e-Learningの成功例と今後の3D空間の利用に向けて
「立体英会話」と銘を打った3Dバーチャル英会話スクール「CHACHAT!(チャチャット)」を提供するのは、バーチュオシティである。20回のプログラムで、レストランや駅構内、街中、機内といった3Dによるセットの中で、アバターが実際に行動のシミュレーションを行いながら、音声チャットで英会話を学ぶといった方法をとる。ロールプレイが苦手な日本人としては、 "その気"になりやすい効果と"照れ"がなくなるというバーチャルならではの効果が期待できるだろう。3Diを使ったe-Learningのビジネスモデルとして成功している国内の数少ない事例のひとつだ。
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バーチュオシティが提供する「立体英会話 CHACHAT!」のコンセプト。バスや電車のチケット売り場を想定したセットの中で、1人のユーザーが窓口係りに、もう1人が客となってアバターと音声チャットを使ってロールプレイを行う |
ビジネス視点からの可能性を語ったのは、3Di取締役 鎌田卓氏だ。今回の研究や実証実験に使われているセカンドライフのようなインターネット上に存在する3D空間は、「メタバース」と呼ばれている。同社では今後、「メタバースからインターバースの時代に向けて」の動きが加速化してくるだろうと予想している。「3Diの分野の可能性が広がるためにも、プラットフォームを超えた相互関係が盛んになっていく必要がある」と鎌田氏は語る。異なるメタバースの相互運用が可能な環境を「インターバース」と位置づけ、同社では、その実現に向けて複数の3DiプラットフォームへのログインIDを一元化する「OpenID」といった技術開発や、3Diのプラットフォームを構築可能なオープソースのサーバー標準ソフトウェア「3Di OpenSim」の提供を行っている。「今後は、3Dインターネットを活用したリクルーティングや、企業内教育もあたり前の時代になっていくだろう」と話していた。
現在、今回のサミットに登壇した研究機関を含め、小学校から大学、企業までの20団体が3Di研究会に参加しているという。「わずか4カ月ほどという短期間にもかかわらず、多くの先生方に成果報告や展望を語っていただけるような会となり、3Diの教育利用の関心の高さをひしひしと感じ取ることができました」と内田洋行 高橋氏は語る。
筆者は、日本の教育現場でICTの普及が進まない理由として、革新的なことへの案件に対して予算がとりにくい、興味を持つ教育者たちのつながりの場がない、技術情報に乏しいなどの壁があると感じている。また、これまでのIT業界の動向として、3Di利用を考える時には、まず「3D空間をどのように利用するか?」がテーマとなり、そこで何ができるかを追求する取り組みが常に前面に押し出されてきたように思っている。
しかし、今回のサミットでは、年齢や居住地、所属する企業や団体の垣根を越えて、日常の教育現場において共通に感じている本質的な問題を解決するための3D空間の利用法を模索し、これもまた異なる教育現場や研究機関からの考案や提案が湧き上がってきたことが大きな特徴であったと感じている。それは、これまで出てきたビジネスを主体とした3D空間の捕らえ方とは異なるものだ。創業98年の老舗商社から発展し、「学校」「IT」「企業・自治体」の各分野に精通する内田洋行が、「3Di研究会」を設け、教育支援を行いながら、新しいビジネスモデルを開拓していくといった企業姿勢を高く評価し、今後の同研究会の動向に注目していきたいと思う。
個別の研究や取り組みについては、今後、追跡取材を行いレポートして行きたい。