大法人(資本金1億円超の株式会社等)の電子申告義務化については、2020年4月1日以降開始事業年度より、法人税、法人地方税、消費税について、電子申告による提出が義務づけられています。

適用事業年度が2020年4月1日以降開始の事業年度からということは、一年を事業期間とする通常の法人の場合は、2021年3月31日に決算を迎え5月末(申告延長の場合は6月末)までに申告する法人の確定申告から、電子申告義務化の本格運用が始まることになります。

今回は、この大法人の電子申告義務化の現状を整理するとともに、義務化の意味について考えてみましょう。

大法人の電子申告義務化の概要

(図1)は電子申告義務化の対象法人の一覧です。

(図1)は国税に関する資料ですが、地方税の義務化対象法人も同様であり、普通法人であれば、資本金1億円超の株式会社等が対象となります。

義務化の対象税目は、以下の通りです。

国税:法人税・消費税
地方税:法人市町村民税・法人都道府県民税・法人事業税

対象手続は国税・地方税とも、確定申告書、中間(予定)申告書、仮決算の中間申告書、修正申告書及び還付申告書となります。

また、対象書類は上記の申告書及び申告書に添付すべきものとされている書類のすべてとなります。

対象手続に中間申告書も入っていますし、消費税の場合は期間特例で1カ月単位での申告も認められていますので、実際の適用時期は(図2)のようになります。

(図2)の適用時期から、一年を事業期間とする通常の法人の場合、消費税の期間特例がなくても法人税等の中間申告で、電子申告の義務化に対応していなければなりません。

実際に電子申告の義務化の対象企業が、法人税等の中間申告を電子申告したのかどうかは、公表された資料がないことから分かりません。ただ、中間申告を電子申告した企業でも、より対応が難しくなるのは、添付書類が増える法人税の確定申告だと思われます。電子申告義務化の対象書類として、申告書のみではなく申告書とすべての添付書類とされているからです。法人税の場合、具体的には財務諸表、勘定科目内訳明細書や租税特別措置の適用に必要な書類などの添付書類を、申告書と合わせて電子申告する必要があります。 大法人の場合、この財務諸表や勘定科目内訳書などを独自に電子化して作成されているケースが多く、書面の申告の場合にはそれでも対応できていましたが、電子申告ではこの点が課題になるケースが多くなると考えられていました。

そこで、国税庁ではこれらの課題に対応した「利便性向上施策」を打ち出してきました。(図3)は国税庁が用意した電子申告義務化に係るリーフレットで法人税および法人地方税について対象書類別の「利便性向上施策」をまとめたものです。

本来、電子申告では財務諸表はXBRL形式、勘定科目内訳明細書はXML形式で仕様が規定されていましたが、新たにCSV形式も認められるようになりました。租税特別措置の適用に必要な書類などは、「第三者作成等の添付書類」としてPDFによる添付が求められることになっています。

また、勘定科目内訳明細書では、(図4)に示す通り記載内容の簡素化も図られています。

勘定科目内訳明細書は、大法人では勘定科目ごとの記載量が多くなり、全体のボリュームが大きくなることから、勘定科目ごとの記載量を抑える簡便化策を中心に、電子申告への対応がしやすくなるように考慮されています。

一方、電子申告義務化についての罰則については、e-Taxホームページの「電子申告の義務化についてのよくある質問」の「電子申告の義務化の対象法人が書面により提出した場合はどうなりますか」という質問に対する回答で以下のように示されています

「電子申告の義務化は、申告方法をe-Taxに限定するもので、書面による申告書の提出は認められません。

このため、電子申告の義務化の対象となる法人が、e-Taxにより法定申告期限までに申告書を提出せず、書面により提出した場合、その申告書は無効なものとして取り扱われることとなり、無申告加算税の対象となりますので、ご注意ください。

なお、法定申告期限までに書面により申告書を提出した後、法定申告期限後にe-Taxにより提出した場合でも同様です。 」

つまり、電子申告義務化の対象法人が、書面で申告書を提出した場合は、その申告書は無効となり、無申告扱いになるという厳しい罰則となっています。

電気通信回線の故障、災害その他の理由によりe-Taxを使用することが困難な場合は、あらかじめ申請書を提出することにより、書面提出も認められますが、これが認められる理由は限定されていますので、通常は電子申告しなければ、厳しい罰則が待っているということになります。ただし、申告書の「主要な部分」を電子申告すれば、無申告扱いにはならないとされており、当面は添付書類など一部を書面で提出しても、罰則までは課されないと思われます。この辺りは、これから始まる確定申告時の電子申告の状況により、どのように扱いが明確化されていくのか、注目していく必要があります。

大法人の電子申告義務化の意味を考える

もともとこの大法人の電子申告義務化は、「行政手続コストの削減」に向けた取り組みとして、2019年度税制改正で法制化されたものです。そして、税務申告の分野だけでなく、社会保険・労働保険における一部の申請手続についても、2020年4月1日以降の手続から電子申請が義務化されています。ただし、この社会保険・労働保険の分野の電子申請義務化では、対象手続について書面で提出した場合の罰則はありません。 この差は、なんなのでしょうか。

2019年度の国税電子申告・納税システム(e-Tax)の利用率は、法人税で87.1%、消費税(法人)で86.8%となっています。同じく2019年度の地方税ポータルシステム(eLTAX)の利用率は、法人地方二税で70%を越えたとされています。

その一方、社会保険・労働保険の電子申請を担うe-Gov利用率はこのところかなり伸びてきているようですが、2020年度でも40%程度にとどまっているようです。

この差から、税務申告では厳しい罰則規定となっているとも考えられます。

菅政権誕生以来、「デジタル」という言葉が新聞紙上などメディアに登場する機会が増えています。そして、「行政手続のデジタル化」においては、以前よりも利用者視点にたったデジタル化を重視するようになってきました。

その視点からみると、「行政手続コストの削減」の取り組みとしての電子申告の義務化や、その結果としての厳しい罰則などに違和感を覚えるのは私だけでしょうか。電子申告義務化をスムーズに進めるために実施された「利便性向上施策」は、中小法人にもメリットのある施策だと思います。ただし、この「利便性向上施策」があるから、大法人の電子申告義務化やそれに伴う罰則は当然と言えるのでしょうか。

確かに電子申告は、税務署に出かけたり書面を郵送したりする手間がなくなるなど、電子申告する法人や個人事業者にもメリットはあります。であれば、なおのこと、現状の利用率をさらに向上させるために利用者視点に立ってできることを探り実施することが行政側に求められるのではないでしょうか。

法人税では、毎年税制改正が行われ、申告書や申告書の付表となる別表と呼ばれる帳票が追加されたり、修正されたりします。これらの改正による別表が適用されるのは、例年4月1日以降終了事業年度からとなり、4月決算6月申告の法人から対象となります。

法人税申告書の別表等の数は200を越えています。そのため、3月中に税制改正内容が決定しても、別表の様式がすべて公開されるまでには時間がかかってしまいます。2021年4月1日以降終了事業年度の法人税申告書が公開されている国税庁のページをみると、主要な別表様式は公開されていますが、その他の多くの別表様式が現時点で作成中となっています。当然、国税電子申告においても、4月決算6月申告の法人では、その法人が作成することになる別表のうち、主要な別表しか電子申告の仕様が公開されませんので、仕様公開されていない別表については、電子申告に際してPDF化などイメージデータで添付するしかありません。別表に関する電子申告の仕様は、年に数度公開され、ようやく年度末の3月決算法人ですべての別表について電子申告可能になるのが実際なのです。

電子申告を義務化しても、4月決算法人などはすべての別表がデータとして電子化されるわけではありません。このような状況で、行政側はどれだけのコスト削減になるのでしょうか。

一つの法人が200を越える別表すべてを作成することはありません。この200を越える別表は、その時々の政策的な減税策などで必要になったものが積み重なってきたものです。そして、減税の要件を細かく規定するが故に一つの別表では対応できずさらに別表を増やすようにして増え続けてきました。

利用者視点という点で、電子申告の利便性をすべての法人で享受できるようにするためには、4月決算法人であっても、すべての別表が電子申告できるようにすることだと思います。ただし、実際の作業を考えると、200を越える別表の様式や電子申告仕様を、改正が決まってから1ヶ月足らずで公開するのは無理だと思います。であれば、別表の数を大胆に減らすことを考えるべきではないでしょうか。その時々の政策的な減税策がいらないと言っているわけではありません。おそらく部分最適で考えられている減税策やその要件を、全体最適の視点で見直すことで、全体的に別表の数を減らすことはできるのではないでしょうか。また、国税庁では別表の使用された数は分かっているはずですので、一年通して使用される数の少ない別表は、要件を簡略化して他の別表に統合することもできるのではないでしょうか。

今後の行政手続のデシダル化では、デジタルが原則で書面は例外とするということが方向性として考えられていくことと思います。その方向に進む際に、この法人税の電子申告のように、一年を通してすべての別表が電子申告できないということは、必ず問題になると思われます。

3月決算5月(申告延長の場合は6月)申告の法人から電子申告義務化の確定申告に対する適用が本格的に始まります。上記のような法人税電子申告の現状を考慮して、厳しい罰則規定を持って臨むのではなく、利用者視点に立ち返って、利用者がメリットを十分享受して利用率が上がっていくような施策として、行政当局には運用して欲しいと思います。

また、年々複雑化する税制そのものについても、デジタルを原則とする社会における全体最適の視点から、見直して欲しいと思います。

中尾 健一(なかおけんいち)
Mikatus(ミカタス)株式会社 最高顧問

1982年、日本デジタル研究所 (JDL)入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。現在は、2019年10月25日に社名変更したMikatus株式会社の最高顧問として、マイナンバー制度やデジタル行政の動きにかかわりつつ、これらの中小企業に与える影響を解説する。