ネットで動画視聴がふつうになり、レンタルビデオ屋さんも旧作100円キャンペーンなどで対抗するようになってきました。おかげで、シリーズもののテレビドラマをあまり躊躇せずに借りられ、カウチポテト・寝不足・メタボな生活ですが、ひろいものがあったんですよ。はい。それは、アメリカドラマの「NUMB3RS(ナンバーズ)」。ロト6とかじゃなくてですね、ミステリです。舞台はFBIと…理科大学。というと、日本のヒットドラマ「ガリレオ」みたいですが、NUMB3RSに登場するのは、物理学者ではなく数学者です。

NUMB3RSについては、国内の発売元であるパラマウント ジャパンのWebサイトやWikipediaなりを見ちゃえばサクッとわかるのですが、一応、基本スペックをおさえときましょう。まず、主人公は対照的なエプス兄弟。兄ドンは野球選手から転職したFBI捜査官。体育会系。弟チャーリーは大学の数学教授。16才で大学を卒業した20代の天才教授です。

物語は、兄ドン・エプスがとりくむ事件の解決に、弟チャーリー・エプスが、数学の知識を駆使して協力する。というスタイルになっています。シーズンは1~6(ファイナル)まで、1シーズン20話あまりですが、各話完結なので、どこから見ても、1話だけ見ても楽しめます。

さて、NUMB3RSでは、数学が犯罪捜査に使われるのですが、その使われ方は、従来のスタイルとは違います。従来のミステリで登場する科学は、アリバイやら密室やらを解くパズルのピースとして使われるのがほとんどです。これは古典の「シャーロック・ホームズ」でも、日本の「ガリレオ」もそうですね。

一方、NUMB3RSでは、そうした、犯罪パズルの道具としての数学はまれです。そうではなく、犯罪のパターンを読んで次の犯罪を防いだり、一見無関係なデータを組み合わせて犯人の居場所をつきとめたり、犯人像をしぼりこんだり、断片的な画像を合成して3次元の映像を作り出したりと、データと数式が犯罪を駆逐するさまが描かれているのです。使われている数学も、データマイニング、進化アルゴリズム、マルコフチェーン、ゲーム理論、デコンボリューションなど高等数学や情報工学、物理学がふんだんに登場します。あ、すみません、きちんと説明できません。デコンボリューションなんかは、ピンボケ画像を適当な関数をかませて、シャープな画像に戻すテクニックで、私も研究時代に使ったりしたんですけどね。劇中では、チャーリー・エプスがたくみな例えで、なんとなくわかるように説明するので、その辺は見てのお楽しみにしてください。

こうした数学は、もちろん数学の監修者がいて、実際に犯罪捜査にも使えるそうで、本もでています(「数学で犯罪を解決する(ダイヤモンド社)」。さらには、このドラマを教材にして、数学の授業が行われたりもしているとのことです。数学監修に協力したウルフラムリサーチ(数式解析ビジュアライズソフトMathematicaの開発元)も、専用のWebサイトを作っています。そして、2005年にはじまったドラマは、科学の楽しさを紹介するのに貢献したということで、科学普及についてのカール・セーガン賞(2006年)、国立科学委員会の科学普及賞(2007年)などを受賞しています。こうした賞をとっているとなると、教育番組の堅苦しい内容とおもいがちですが、数学抜きにエンターテイメントとみてもおもしろく、だからこそシーズン6まで作られたのでしょう。

NUMB3RSには、ほかにも科学屋にはマニアックな楽しみ方があります。舞台になっているのは、架空の大学の南カリフォルニア工科大学(英名では、Calfornia University of Science:CalSci)ですが、このモデルは、世界最高峰の理系大学の1つ、カリフォルニア工科大学(CalTech)と、南カリフォルニア大学(USC)です。そして、実際にロケ地もこれらの大学ですので、CalTechのミリカン湖周辺などが登場します。ミリカンは、電子一粒のエネルギーを測定して、ノーベル賞を受賞した物理学者で、CalTechの創始者です。外国の大学の様子など、なかなか見られないので興味深いですね。

日本のチャーリー・エプス

ところで、主人公の天才数学教授チャーリー・エプスは、13才でプリンストン大学に入学、14才で数学論文が学会に認められ、16才で卒業し、20代で南カリフォルニア大学の教授になる、超天才です。数学の最高峰フィールズ賞にもノミネートされるほどです。

もちろん、チャーリーは架空の人物で、そんな奴はいないよ。といいたくなるのですが、日本にも、似たような人がいました。それは、さきごろ数学の超難問「abc予想」を解いた、京都大学の望月新一教授です。この望月教授は、経歴がネットでも話題になりましたが、本当に天才です。16才でプリンストン大学に入学し19才で卒業。23才で博士号をとり、京都大学助手。32才で教授になっています。そして超難問を解いたと。彼はすでに40才を超えているので、フィールズ賞はとれないそうですが、しかし、いるところにはいるものですねー。本物の天才が。

NUMB3RS シーズン1 DVDパッケージ(出所:パラマウント ジャパンWebサイト)

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。