他の交通機関にはない、鉄道に独特の行事(?)として「車内改札」(検札)がある。

正規の乗車券や指定席券を所持していなくても乗れてしまうとか、途中駅での乗降があるとかいう理由から、正しい乗車券や指定席券などを所持しているかどうか、確認せざるを得ない事情があるのは理解できる。しかし、できれば「なし」で済ませてくれる方が、睡眠などの妨げにならなくてありがたい。

自動改札機と連携した車内改札の省略

と思ったら、車内改札を原則として省略している事例が出てきているのを御存じだろうか。比較的有名なところでは、JR東日本の新幹線が挙げられる。

それも面白いことに、正規の指定席券を所持して、指定通りの席に座っていれば声をかけられないが、正規の指定席券を所持していない、あるいは指定通りの席に座っていない場合に限り、「もしもし」となるのである。どうして、正規の指定券を所持しているかどうか、正しい席に座っているかどうかが分かるのだろうか。透視能力でもあるのだろうか。そんなバカな。

実はこれ、自動改札機を利用しているのだ。新幹線の改札を通る際には、乗車券と特急券の両方を改札機に通す。新幹線の特急券を所持していない人は、この段階ではねられるのだが、これは自動改札でなくても、他の新幹線でも共通する原則である。

実はそこから先に違いがあって、指定席特急券の場合には、自動改札機が列車・号車番号・席番の情報を読み取っている。そして、自動改札機が読み取った情報は車掌が持っている端末機に送信される。だから、端末機の画面を見れば、どの席が使われているはずの席で、どの席が空いているはずの席なのかは一目瞭然というわけだ。

たとえば「はやて○号・7号車1番A席」の指定席券を持っている人が自動改札を通り、指定通りの列車と座席を利用していれば、その席には人がいることになる。逆に、この席に対応する指定席特急券を持っている人が誰も自動改札機を通っていないのに席が埋まっていたら、それは正規の指定席特急券を所持していないか、あるいは他の席から移ってきた人だと判断して「もしもし」となるわけである。

もっとも、この手が使えるのは指定席に限られる。自由席の場合には列車指定も何もないから、判断の基準がない。そのため、自由席については車内改札が必要になるだろう。少なくとも、正しい区間の特急券を所持しているかどうかの確認は必要になるだろうから。

もっとも、正規の自由席特急券を所持していない状態で自由席を利用したとしても、降車駅の改札を出場する際にチェックが入るから、必ずしも車内で確認しなければならないとは限らない。ただ、乗車状況の報告を作るには、車内で確認する方が確実であろう。

自動改札がないのに、どうして?

ところが他所の路線で、自動改札を使用していないにもかかわらず、車内改札を省略している事例がある。しかも新幹線ではなくて在来線の話なので、乗車券だけ持った状態で特急列車に乗ることもできてしまう。

車内改札を省略するには、どの列車のどの席が売れているかを確認して、その情報を車掌に伝達する手段が必要である。自動改札で読み取っているわけでもなければ、駅の改札を通る際に、あるいは列車に乗る際に確認しているわけでもないのに、どうやってこの種の情報を把握しているのか。

実はそこで登場するのが、指定席券の販売を管理しているコンピュータシステム、いわゆるマルスである。指定席が存在するすべての列車について台帳を持っていて、どの列車のどの席が売れているか、あるいは空いているかはマルスが把握しているから、その情報を利用すれば「売れている席」と「売れていない席」の区別はできる。

ただし、マルスは当該列車が出発した後、走っている最中でも発券できるようになっている。そうでなければ、途中駅から飛び乗ってくる人が困ってしまうからだ。そうなると、始発駅の時点で情報を送信するだけでは、途中で情報が実態と食い違ってくる可能性がある。

しかし、それは全体からみればレアケースということで、「車掌に発券状況の情報を渡した後で売れた分については、仕方ないので車内改札の対象とする」と割り切れば済むだろう。それによって、正しい指定席特急券を持っているのに車内改札の対象になった利用者にとっては、割り切れない話かもしれないが。

自動改札のメリットいろいろ

自動改札には、単に省力化になるというだけでなく、さまざまなメリットがある。前述した車内改札の省略もそうだし、駅ごとの乗降をはじめとする利用状況データをリアルタイムで把握できるメリットもある。

昔なら、回収した切符、あるいは車内改札の際に作成した乗車状況報告のデータを基にしてせっせと集計しなければならなかったものが、自動改札機があれば、自動改札機から上がってきたデータを集計するだけで済む、という期待ができるわけだ。

また、不正利用・不正乗車を防ぐための対策を盛り込みやすくなったのも、視覚だけに頼らないで券面記載事項の情報を確認できる自動改札のメリットといえる。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。