九州大学(九大)は、これまで不明となっていた皮膚外毛根鞘がんの原因遺伝子がMOB1であることを特定したと発表した。また、併せてMOB1が同がん以外のがんの発症にも重要である可能性も示した。

同成果は同大生体防御医学研究所の鈴木聡 教授ならびに西尾美希 助教、大阪大学大学院医学系研究科の板見智 教授らによるもので、米国科学雑誌「Journal of Clinical Investigation」オンライン版に掲載された。

皮膚の毛包の中でも外毛根鞘から発症すると考えられている皮膚外毛根鞘がんは、皮膚がんの0.05%とまれな腫瘍で、発症は高齢者に多く、頭部や顔面、四肢に好発することが知られている。発症者の多くが、腫瘍の直径が1~3cmまでの初期段階で来診することから、転移も少なく広範囲な摘出が施行されているが、それでも3~20%程度のリンパ節転移があり、予後不良となってしまっていた。

しかし、その原因遺伝子についてはこれまでまったくわかっていなかった。今回特定されたMOB1は、LATSキナーゼを調節するアダプタータンパク質で、MOB1がLATSキナーゼと結合することによってLATSキナーゼの活性を増強すること、LATSキナーゼは卵巣腫瘍、下垂体腫瘍、線維肉腫などのがん抑制遺伝子として作用することなどが報告されており、がん抑制遺伝子として作用する可能性が類推されていた。

今回研究グループでは、MOB1を欠損させたマウスを作製し、研究を進めたところ、MOB1完全欠損マウスは着床早期に致死となったことから、MOB1が発生に必須な分子であることが確認されたという。

また、MOB1を部分欠損させたマウスでは、その100%に皮膚外毛根鞘がんが認められたほか、骨肉種が24%、線維肉腫が22%、肝がんが19%、乳がんが16%、肺がんが5%、唾液線がんが5%、それぞれ発症していることも確認された。

これを受けて、ヒト皮膚外毛根鞘がんにおけるMOB1の発現を見たところ、約半数でMOB1の発現が顕著に低下していることが確認されたという。

この結果、MOB1が発生に必須の分子であること、ならびに種々の悪性腫瘍のがん抑制遺伝子として作用することが示されたこととなり、これまで原因遺伝子がまったく報告されてこなかった皮膚外毛根鞘がんの原因遺伝子として特定されることとなった。

研究グループでは今回の成果から、MOB1を標的とする化学治療法が主要に奏功する可能性が高いことが示されたとしており、現在、MOB1を標的とする抗がん剤の開発を試みているとのことで、これが転移のある皮膚外毛根鞘がんやその他の骨肉種、線維肉腫、肝がんなどにも奏功する可能性も期待できるとしている。

MOB1部分欠損マウスで見られた各種のがん