ハッブル望遠鏡がこのほど、巨大な銀河の衝突で残った暗黒物質「ダークマター」の塊と見られるものを銀河団「アベル520」で観測した。現在のダークマターの基本理論では、衝突の衝撃があっても銀河は目に見えないダークマターに引き寄せられると予測されているが、今回の観測結果はこの理論に異議を唱えるものになる可能性がある。

アベル520は、24億光年彼方に位置する、複数の銀河団が合併してできた大銀河団である。ダークマターは目に見えないが、重力レンズ効果と呼ばれる現象によって、その存在が確認されている。重力レンズ効果とは、反対側にある天体から届く光がレンズを通過した時のように、曲げられたり歪められたりする現象である。この重力レンズ効果によって、アベル520内のダークマターは中心部のダークコアに集中していることがわかるが、その中には、これまでの基本理論から予測されるよりも少ない銀河しか存在していない。

銀河団「アベル520」で観測されたダークマター

上の画像はダークマター、銀河、高温ガスの分布図だ。オレンジ色が銀河からの光、薄い緑色の部分は衝突が起こったことを証明する高温ガスを示す。青色の部分は質量の大きい場所を示しており、そのほとんどはダークマターだ。画像中心部の青と緑の混じった部分は、ダークマターの塊が高温ガスの周辺に存在していることを表しているが、そこには銀河がほとんど見られない。この結果は、銀河は重力によってダークマターに引き寄せられるという基本理論に疑問を投げかけている。

ダークマターの基本理論は、2つの銀河の巨大な衝突(弾丸銀河団:Bullet Clusterと呼ばれる)を可視光とX線で観測した結果を根拠としている。アベル520の観測結果からは、ダークコアにダークマターと高温ガスが集中し、通常ダークマターと同じ領域に分布する銀河はあまり含まれていないことがわかった。2007年にアベル520が観測された時は通常の状態とかけ離れていたため、天文学者は「データ不足で現実的ではない」と結論付けたが、今回のハッブル望遠鏡による観測はこの時の観測を裏付ける結果となった。

今回の観測では3つの可能性が見つかった。その1つはダークマターの塊が互いにぶつかり合い、接着したままの状態である、いわば「ダークマターが粘着質」という可能性だ。もう1つの可能性は、「アベル520は弾丸銀河団と異なり、3つの銀河団の衝突によって形成されたかもしれない」というものだ。最後の可能性は、「銀河は実は存在しているが、そこから発せられる光が微弱なため、ハッブル望遠鏡でさえも検知できていないのではないか」というものだ。

研究チームは今後、コンピューターシミュレーションを使って衝突を再現し、ダークマターの不思議な行動を解明できるかどうか確認する予定だ。