパク質に蛍光タンパク質(マゼンタ色)を繋いだもので検出。穴が開いた後にユビキチンが結合する(上段)。ユビキチンに蛍光タンパク質(緑色)を繋いだもので検出。この後にオートファゴソームが形成されるのである。

また、ビーズを細胞から取り出して調べて見ると、ビーズの周りにはエンドソーム膜があり、その膜の成分のタンパク質にユビキチンが実際に結合していた。次に、オートファゴソームの形成に働くタンパク質群「Atg」について調べると、それらはすべてユビキチンを介して傷の付いたエンドソーム膜に結合することが確認されたのである。遺伝子工学を駆使した実験により、Atgタンパク質がどのようにしてユビキチンに結合するのかも判明した。

画像2がそれを表した模式図。サルモネラは、細胞内小器官のエンドソームに入り込む(左)。その後、III型分泌装置という針のようなものをエンドソーム膜に刺して、自分のタンパク質を宿主のヒト細胞に送り込もうとする(中)。しかしエンドソーム膜に穴が開くと、ヒト細胞はそれを感知しエンドソーム膜にユビキチンをくっつける。ユビキチンが付くと、オートファゴソームを作るAtgタンパク質群がそのユビキチンに付きオートファゴソームが周囲に形成されサルモネラはエンドソームごと隔離・分解される(右)。

画像1(左):エンドソームの様子。 画像2(右):サルモネラにユビキチンが結合し、オートファゴソームが周囲に形成されるのを表した模式図

オートファジーがどのようにして、細胞内に侵入した病原細菌を感知してオートファゴソームで包み込んでいるのかは大きな謎だった。今回、実はオートファジーは細菌を狙っているのではなく、細菌によって傷が付いたエンドソームを隔離除去しようとしていることが確認された形だ。その時に細菌も同時に隔離されるわけだが、実はもしかすると細胞は細菌には気付いておらず、単に壊れたエンドソームを処分しようとしているだけなのかも知れないという。

最近、研究チームは別の細胞小器官「リソソーム」が破れた場合にもオートファジーで隔離除去されることを発見しており、細胞小器官として有名なミトコンドリアも膜に穴が開くとオートファジーで除去されることが以前から知られている。傷の付いた細胞内小器官は、がんや糖尿病、炎症などのさまざまな重要疾患の原因になることから、それを除去するのはオートファジーの普遍的な役割の可能性があるという。

今回、ユビキチンを介したAtgタンパク質の結合が、オートファジーによる損傷細胞内小器官の除去のメカニズムであることがわかったので、それらの疾患の治療や予防に役立てることができるかも知れないとしている。