前回、機内騒音について書いた流れで、今回は普段と違うテイストで書いてみようと思った次第。題して「座席は前にする? 後ろにする?」

上級クラスは前の方

旅客機の機内配置図を御覧いただければ一目瞭然、上級クラスほど前方に配置するのが業界のお約束になっている。クラスがいくつあろうが関係なく、最前方に最上級である。日本の政府専用機でも、貴賓室は最前部であり、随行記者団が乗るような席は後ろのほうである。

一般に、「上級クラスを前方に配置するのは、騒音が少ない場所をあてるためである」なんてことが言われる。確かに、エンジンは主翼あるいは尾部に取り付けるケースが大半を占めるから、機首寄りの区画なら間違いなく、エンジンより前に位置する。

しかし実際に乗ってみた感じからすると、前方だろうが後方だろうが、エンジンの音はする。同じボーイング787で、主翼より後方のエコノミークラスと、機首に近いビジネスクラスの両方に乗ってみた上で書いているのだから、本当だ(注 : 個人の感想です)。

  • JALの787-9(コンフィグE71)ビジネスクラス。前方の側壁が絞り込まれていることでおわかりの通り、最前部に近い場所 撮影:井上孝司

    JALの787-9(コンフィグE71)ビジネスクラス。前方の側壁が絞り込まれていることでおわかりの通り、最前部に近い場所

それなりに騒音がある、という認識があるからこそ、上級クラスになるとノイズキャンセリング・ヘッドホンを用意してくれているのだろう。筆者は私物で1つ持っているが、確かに重低音を打ち消す効果はある。本稿が掲載される時、筆者はシアトルから成田に向かう機上にいるはずだが、そこでもノイズキャンセリング・ヘッドホンを持ち込むつもりだ。

ただ、スポットにつけた時は最前部のL1ドア、あるいはその次のL2ドアにボーディングブリッジ(PBB : Passenger Boarding Bridge)をつけるものだから、前方の客室ほど乗り降りが迅速にできるのは間違いない。そういう意味では、上級クラスを前方に配置することの意味は大きい。

そういえば、ヘルシンキとコペンハーゲンを結ぶフィンエアー機に乗った時、コペンハーゲン空港では「最前部にPBBをつける一方で、最後尾のドアにもタラップをつけて、前後から同時に乗降させる」という面白いことをやっていた。乗降時間の短縮には効果がありそうだが、雨天や冬場にはどうするんだろう。

おっと、話が脱線した。

2階建てだったらどうする?

悩ましいのは、ボーイング747やエアバスA380みたいな2階建ての機体。鉄道のダブルデッカーなら「人気があるのは見晴らしのいい階上席」と決まっているが、飛行機は話が違う。階上だろうが階下だろうが、外の眺めに大差はない。

むしろ、いちいち階段で上り下りしなければならない階上席よりも、階下席の最前方に上級クラスを置くほうが理に適っている、という考え方もできるだろう。ということで、おすすめの国際線の座席を調べることができるWebサイト「SeatGuru」で調べてみた。

複数クラスが同一デッキに混在している時、上級クラスが前に来るのはお約束通りだが、アッパーデッキとメインデッキの使い分けにはバラエティがある。

ルフトハンザの747では、アッパーデッキはビジネスクラスで、さらにメインデッキの最前方にもビジネスクラスを置いている。ただし、コンフィグによってはメインデッキの最前部にファーストクラスを置いて、その後方をエコノミークラスとしている。これは大韓航空も同じ。

カンタス航空の747は2つのコンフィグがあるが、いずれもビジネスクラスはアッパーデッキ。メインデッキは、前方にファーストクラス、ビジネスクラス、プレミアムエコノミークラスを配する仕様と、ビジネスクラスとプレミアムエコノミークラスだけを配した仕様がある。メインデッキの後方がエコノミークラス。

では、オール2階建てのA380はどうか。全日空だとファーストクラス、ビジネスクラス、プレミアムエコノミークラスをアッパーデッキに集約、メインデッキはエコノミークラスで埋めている。なるほど、これはこれでひとつの考え方ではある。

同じA380でもシンガポール航空だと、「アッパーデッキをビジネスクラス、メインデッキをエコノミークラス」「アッパーデッキをビジネスクラス、メインデッキをファーストクラスとエコノミークラス」「アッパーデッキをビジネスクラスとエコノミークラス、メインデッキをファーストクラスとエコノミークラス」と3種類のコンフィグがある。

カンタス航空のA380は、「アッパーデッキにビジネスクラスとプレミアムエコノミークラスとエコノミークラス、メインデッキにファーストクラスとエコノミークラス」と2種類のコンフィグがある。

747はメインデッキにしかPBBをつけないが、A380だとアッパーデッキにもPBBをつけられるので、乗降や機内移動のしやすさに関する差はつきにくくなる。すると、アッパーデッキの扱いについて思想の差が出やすいのかもしれない。

貨物が最前部

民間輸送機には「旅客型」「貨物型」に加えて「コンビ型」がある。要するに貨客混載で、通常なら床下にだけ搭載する貨物を、客室と同レベルにも貨物室を設けて搭載できるようにしたもの。

コンビの場合、貨物室が客室より後方に来るのが通例で、例えば琉球エアコミューターのDHC-8 Q400CCはそうなっている。前方にいい席を持ってくるという原則通りだ。貨物は騒音を気にしない。

コンビ型ではないが、客室と同レベルに貨物室があるのがATR42、ATR72、サーブ340など。胴体断面が小さく、床下に独立した貨物室を設けるスペースがないからだ。サーブは貨物室が後方にあるが、ATRは貨物室が前方で、コックピット-貨物室-客室という並びになっている。貨物室が一等地? しかも、乗降に最前部ではなく最後尾のドアを使う点でも変わっている。

  • ATR42-600は貨物室が前方で、客室が後方という変わった配置 撮影;井上孝司

    ATR42-600は貨物室が前方で、客室が後方という変わった配置

こうやってみると、機内配置を決めるのも一筋縄では行かないものだなと思う。「SeatGuru」で、いろいろなエアラインの、いろいろな機種の機内配置図を比較してみると面白そうだ。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。