前回、忠実な僚機(loyal wingman)と呼ばれる無人戦闘用機の構想がいろいろ出てきていますよ、という話を書いた。ただ、実機が世に出てきて実際に飛ぶようになると、それだけでもう実戦配備されそうだと勘違いする人がいそうだが、世の中、そんなに甘くはない。

SEADは出たとこ勝負の要素が多すぎる

敵防空網制圧(SEAD : Suppression Enemy Air Defense)はいうまでもなく、危険度が高い任務。それ故に、よしんば撃ち落とされても人命の損耗につながらない「忠実な僚機」にやらせたいミッションの筆頭に挙げられそうだ。しかし一方で、無人の機体にやらせるにはハードルが高い任務でもある。なぜか。

地対空ミサイル(SAM : Surface-to-Air Missile)の発射機が、固定設置されている不動産なら、事前の偵察で位置や種類を判別できる期待が持てる。しかし、移動式ではそれができない。現場に行ってみて、相手がレーダーを作動させたりSAMを撃ったりすると初めて存在が分かる。そんな調子だから、SEAD任務はどうしても「出たとこ勝負」「臨機応変」の要素がついて回るし、それ故に事前にプログラムしておくことができない。

また、SAM発射機と組んで動作する捜索レーダーや管制レーダーを発見してつぶすだけならまだしも、実際にはSAMが飛んできて初めて脅威の存在が分かることもある。SAMの種類によっては、捜索レーダーや管制レーダーを必要としない、あるいは必須としないこともあるので、そういうことが起きる。

場合によっては、SAM発射機をいぶり出すために、わざと目立つところに飛んで行くようなこともするのがSEAD任務だ。そうすれば当然、SAMが飛んでくると覚悟しなければならない。

すると、SAMをつぶすだけでも大変なのに、さらに「我が身を護るための回避機動」という課題も加わる。いくら「無人機なら墜とされても諦めがつく」といっても、任務を果たす前に墜とされたのでは諦めがつかない。

もっとも、「出たとこ勝負」「臨機応変」の要素がついてまわるからこそ、人工知能(AI : Artificial Intelligence)による「学習に基づく推論」が活きる余地がある、ともいえる。ただし、そこでどれだけの学習をさせられるかが大事、という話は前回に書いた通り。また、学習とその結果の検証をどうやって実現するか、それが実戦で使えるという見極めをどのように実現するか、という課題もある。たぶん、正解が書かれた教科書はどこにも存在していない。

  • 旧ソ連製の9K33(SA-8ゲッコー)地対空ミサイルを搭載する移動式発射機。自走できるから、事前に位置を把握しておくのは難しい 撮影:井上孝司

    旧ソ連製の9K33(SA-8ゲッコー)地対空ミサイルを搭載する移動式発射機。自走できるから、事前に位置を把握しておくのは難しい

  • 米国陸軍の暫定的な機動近距離防空システム「IM-SHORAD」。現在、開発が進められている 写真:US.Army

    米国陸軍の暫定的な機動近距離防空システム「IM-SHORAD」。現在、開発が進められている 写真:US.Army

まずシンプルなところから始めたい

特定の戦術行動を単機で担当するのであれば、まだしも話はシンプル。しかし実際の任務では、複数機が連携して動くことが多い。

有人機同士であれば、無線でやりとりしたり、データリンクで情報をやりとりしたり、といった手段を使いながら連携する。では、その片割れが無人機になった場合にはどうすれば良いか。いくらなんでも、無人機のAIが、有人機のパイロットに対して無線機で呼びかけてきてくれるとは思えない。SFアニメと違うのだ。

かといって、どういう動きをして、どこで何をするのか(回避行動、兵装の発射・投下など)、といった類の話を、任務飛行の最中に、有人機のパイロットがいちいち無人機にプログラムしている余裕はないだろう。いくつかのパターンをプログラムしておいて、その中からどれかを選択するにしても、可変要素は常に存在するのだから、事情は大して変わらない。

といったことを考えると、SEADを「忠実な僚機」にやらせる、あるいはSEADを「忠実な僚機」に支援させるのは、もっともやりたいことである一方で、簡単には実現できそうにない話でもある。いきなり有人機に取って代わらせようなどと大それたことを考えるのではなく、まずシンプルなところから始めないと、すべてがぶち壊しになる。

例えば、SAMサイトという「蜂の巣をつつく」のは無人機の仕事、蜂の巣をつついてSAMサイトの存在が分かったら、それをつぶすのは有人機の仕事、というのはひとつのアプローチであるかもしれない。精密誘導スタンドオフ兵器が一般化している昨今、場所と正体が分かれば、離れた場所から攻撃できる可能性はある。

格闘戦でも事情は同じ

米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)が “AlphaDogfight Trials” で試した格闘戦にしても、実のところ、格闘戦に入る前の戦術的判断という領域がある。そこまでAIにやらせているのかどうかについては、公表されている情報からでは読み取れない。たぶん、対戦する2機(実際にはシミュレータだが)が向かい合って、チャンチャンバラバラやり始めるところからスタートしたのではないかと思えるのだが。

しかし実際には、その前段階として「敵機の位置と動きを把握して、どうすれば有利な位置をとれるかを考えて動く」というプロセスが入る。そこまでAIでやってくれないと、本物の「格闘戦AI」にはならない。それに、“AlphaDogfight Trials” ではAI側が事前に、必要な情報を与えられていた。しかし実戦ではそうはいかない。

もっとも、このトライアルの目的は、以前にも書いたように「AIでもここまでできる、というところを実際にやって見せて、信頼を得る」ことにあり、いきなり「人間に取って代われる格闘戦AIを実現する」まですっ飛んでいるわけではない。つまり、最大の核心となるところに的を絞っているわけで、これもひとつのアプローチではあろう。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。