では、Symbianがスマートフォン市場で勝つにはどのような戦略をとるべきなのか。Moore氏のコーチングは以下のようなものだ(注: 以下、携帯電話をフィーチャーフォン(単機能)とスマートフォンに分け、Symbianはフィーチャーフォンでシェアが高く、スマートフォンでは低いと仮定している)。
スマートフォンとフィーチャフォンでは地理的に普及段階が異なることから、別々の戦略を取るべきとMoore氏はいう。理論としては、技術の普及段階の5つのフェーズにあわせ、ユーザーのタイプは5つ(ハイテク通、ビジョナリー、プログラマティスト、保守的ユーザー、懐疑的ユーザー)に分かれ、それぞれで戦略およびアプローチは異なる、というものだ。消費者には、パフォーマンスバイヤー(優れた製品を好む層)、リレーションシップバイヤー(特定のブランドやベンダを好む層)、バリューバイヤー(価格(性能比)を重視する層)の3つのタイプがあり、成熟段階ではバリューバイヤー、初期段階ではパフォーマンスバイヤーと、「ライフサイクルのどのフェーズにあるのかによって訴求すべきバイヤーは異なる」とMoore氏。
最初に考えるべきは、スマートフォンとフィーチャーフォンがそれぞれどの段階にあるのか、だ。Moore氏は、スマートフォンは現在、初期とメインストリームの移行期間の「キャズム」にあると見る。「Blackberry、iPhone、Nokia/Symbianなど、複数のプラットフォームが乱立し、それぞれの戦略を実行している"ボーリング場"の状態にある」とMoore氏。一方のフィーチャーフォンは成熟段階にある。
次はどのタイプのバイヤーをターゲットとすべきか、独占的存在であるバイヤーを少しでも多く獲得するためにできることはなにか、と戦略立案を進めるようアドバイスする。
道筋を説明した後、Moore氏のSymbianへの具体的な助言は次のようなものだ。オープンソース団体という立場上、「コア」よりも「コンテキスト」を重視すべきであり、顧客と直接関係を持つべきでもない。参加企業がイノベーションできる余地を残した「"Symbian Inside"的立場を追求するべき」だ。先の12のキーワードでは、製品リーダーシップゾーンの「プラットフォームイノベーション」と、事業ゾーンの「ビジネスモデルゾーン」にフォーカスすべきだという。
独占的なインストールベースを持つフィーチャーフォンでは、バリューバイヤーを狙う。「もっと価格を下げ、スマートフォンの機能をどんどん取り入れよ」とMoore氏。「ここはモバイル業界で最も大きなフットプリントを持つカテゴリ - PCでいう"DOS"だ。貴重なレガシーを放棄すべきではない。中断せず、ひたすら同じチャネル、同じ価格、同じターゲット顧客を維持せよ」と述べる。「アップデートプロセスにより新機能を定期的に配信し、統合性を強化し、既存のインストールベースを味方に付けよ」
スマートフォンでは、パフォーマンスバイヤーが重要となる。「(Symbianが)リーダーではないと思うなら、無効化戦略を」とMoore氏。具体的には、「BlackBerry、iPhoneなど、リーダーと思うところから、少しでも多くの機能を、できるだけ速く取り込め。コピーせよ」と述べる。「コアではないなら、速く動け。コミュニティの中で(取り込んだ機能を)標準化せよ」とMoore氏。コアはオープンソースモデルにより参加企業が実現するという方式だ。
なお、Appleに対しては、「10年間で2つの分野でイノベーションを起こした - 音楽・メディアと携帯電話、ともにまったくの部外者だったのに、消費者が望む端末を開発し、直接アクセスできるマーケットを作った。既存の力関係を結集して業界を変えてしまった」と功績を評価した。
だが、スマートフォンにおいて、iPhoneが独占的プラットフォーム企業となる可能性は低いと見ているようだ。「あくまでも予想、外れるかもしれない」と前置きしながら、「Appleはプラットフォーム企業ではなく、エクスペリエンス企業だ。Appleは(iPhoneで)スケールを得てプラットフォームを独占することにはならない、これが私の予想」とコメントした。
スマートフォンがPCと同じ道をたどると考えるMoore氏の助言は、PCを独占したMicrosoftを参考とした内容となった。スマートフォンはPCと同じようになるのだろうか? この点は会場から疑問もあったようだ。また、Microsoftとは違って、Symbianはオープンソースだ。そのようなことから、Moore氏のスピーチはイベントのあちこちで取り上げられ議論が続いた。それでも、示唆にとんだスピーチに参加者はそれぞれ学ぶ点があったようだ。