物質・材料研究機構(NIMS) 先端フォトニクス材料ユニットの岩長祐伸 主任研究員は、可視から近赤外の光領域で注目されているフィッシュネット型メタマテリアルについて理論的な光の伝搬解析を行い、負の屈折現象を可能にする逆進的な光の流れを解明したことを発表した。同成果は米国光学会発行の速報誌「Optics Letters」で公開される予定。

図1 フィッシュネット型メタマテリアル(金属/絶縁体/金属の3層に穴の空いた積層構造)の模式図。石英基板上に作製した場合が描かれており、空気側(手前)から光が入射する配置を考える

水やガラスのような均一透明媒体における屈折現象は日常的に見られるものであり、よく知られているが、これらは正の屈折率に起因するので正の屈折現象と言える。一方で負の屈折現象はかつて空想上のものであると考えられてきたが、近年、人工周期構造体でその周期長が光(電磁波)の波長よりも小さいメタマテリアルと呼ばれる物質において、負の有効誘電率・透磁率を仮定すると負の屈折現象が起こることが予見され、検証実験でも肯定的な結果が得られていた。しかし、この新奇な現象を利用して新たな光デバイスを開発するためには仮定やモデルに依存せず、現象を正確に理解し定量的に記述することが必要であった。

図2 屈折現象の模式図。左は正の屈折現象を表している。一方、右の負の屈折現象では、屈折角が負(-α)になる

岩長氏は、光領域で最も代表的なフィッシュネット型メタマテリアルの電磁波固有モード(期構造体による空間的な制限があるために、電磁波が形成する特有の状態。空気中の光(平面波)とは異なった空間分布を形成する)の研究を実施し、エネルギー・入射角度依存性の理論解析によって負の屈折現象を起こす電磁波固有モードが負の群速度をもつ平面的な光であることを明らかにした。

さらにマクスウェル方程式を直接解いて、電磁エネルギーの流れがメタマテリアル内部において、入射波の進行方向に対して負の方向に誘起されることを示した。

図3 絶縁体層中央の電磁エネルギー流。単位胞を示しており、カラーは強度、円錐はベクトルを表している。入射角度は30°で、入射光は正のx成分をもち、導波路モードは負のx成分の流れを示している

これにより負の屈折現象を担う電磁波固有モードが直接的、定量的に明らかになったという。

図4 今回明らかになったフィッシュネット型メタマテリアルにおける負の電磁エネルギー流の模式図。絶縁体からなる中間層で強い負の流れが誘起される

メタマテリアルは光の波長よりも小さい周期長からなる人工構造体であることから、極小光デバイスのための材料として期待を集めている。今回の研究による理解の深化をもとに負の屈折現象を超解像イメージングや超解像リソグラフィに用いる研究開発の精密化を促進することが期待されるほか、今回の負の流れをもつ光波の発見は極小空間における光の切り返しを可能するため、光デバイスの極小化にもつながることが期待されるほか、高精度の光位相変調素子開発の学術的基盤となる可能性があるという。