これまで、壱岐空港で取材してきたガーディアン無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)を題材にして、UAVとそれが搭載するセンサー群で構成するSystem of Systemsの話をいろいろと紹介してきた。今回はその締めくくりとして、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)のUAV製品が大きな成功を収めてきた背景をまとめてみたい。

最初は欲張らない

GA-ASI社のUAV製品の歴史をひもとくと、最初はイスラエルからアメリカに渡ってきた技術者・エイブ・カレム氏に行き着く。同氏はアメリカでリーディング・システムズという会社を設立して、米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)のアンバー計画向けにUAVを開発していた。

当初から、カレム氏が設計するUAVはアスペクト比が大きい主翼(わかりやすくいえば細長い主翼)を備えて、長い航続距離を発揮できる設計になっていた。そこに、まず電子光学センサーを搭載することで「空飛ぶ無人カメラ」が実現した。それが、米中央情報局(CIA : Central Intelligence Agency)がバルカン半島で情報収集用に導入したナット750である。

ナット750は見通し線範囲内で通信できるデータリンク装置しか備えていなかったので、遠方から動画で実況を行うには別途、中継機を飛ばす必要があった。それではいくら何でも面倒だということで、Kuバンドの衛星通信装置を搭載するとともに、一回りスケールアップした機体に作り直した。それがRQ-1プレデターである。

RQ-1プレデターが「現場からの動画実況中継」を実現して軍や政府の高官を魅了した後で、今度は「UAVが重要なターゲットを発見しても、それを攻撃するために戦闘機や爆撃機を呼んでこなければならない」という問題が露見した。その待ち時間の間に、せっかく見つけたターゲットに逃げられてしまうかもしれない。

そこで、AGM-114ヘルファイア対戦車ミサイルを積んで、プレデターの機首下面に搭載した電子光学センサーが照射するレーザー・ビームで誘導するようにした。これがMQ-1プレデターである。

  • MQ-1プレデター。降着装置の華奢さが際立つ。ヘルファイアの模擬弾を翼下に2発搭載している

しかし、MQ-1プレデターはもともとの機体規模の関係から、ヘルファイアを2発しか搭載できなかった。それではたちまち弾切れになってしまう。そこで、さらに機体をスケールアップするとともに、エンジンをターボプロップ・エンジンに変更、パワーアップも実現した。これがプレデターB、それの米空軍向けモデルがMQ-9リーパーである。

(壱岐空港で試験飛行を行ったガーディアンも、同じプレデターBの派生型である。しつこいが、MQ-9リーパーからガーディアンが派生したのではなく、プレデターBからリーパーとガーディアンが派生したのだ。リーパーとガーディアンは親子ではなく兄弟である)

  • MQ-9リーパー。MQ-1プレデターと比較すると、だいぶ大きくなり、降着装置も丈夫そうになった

小さく作って大きく育てた

こうしてみると、GA-ASI社のUAV製品は最初から大風呂敷を広げて「あれもできます、これもできます、こんな高性能です」という形で生まれてきたわけではないことがわかる。

最初は「航続距離が長いUAV」という単純明快な形を目指した。それを実際に使って経験を積み上げたり、ニーズを汲み上げたり、新たなニーズを創出したりした。

その過程で、電子光学センサー、衛星通信、レーザー誘導の対戦車ミサイル、といった周辺機器(?)を付け加えたり、周辺機器の発達による恩恵を受けたりしてきた。見ようによっては、機体と周辺機器と周辺状況がうまくマッチングして発展してきた、ともいえる。

ともあれ、最初から大風呂敷を広げずに、ニーズや状況に合わせて機体を「育てて」きたことが、今の成功につながったといえる。GA-ASI社に限らず、他社のメジャーなUAV製品も多かれ少なかれ、「小さく作って大きく育てる」形で発展してきた傾向が見られる。逆に、最初から大風呂敷を広げた製品は、意外とうまくいっていない。

以前に筆者が執筆中の連載「軍事とIT」で取り上げたイージス戦闘システムでも、やはり「小さく作って大きく育ててきたことが成功の秘訣」という趣旨のことを書いた。このメソッドが常にどんな分野でも通用する、と断言するのは危険だが、いきなり大風呂敷を広げるとリスクも増えるのは事実だ。

まだまだ発展中

実は、GA-ASIのUAV製品はプレデターBの一族で終わりではない。さらに発展して、ジェット・エンジンを搭載したプレデターCというシリーズまで存在する。芝刈り機みたいな音を立てて、ありもののレシプロ・エンジンで飛んでいた当初のナット750と比べると、信じられないぐらいの発展ぶりである。

このプレデターCをベースとする機体を、米海軍の艦載無人給油機計画・MQ-25スティングレイ(どこのメーカーの機体を採用するかが決まらないうちに、制式名称とニックネームだけ早手回しに決まってしまったという珍プログラムである)に提案していたが、これは残念ながら選に漏れてボーイング社にさらわれた。

MQ-25は艦載機だから、空母からの発着ができなければならない。そのため、カタパルトにひっかけるローンチ・バーや、着艦の際にワイヤーにひっかけて行き脚を止める着艦拘束フックまで必要になる。どちらも、GA-ASI社の製品の中では、MQ-25で初登場するアイテムだ。

もはやここまで来ると、ナット750やRQ-1プレデターとの共通部品は皆無だろう。だが、(やや語弊のある言い方かもしれないが)草創期からのDNAや知見は受け継がれているのである。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。