既報のとおり、日本電気(以下、NEC)は4月1日付の役員人事を発表。現 常務の遠藤信博氏が社長に就任し、現 社長の矢野薫氏が会長に就くことを明かしている。

同日午後に行われたNECの中期経営計画の発表会では、遠藤氏が出席し、質疑に応じたので、ここではその内容を基に氏の人となりを簡単に紹介しよう。

「パソリンク」を世界シェアNO.1に押し上げた実績

4月1日付で代表取締役 執行役員社長に就任する遠藤信博氏

遠藤氏は1953年生まれの56歳。1981年に東京工業大学大学院理工学研究科博士課程を修了後、NECに入社。2003年4月にモバイルワイヤレス事業部長に就任。2006年4月からは執行役員兼モバイルネットワーク事業本部長を務めた。

その後、2009年4月に執行役員常務に任命され、同年6月からは取締役 執行役員常務という肩書きになっている。

長年にわたりモバイルネットワーク事業に関わってきた遠藤氏が、最も印象に残っている事業として挙げたのが「パソリンク」である。パソリンクは、NECワイヤレスネットワークスが開発したマイクロ波通信システム。携帯電話の基地局同士の連携などに利用される。有線回線に比べて構築が容易で、導入コストが低いといったメリットがある。

そのパソリンクだが、遠藤氏が事業本部長に就任した際には、国内販売が低迷し、販売台数は好調時の約5分の1まで減少した状態だったという。製作を請け負う工場から提示されたブレイクイーブンのラインが月6000台。しかし、当時売れていたのは3000~4000台程度。年間7万2000台という必達目標をいかにしてクリアしていくかが大きな問題になった。

現 代表取締役 執行役員社長の矢野薫氏

販売活動においてパートナーとの信頼関係を重視する遠藤氏は、主要顧客やパートナーをリストアップし、担当者に対して「各顧客を最低月2回まわってほしい」と指示。Face-to-Faceの丁寧な販売活動により、顧客の要求を汲み取ることから始めた。

そうして機をうかがっていると、しばらくしてインドの案件があるという話が舞い込んだ。リスクが高く、「受注するかどうか迷った」(遠藤氏)というが、熟慮の末に受注を決断。この事業で製造ボリュームが増えた結果、「ブレイクイーブンのラインが下がったうえ、いろんな工夫ができるようになり、事業が軌道に乗り出した」(遠藤氏)。現在では、新興国を中心に採用が進んでおり、この分野で世界シェアトップを獲得しているという。

遠藤氏は、この事業から、「製品開発/販売におけるボリュームの大切さ、信頼関係の重要さ、そして意思を持ってビジネスすることで結果が生まれることがある、という点を学んだ」(遠藤氏)という。特に信頼関係については、「改めてその大切さを実感した」(遠藤氏)と言い、「受注を獲得するためには、『この人だったらなんとかしてくれる』と思ってもらうことが重要。顧客が発注書を作るときに、会社のロゴではなく、担当者の顔を思い浮べてもらえるような状況をつくらなければならない」(遠藤氏)と説明した。

社長就任を打診されたときの心境

遠藤氏が社長就任を打診されたのは2月中旬のこと。週末に矢野社長に呼び出され、社長室で次期社長就任を要請されたという。しかし、その職務の重さを実感していた遠藤氏は、即答せずに「この週末で考えてさせてほしい」と回答。2日間で決意を固めて、承諾の返事をした。

当時を振り返った遠藤氏は、そのときの心境について「まさに青天の霹靂だったが、大変光栄に感じた」と説明。さらに決断した理由について、「矢野社長からは『V字回復を達成するために、次期社長は会社をしっかり引っ張らなければならない。そのためには、若い世代と意思疎通できる体制を整える必要がある。若い経営陣で、NECが一丸となって事業を進めてほしい』との熱いメッセージをもらい、チャレンジする気持ちになった」とコメントした。

矢野社長は、遠藤氏を選定した理由について、「次期社長については、中期計画を確実に実行できる人材というのが最大のポイントだった。そこで問題になるのが、グローバル化のさらなる促進を実現できるかどうか。遠藤氏には、パソリンクを世界シェアNO.1に導いた実績があり、そこを高く評価した」と説明した。

なお、NECの社長人事については、「経営幹部ではサクセッションプラン(Succession Plan)を設けており、後任候補も常に選定している。それを随時修正して、取締役会に提示している」(矢野氏)という。今回、このプロセスで遠藤氏が最上位にリスティングされ、後任社長に選ばれた。

人柄は明るく元気

セールスポイントを尋ねられた遠藤氏は、「周りからはよく『遠藤さん元気ですね』と言われる」とコメント。さらに「その際には、『フィジカルはいつも元気です』と応える」と続け、会場を和ませた。

家族構成は妻1人と子供が2人。子供が全員大学生になったそうで、「ようやくゆっくりできると思ったが、社長に就任することになりそうもいかなくなった」(遠藤氏)と話し、笑いを誘った。

趣味は、読書とクラシック音楽鑑賞。昨年からは植物の育成も始め、「苦瓜は手がかからないと聞いたので、それを育てた。育成過程で"ニガニガくん"と"ホロ二ガくん"という名前を付けてかわいがり、最後はおいしくいただいた」という。