ステルスというのは航空機にしろ艦艇にしろ、「設計するだけでなく、それを製作するのがひと苦労」という部分がある。今回は、その製作にまつわる話を取り上げてみたい。

ネジ3本

もうずいぶんと昔の話だが、ロッキード社(当時)がF-117Aを製作して飛ばすようになった後、突如として「レーダーに大きく映ってしまった」という騒ぎが持ち上がったそうだ。そこで、いろいろ調べてみたら「ちゃんと締め付けられていなかったビスが3本あり、頭の部分が機体の表面に突出していた」のだそうである。

つまり、ほんのちょっとしたことでレーダー反射が一挙に増えてしまうという話になる。ステルス性を持たせたモノを製作するには、高い工作精度が不可欠であり、それがなければ狙い通りのモノは作れないという話である。

  • ネジ3本のせいでレーダーに大きく映ってしまったF-117A。本当は主翼の後退角はかなり大きいのだが、角度によっては後退角が少ないように見える Photo:USAF

しかも、飛行機にしろ艦艇にしろ、ノッペラボーの外板で済むわけではない。内部に設けた機器を点検するために開閉式のアクセスパネルを設ける必要があるし、内部に出入りするためには開閉式のハッチや扉が必要だ。兵装を発射する時も、機内兵器倉の扉を開閉する必要がある。

つまり「開口部」と「パネルや扉やハッチ」といったものが必要になるわけで、そこでは当然ながら継ぎ目ができる。その継ぎ目部分に不必要に大きな隙間、あるいは凸凹ができると、それがレーダー反射源になってしまってステルス性を損ねる。

ところが困ったことに、航空機でも艦艇でも材料の多くは金属である。金属は温度変化によって伸び縮みが発生する。つまり、製作の過程で温度変化による伸び縮みがあれば、寸法が合わない部分が出てきてしまう。そしてもちろん、工作上の誤差・公差という問題もついて回る。

ギザギザ

ステルス機だけでなく、非ステルス機として設計した機体に後からレーダー電波の反射抑制策を講じた場合にもしばしば見られるのが、ギザギザの輪郭。

開口部の扉、あるいはアクセスパネルを単純な形状にしないで、ギザギザの形状にする。こうすることで、レーダー電波の反射を抑制することを企図している。わかりやすい例としては、F/A-18E/Fスーパーホーネットの主脚収納室扉がある。

四角や三角といったシンプルな形状のパネルでも、寸法をきちっと合わせて、閉じた時に段差のない面一の状態とするのは、高い精度が要求される難しい仕事。ギザギザの形状にすれば、なおのこと、複雑な作業が求められることになる。

F/A-18E/Fスーパーホーネットの主脚収納室扉にしても、F-22やF-35の機内兵器倉扉にしても、閉まった状態だときれいに面一になっていて、境界線すらはっきりわからないぐらいなのだから、たいしたものだ。

  • 離陸直後に横転するスーパーホーネット。まだ開いている主脚収納室扉の、前後に設けられたギザギザが見て取れる

ましてやF-35の主脚収容室扉になると、場所が主翼の付け根で主翼下面と胴体にまたがっているだけに、平面ではなく三次曲面になっている。それを設計通りの寸法・形状で作って、閉まったときにはきれいに凸凹をなくしているのだから、おそれいる。

  • 離陸直後のF-35A。この機体、なぜか首脚を先に収納してから主脚を収納するので、まだ主脚収納室扉が開いている

高精度の製作が必要

つまり、「ステルス性を備えた形状のモノを設計する」だけでは話は終わらず、製作・組み立ての過程で高精度の仕事を行わなければ、ステルス性を備えた製品はできないわけである。

実際、F-35では量産の過程で製作工程に関わるトラブルが何件か発生しているが、その多くはステルス性に関わる部分で生じているという。非ステルス機なら問題ない話であっても、ステルス機では問題になる可能性があるわけだ。

だから、個別に製作した機体構造材を接合するところでは、レーザーによる精確な位置決めを行っている。製作や組み立てを担当する工場では温度管理も問題になりそうだ。製作する現場と取付・接合を行う現場の温度が大きく異なれば、寸法が合わなくなる可能性がある。

ちなみに、F-35の前部胴体と主翼の製作、それと最終組立を行っているテキサス州フォートワースの空軍プラントNo.4は、1942年に完成した当初から空調完備だそうである(!)。

実際に、そのプラントNo.4を訪れた時に印象的だったのは、「工場」という言葉とは裏腹に、静かで温度管理が行き届いた清潔な場所で、粛々と機体が作られている様子だった。

F-35ではなくB-2爆撃機の話だが、翼幅173ft(52.7m)の主翼を製作する過程で許容される誤差は4分の1インチ、つまり6.4mm程度だというから大変だ。しかも、外板はグラファイトとチタンとアルミを重ね合わせたサンドイッチ構造。3種類の素材の寸法がきちっと合わなければならない。

これが一品モノの技術実証機や試作機だったら、比較的少人数の、熟練したエキスパートの手に委ねることで仕事の質を高められるかもしれない。しかし量産品になれば話は違う。

F-35のように、アメリカ本土だけでなくヨーロッパやオセアニアにまでまたがる、大規模なサプライチェーンを構成する場合はなおさらだ。オーストラリアで製作した部品がイギリスに運ばれて尾翼を構成する一部となり、その尾翼がフォートワースに運ばれて、カリフォルニアのパームデールで作られた中央部胴体、フォートワースで作られた前部胴体や主翼と、きちっと合わなければならない。設計担当者も、生産管理の担当者も、胃薬が欠かせないかもしれない。

これが艦艇になると、サイズは大きいし、しかも屋外での建造だ。こうなると、温度変化に伴う伸縮をまったく起こすなというのは無理な相談だが、どうしているのだろうか。