What's "Open Video"?

スケジュールどおりなら1カ月先の6月末にはFirefox 3.5がリリースされる。RCの提供が遅れていることを加味したとしても、今のところほかにショーストッパーは見当たらない。7月にはリリースされるか、すでにリリースされているという状況になりそうだ。Firefox 3.5の注目点はいくつもある。結局、1年ごしのメジャーアップデートという位置づけに近く、魅力的な新機能が多い。機能的な面から見ればJIT機能が実装され高速化されるJavaScriptエンジン、HTML5やCSS3への対応は見逃せない。

HTML5で導入されるvideo要素やaudio要素へ対応は、特にここ最近では"Open Video"または"Open Aiudio"と呼ばれている。対応はブラウザのみならず、Webサービス側でも開始されている。直近では5月27日(フランス時間)に動画共有サイト「Dailymotion」が"Dailymotion Launches Support for Open Video Formats and Video HTML Tag"でOpen Videoへの対応を発表した。Firefox 3.5 Beta 4などOpen VIdeoに対応したブラウザでDailymotion - Open Videoを閲覧すれば、Flashなしで動画が演奏されることを確認できる。

Open Videoで演奏されているDailymotion / Firefox 3.5 Beta 4 on FreeBSD

Open Videoへの対応やデモンストレーションを公開しているWebサービスはほかいくつもある。動画共有サービスの最大手であるYouTubeもGoogle I/OでOpen Video対応のデモンストレーションを発表した。Open Videoへの対応はFirefoxのみならずほかのブラウザでも進められている。開発ブランチであるGoogle Chrome 3.0.182.3でもOpen Videoのサポートが追加されたし、OperaやSafariでも対応が進められている。

Firefox 3.5はWindows、Mac OS X、Linuxまたはそれ以外のOSにおいてOpen Videoをサポートした初のメジャーブラウザということになる。DailymotionのOpen VideoはFreeBSDのFirefox 3.5 Beta 4で確認しており、クロスプラットフォームのポリシーが実現されていることがわかる。

プラグインの枠から飛び出る動画 - JavaScript + CSSで自由に羽ばたく

PCにおけるFlashの普及率は98%に到達していると報告されており、ビデオが閲覧できるバージョンに絞ってもかなりのPCがFlashを使った動画演奏に対応していることになる。動画共有サービスでもプレーヤとして使われているのはFlashだ。こうした状況の中、ブラウザでネイティブにビデオやオーディオ演奏をサポートすることに何の意味があるのか気になるところだが、これはかなりドラスティックな変化を生むことになる。

Flashなどのプラグインで動作する動画は、いわばプラグインという環境になかに閉じ込められており、ブラウザとの通信は限られたAPIを経由しておこなうことになる。ブラウザが扱うオブジェクトとしてはプラグインという檻のなかにあり、自由に操作できない。Open Videoではこれがブラウザの扱うオブジェクトのひとつになる。video要素で表現される動画は、img要素で表現される画像と同じように扱える。

Open Videoは動画プレーヤとして使えるというのはひとつの側面に過ぎず、CSSやJavaScript、HTMLとシームレスに連系できるところに意味がある。たとえば動画にCSSのフィルタを適用したりCSSトランスフォーマーを適用できる。動画の情報を随時JavaScript経由で取得してWebページの背景色を変化させるといったこともできる。WebサイトやWebアプリケーションを開発するテクニックがすべて動画にも使えるという状況だ。クリエイターはOpen Videoという新しいツールを得ることで、これまでは実現できなかったさまざまなアイディアを実現できるようになる。

※Open Videoのデモはこちらのサイトから見ることができる(要Firefox 3.5β)。

OGG(Theora + Vorbis)サポート、将来的にはDiracやH.264も

MozillaエバンジェリストのAsa Dotzler氏。Open Videoの登場で「ビデオを"プラグイン・ジェイル(プラグインの監獄)"から解放できる」と語る

Firefox 3.5のOpen VideoでサポートされるのはOGGをコンテナとし、動画コーデックにTheoraを、オーディオコーデックにVorbisを採用したもの。このあたりの決定は昨年の判断をそのまま踏襲したものになっている。MozillaはOSSブラウザとして特許にしばられないコーデックのサポートを掲げており、かつ、現状の通信帯域を加味するとこの2つのコーデックが妥当というわけだ。将来通信帯域がさらに増えればDiracのサポートや、特許フリーになればH.264の採用もありうる。"Open Video"と呼ばれている理由には特定のコーデックに縛られないこともある。

Open Videoがいかに素晴らしいものであるか熱く語ってくれたのは、来日したAsa Dotzler氏。MozillaのTechnical Evangelistにしてストーリーテラーと呼ばれ、コミュニティと開発をジョイントする役割を担っている。さまざまなデモンストレーションを通じ、Open Videoが動画をプラグインという枠から、Webの一部に変わったことを説明した。動画にCSSやJavaScriptが適用できるのはかなり強力だ。動画に対して複数言語の字幕を表示する例や、CSSのエフェクトの適用など興味深いデモを公開してくれたが、このデモに止まらずさまざまなコンテンツが開発可能であるところが興味深い。しかもこれまでWebサイトを開発するためのテクニックがそのまま使える。

Firefox 3.5がほかのブラウザと異なるのは、こういったビデオやオーディオ機能をOSごとに対応可否を分けるのではなく、すべてのOSで対応できるようにしている点にある。すべての機能を、すべての言語で、すべての人々に提供することがMozillaの務めであり、ほかのブラウザベンダとの最大の違いだとAsa Dotzler氏は熱く語る。

近日中にMozillaとFirefoxの熱きエバンジェリスト・Asa Dotzler氏のインタビューを掲載します。お楽しみに!