GPGPUのフレンドリ化が最優先

「今後の経済の発展にはスーパーコンピュータの活用が重要となる」(同)。そうした観点から同社ではGPUの研究開発費を積み増しており、その成果をGPGPUにも転用してきた。「これまで小さな市場だったスーパーコンピュータ業界は、アーキテクチャが変わることで、より多くの人々が使うようになり大きな市場に成長する可能性がある。それこそ、普通のPCがそのままスーパーコンピュータとして活用できるようになる可能性もあるだろう」とGPUの性能向上が続くことでスーパーコンピュータがより身近な存在へと近づいていくことをHuang氏は強調する。

NVIDIAの研究開発費の推移。PCのGPUをGPGPUとしても活用できるということになれば、GPUの用途が広がることになり、そこに新たな市場が生み出されるという

また、NVIDIAとしては、GPUの性能強化と並行して、GPGPUの裾野を拡大しようと模索している。講演後、泰地博士とHuang氏に話を聞くタイミングをもらえたので、そこでCPU+GPGPU構成をネットワーク接続した場合、各デバイス間とネットワーク間でのデータのやり取りがボトルネックになるので、そこを解決する気があるのか、と聞いてみた。泰地博士は実際にスパコンを活用する側の意見として、「現状のGPUクラスタを活用する場合、問題の規模を大きくしないとパフォーマンスがでない。問題の規模が小さいまま早く計算しないといけないという場合、専用機で1ステップ10μsくらいでできるため、CPU-GPU-ネットワークでやりとりしていると間に合わない。GPUクラスタにおける通信方法を変えるとか、GPUのすぐ隣にアウトオブオーダのCPUをつけて近距離通信を行うとかが必要だが、用途が限られるため開発が難しい」と指摘する。

またHuang氏としても、もちろんそうした問題を知らないわけでもないし、対応策を考えていないわけではない。だが、そうした課題を解決する前に優先順位として「当面はGPGPUに対するフレンドリ化」があるという。そうした技術的な問題は「多くの人にGPGPU(そしてCUDA)を活用してもらえるようになった後に(チップ間などの)コミュニケーションの問題を解決し、さらにその後の問題として、いかにCPUとGPUの統合を行っていくか」としており、目の前に課題があるのに、それよりも先の課題を解決することは難しいとし、より多くのユーザーにGPGPUを活用していく活動を行うことを最優先の命題として掲げた。

もう1つ付け加えておくとHuang氏は、「CPUとGPUの統合は技術的にもかなり難しく、現時点で開発を行おうとするとGPU性能を向上させようとすればCPU性能が落ちる。CPU性能を向上させようとすればGPU性能が落ちる。という状態で、いわば"Premature Integration"と言わざるを得ない。やがてこうした問題を解決できる技術が来るだろうが、少なくとも今はその時ではない」と技術的な部分でもまだ課題が多いため、そうした統合によって問題を解決するという手法は少し将来の話になるとしている。

すでにGPGPUは計算流体力学や生命科学、宇宙科学、そしてゲームの物理処理などの分野でこれまで以上の性能を出せることは今回開催された"Accelerated Computing"でも各大学や企業の発表者から発表が行われた。だが、GPU単体の性能が向上したとしても、それをクラスタ化した場合、単に複数のGPUを1カ所に集めてネットワークでつないでも、バンド幅の問題などの課題が生じることとなる。そうした問題の解決として、東京工業大学の誇るTSUBAMEの強化版となる同2.0ではGPUというハード的にはコモディティなものを活用し、GPUクラスタを活用する際に効率の良いソフトの熟成に向けたフィールドを提供しようというという思惑があり、ハードやソフト、アルゴリズムなどのGPUに向けた研究開発が行われようとしている。

まだまだ、GPGPUですべての事象の演算を高速化できるわけではない。しかし、NVIDIAでは、演算の高速化が可能な分野を少しでも広げていきたいという思惑があり、一方の研究者としても、自分が行っている科学技術演算の高速化や大規模化を図りたいが、(コスト度外視で演算システムの規模を巨大にすれば解決するだろうが)コストを抑えつつもそれを実現しなければならないと思っている領域は数多く存在するはずである。NVIDIAでは、そうした背景もあり、より多くの分野でGPGPUを活用してもらえるようなアプローチを用いて、GPGPUによる高速演算の可能性を提示していきたいとしている。

Fermiベースの「Tesla」を手にして笑顔を見せてくれたJen-Hsun Huang氏と泰地真弘人博士