この1年で、みなさんの勤務形態は一変したのではないでしょうか。リモートワーク、オフィスのフリーアドレス化等、働き方改革によるITの分野での革新を身近に感じられている方も多いと思います。

無線LANは特にその革新における身近なツールで、在宅勤務ではもちろん、オフィスでも導入されている企業がほとんどかと思います。その中で、みなさんは疑問に思われたことはありませんか? 「家で使用している無線アクセスポイント(AP)とオフィスで使っている無線AP、何が違うの?」と。

APには法人向けと家庭向けがある

無線LANのアクセスポイントには、「法人向け」と「家庭向け」が存在します。その名の通り、「法人向け」というのはオフィスの使用に特化した無線AP、「家庭向け」というのは自宅での用途を主とした無線APのことです。

「家庭向けAPだって最近の機種は機能も豊富だし、法人向けAPと性能も大差ないでしょう」
「家庭向けAPは法人向けと比べて安価だしとりあえず選んでおこう」

なんて思っていませんか?

確かに、家庭向けAPでも機能が優れた機器は沢山あり、法人向けAPと比較して安価なことが多いでしょう。しかし、家庭向けAPと法人向けAPでは、そもそも設計思想が違います。価格に差があるということは、それ相応の理由があるということです。

例えば、同じ「運ぶ」が目的でも、普通自動車と大型トラックでは一度に運べる荷物量に大きな差がありますよね? それと同じで、「電波を出してPC、スマートデバイスと接続する」だけではなく、オフィスでは一度に多くの通信をするための効率化機能や全体最適化機能等の付加要素が求められるのです。

今回は、家庭とオフィスそれぞれの使い方に着目しながら、どういう機能に差があるのか、そしてなぜオフィスには法人向けAPを使用するべきなのかについて説明します。

AP多台数導入問題

唐突ですが質問です。家庭でWi-Fiを使用する際、何台のAPを導入していますか? ほとんどの方が1~3台と回答されるのではないでしょうか。

対してオフィスでは何台のAPを導入済み、または導入予定でしょうか。数十台、数百台、中には数千台というユーザーもいるのではないでしょうか。

このように家庭での使用とオフィスでの使用では、APの導入台数に差があることが多いです。では、それによってどのような問題が起きるのでしょうか。

APを複数台導入することにより、AP同士の電波がぶつかり合ってしまい、接続しているPCやスマートデバイスの通信速度が落ちる、通信自体ができなくなってしまう等の現象が起きやすくなります(*1)

(*1)無線LANには「チャネル」と呼ばれる電波の通り道のようなものがあり、その「チャネル」が重なってしまうと通信障害等の不具合が起きてしまいます。それを「干渉」と呼びます。チャネルは、例えるとしたら車線のようなものです。1つの車線が混雑するとスピードが遅くなり、事故もおきやすくなりますよね?それと同じです。

2.4GHz帯は使用可能なチャネルが実質3チャネルしかありません。チャネル数が多い5GHz帯も、家庭用APだと1台でなるべく多くの範囲をカバーするように設計されているため、常に最大出力で80MHzの帯域幅を取ることが多いです。そのため実質4、5チャネルしか使用できず、結局干渉してしまうケースが散見されます。

また、どのAPに接続すれば良いのかをPCやスマートデバイスでは判断ができないため、一番遠くのAPにずっと繋がり、弱い電波のまま通信してしまうということも発生しやすくなります。

  • 家庭向けAPの場合(5GHz)

家庭向けAPでは前述の通り、1、2台程度の設置を想定しているため、AP相互の出力、チャネル調整や接続するPC、スマートデバイス数をAPごとに振り分ける機能は持ち合わせていないことが多いです。

対して法人向けAPでは、互いのAPがそれぞれの電波の強さを把握し調整する機能や、APごとに最適なPCやスマートフォンの接続数を割り当てる、ということを自動で行ってくれる機能を持っています。

  • 法人向けAPの場合(5GHz)

それによってAP同士の電波のぶつかり合いが少なくなり、PCやスマートデバイスがどのAPに接続すべきかも調整可能なため、複数のAPがある環境下でも快適な通信を実現することができます。

このように、オフィスではAP全体をバランスよく動作させる機能が必要になります。また、障害が起きた時に見る管理画面にも大きな違いがあるのですが、こちらは今後、連載の中で図を交えて説明しようと思います。

「いやいや、うちはオフィスでも1台、2台しかAP使ってないよ、だからあんまり関係ないな」なんて思っていませんか! 関係あるんです。それが次にお話しする「多端末接続問題」です。

多端末接続問題

またまた質問です。自宅でWi-Fiに接続している端末は何台くらいありますか? PC、タブレットで2~3台という人もいれば、IoT機器(ゲーム機、スマートウォッチ、冷蔵庫等)を駆使して10台くらいという方も中にはいらっしゃるかもしれません。

対して、オフィスだとどのくらいの端末を使用しますか? 社員の方が10人だとしたらPC、スマートデバイスをそれぞれの人が持っている場合、それだけで20台以上使うことになります。

さらに、それぞれの人がWeb会議、大容量資料のダウンロード、動画視聴をすると、APにかなりの負荷がかかります。Web会議ツール使用中に音声が途切れたり、映像が乱れてしまった経験はありませんか? まさにその原因の1つが、APへの過剰な負荷によるものです。その負荷に耐え切れるのかどうか、そこに家庭向けAPと法人向けAPの差が顕著に表れます。

家庭向けAPのキャパシティは、上記のような家庭内での利用を想定しているため10数台であることが多く、数十台のPCやスマートデバイスの接続、かつ高負荷の状況に陥ると、最悪フリーズしてしまいます。そうなると、サポートセンターに電話してあれこれやりとりをしているうちに2日、3日かかってしまい、社員からはクレームが来て…と考えたくもない状況になりかねません。

法人向けAPであれば、多くのPCやスマートデバイスの接続に耐えられるようなキャパシティを兼ね備えています。実際にテストを実施した動画がありますので、参考にしてみてください。

Catalyst 9105AXに無線接続した16台の端末。スムーズに動画再生されている

コンシューマーAPがダウンして無線接続が切れてしまった。一部の端末は再接続して続きを再生しようとするが、APがふたたびダウンしてしまい続行不能に

この動画は、無線LAN APにテスト端末(PC 6台とiPad 10台)をWi-Fi接続し、「Cisco Webex Meetings」のWeb会議に参加させて、映像の品質を確認するテストです。会議ホスト役の外部PC(別のネットワーク経由でインターネット接続している)でWeb会議を立ち上げ、そこに16台のテスト端末を参加させます。その上で、ホスト役PCがWebexのマルチメディアビューア機能でYouTube動画を再生する、というテスト内容です。各テスト端末でスムーズに動画が再生されれば問題ない、という判断になります。

「いやいや、別に多くの端末を接続させるような環境でもないし、APも1台しか導入しないよ。それなら家庭用でいいでしょ?」とお考えなら、それは違います。家庭用との差はまだあるんです!それはズバリ「セキュリティ」です。

セキュリティ問題

自宅でWi-Fiを使用する時に、紙に書かれたパスワードを入力して接続しますよね? そのパスワードのみでAPに接続することが多いです。

それをオフィスに導入したらどうなるでしょうか。例えば1人の社員のメモ帳が紛失してその中にパスワードが書かれていたら。あるいはPCを盗まれてそのPCに付箋でパスワードが貼ってあったら。さらに、転職・退職した人からパスワードが流出することもありえます。

うちはMAC認証使っているから大丈夫!、安心!ということにはなりません。MACアドレスは簡単に偽装ができますし、最近ではMACアドレスのランダム化問題もあります(端末のMACアドレスがランダムに変化する仕様)。なんか最近繋がりにくくなったな、おかしいなという場合、もしかしたらMAC認証が原因かもしれません。

「SSIDを見えないように設定しているから大丈夫」という方! SSIDはツールを使用することで簡単に確認できてしまいます。

ただ、法人向けAPを使えば以上の問題を解消することができます!

法人向けAPであれば認証サーバ(簡単に言えば社内のネットワークに接続しようとする人を判別・選定する機器)との連携機能により、一人ひとり人別々のID、パスワードを設定することが可能です。情報漏洩のリスクを最小限に抑えることができます。

また、昨今では2つ以上の要素(自分のID・PASS、自分が所持するスマートフォンとの連携、自分の指紋等)を組み合わせたセキュリティ形態も主流となりつつあります。

いかがでしょうか。家庭向けAPと法人向けAPでは、おおよそ上述のような機能差があります。

では、どのような法人向けAPを選べばよいのか? 次回、法人向けAPの選び方のポイントを紹介します!

著者:重信 知之(しげのぶ ともゆき)

2014年IT企業入社。主に新築現場向けにPBX及びネットワーク機器を提案するフロント営業を経験。
2019年12月シスコシステムズ合同会社入社。EnterpriseNetworking製品の専任営業として着任。Router、Switch、Wirelessを主に担当し、導入に従事。特にCisco Wireless製品の魅力に惹かれセミナー、イベント等で幅広く営業活動中。