AdobeにとってのHTML5

Flash vs HTML5と囁かれた時代は終わった。Flashの開発元であるAdobe Systemsは、HTML5もFlashと同様にWebのユーザエクスペリエンスの強化のために不可欠のものと考えており、自社製品においてHTML5のサポートを強化していく方針を明らかにしている。

それを強調するべく、同社のCTOであるKevin Lynch氏はユーザカンファレンス「Adobe MAX 2010」の基調講演において、8月にリリース済みの「HTML5 Pack for Dreamweaver CS5」や新製品「Edge」のプロトタイプを紹介した。また寸劇形式で行われた2日目の基調講演ではセサミストリートのパロディで"Flash君"と"HTML5君"が登場したり、jQuery開発者のJohn Resig氏とともにDreamweaver CS5による「jQuery Mobile」サポートを紹介するなど、HTML5に対する同社の姿勢を重ねて訴えた。

上記以外にも、すでにIllustrator CS5においてもHTML5をサポートすることが発表されている。また、Webブラウザ向けのレンダリングエンジン「WebKit」など、OSSプロダクトの開発をバックアップすることによってHTML5の普及を促していくとも表明している。

この度、これらのHTML5を取り巻く今後の方針について、AdobeにおいてHTML5およびFlash関連プロダクトの開発を担当するLea Hickman氏(Senior Director, Creative and Interactive Solutions)およびPaul Gubbay氏(VP of Design and Web Engineering, about HTML5)にお話を伺う機会を得た。

Lea Hickman氏

Paul Gubbay氏

Edgeに関する今後の方針は

まず気になるのは、「Edge」が今後どのような形でAdobeの製品群に取り込まれていくのかということだ。独立したツールとしてリリースされるのか、それともすでにあるツールの拡張機能として提供されるのか。

Hickman氏によれば、Edgeについてはまだプロトタイプの段階であり、将来的なリリースについては基本的に白紙の状態だという。今後開発を進めていく中で、ユーザからのフィードバックや、どのように使われるかのリサーチ結果、開発ワークフローなどを考慮して方針を決めていくとのこと。

また、Edgeと同じ方向性を持つツールとしてAdobe MAX 2010の"Sneak Peekセッション"(Adobeの開発チームが実験的に開発している機能を発表する名物セッション)ではFlashコンテンツをHTML5に変換するツールも発表されている。これについても特に方針は決まっていない状態である。

ただし、これらのツールの開発はFlashのチームと共同で行われているため、Flashで培ったあらゆるノウハウを取り込むことができるという。それでは、EdgeのようなHTML5向けのオーサリングツールの開発は、Flashのツールと比べてどのような困難が生じるのだろうか。

Gubbay氏は、「HTML5はJavaScriptベースになるので、その点がActionScriptを使うFlashと異なり、問題になってくるだろう」と指摘する。また多彩なデバイスや画面サイズをターゲットとしていること、WebブラウザごとにAPIが異なることなど、一言にHTML5と言っても一枚岩なわけではない。そういった技術をひとつのツールでサポートするというのは大きな努力が必要だとも語っている。

jQueryとの協力関係

EdgeはJavaScriptフレームワークの「jQuery」をベースとして作成されている。特にjQueryが選ばれた理由としては、それが非常に優れた表現力を提供してくれる強力なフレームワークであり、Webアプリケーション開発者の間でもっとも広く使われているものだからだという。前述のようにHTML5はJavaScriptをベースとして動作するため、その限られた枠組みの中で表現力を高めるというのは容易ではない。jQueryは早い段階でそれにチャレンジし、そして成功しているツールのひとつと言える。

そのjQueryも、つい10日ほど前に革新的なリリースが行われたばかりである。スマートフォンなどのモバイル端末をサポートする「jQuery Mobile」アルファ版がそれだ。これによって、スマートフォン向けのWebサイトにおいても、jQueryの持つ優れたコンポーネントを利用することができるようになる。

Adobeも、Dreamweaver CS5においてこのjQuery Mobileを利用できるようサポートすることを発表している。ただし、具体的にどのタイミングでDreamweaverに取り込むかということについては現時点では何も言えないとGubbay氏は語っている。

「すぐにでもやります、と言いたいところですが、jQuery Mobile自身もようやくアルファ版が公開されたばかりの段階です。なので、これからはjQuery Mobileの開発と、Dreamweaverへのマイグレーションを同時進行で作業していくことになるでしょう。通常のプロセスとは異なるので、状況を見ながら判断していきたい」(Gubbay氏)

またjQuery以外のフレームワークについては、ツールとしてのサポートは従来通り行っていくものの、jQueryのように開発チーム同士が深い部分で協力していくという予定は今のところないそうだ。これは開発のフォーカスをひとつに絞り込むためであり、「集中してより良いものを作るための方針」(Gubbay氏)とのことである。

現段階では未定な部分も多いHTML5サポートだが、「もっとも重要なメッセージは、AdobeがFlashとともにHTML5に対しても全力で取り組んでいる、ということ」だとHickman氏は言う。また、Gubbay氏もそれに続けて次のように語っている。

「FlashとHTML5のどちらをより必要とするかは、使う側のニーズによって異なります。。最終的に何を使うかはユーザが決めるべきことですが、そのときにベストな選択肢を提供するのがAdobeの役目だと考えています」(Gubbay氏)