航法と通信の話を済ませたので、ようやく「管制」の話に進めることになった。ただ、細かい管制の手法や現場の話については、詳しく書かれた書籍がいろいろ出ているので、そちらを参照いただくほうが勉強になるだろう。ここでは、その手前の全体像を中心に書いていこう。

飛行の流れ

まずは、飛行機が1つの「フライト」を行う際の流れは復習しておこう。

最初、飛行機は駐機場(エプロン)にいる。軍用機だと掩体(シェルター)に納まっていることもあるし、民航機だとターミナルビルのスポットにつけた状態から始まるが、それらも包括して、駐機場ということにしておく。

まず駐機場から出て、誘導路(taxiway)を通って滑走路(runway)に移動する。そこで交通整理をしないと、地上で衝突事故が起きる。

滑走路も、一度に使用できる機体は1機しかいないし、1つの滑走路で離着陸を兼ねている場合は、離陸する機体と着陸する機体が衝突しないようにする必要がある。

  • 伊丹空港で。着陸機がいるので、次に離陸する機体は横で待機している

離陸した機体は目的地に向けて針路をとる。その過程でも、目的地に向かう巡航でも、正しい経路に乗ることと、衝突の回避が課題になる。

目的地の飛行場に接近したら降下を開始して、滑走路に向かう進入経路に乗る。トラフィックが少ない飛行場なら話はシンプルだが、トラフィックが多いと、さまざまな方面から集まってきた機体に対して「交通整理」を行い、最終的に一列の流れを作る必要がある。

もちろん、その過程で衝突や異常接近が起きないようにしなければならない。また、進入する機体同士の間隔を適正にとる必要がある。

着陸した機体は、また誘導路を通って駐機場に向かう。ここでもやはり、衝突事故が起きないように交通整理する必要がある。

こうしてみると、管制の仕事というのは煎じ詰めると交通整理なのだとわかる。たぶん、百の能書きを垂れるよりも、「Flightradar24」で羽田空港や成田空港の状況を見ていただくほうがわかりやすいと思われる。特に、朝や夕方の混み合う時間帯はわかりやすい。

出発は、離陸した機体がそれぞれ針路を変えて散らばり、各々の目的地に向かっている。その際に通る経路は、一定のパターンがあるのがわかる。

着陸は、各方面から集まってきた機体が、最終的に滑走路の延長線上に収斂していく。同時に複数の機体がやってきて衝突しそうになると、大回りの迂回経路を指示したり、グルッと一周させて時間を稼いだりして、進入機が一定の間隔で並ぶように調整している。

管制の分担

普通、「管制」というと真っ先に想像するのは管制塔(tower)ではないかと思われる。本当に塔が立っている場合もあれば、建物の最上層に突出させて済ませている場合もあるが、見晴らしが良いように全周をガラス張りにした構成はおおむね共通。

  • 羽田空港の管制塔と離陸機

トラフィックが少ない、小さな飛行場であれば、管制塔に陣取った管制官が、地上の往来も離着陸もまとめて面倒を見ることができる。その場合、パイロットが交信する相手の管制官は1人だけである。

しかし、トラフィックが多い大空港になると話は違う。1人の管制官がカバーできる機数には限りがあるから、全体をまとめてさばくのは無理だ。

また、トラフィックが多い飛行場だと交信の数も多くなるから、すべて同じ管制官が1つの周波数でカバーしていると煩雑だ。空港内で無線を作動させているすべての機体が、他機のやりとりを聞かされるからだ。

例えば、自機は滑走路の端で待機して進入の許可を待っている状態なのに、他機がプッシュバックの許可を求めたり、着陸した機体が誘導路の指示を受けたりしているのが全部聞こえてしまう。担当を分けて周波数も別々にすれば、そうした関係ないところのやりとりは聞こえずに済む。

そこで、前述した個々の過程ごとに担当の管制官を分けて分業体制を敷く。すると、パイロットが交信する相手の管制官は次々に変わっていくことになる。

例えば、まずグラウンド・コントロールにコンタクトして、プッシュバック(スポットからトーイングカーで押し出してもらう操作)の承認(clearance)をもらう。プッシュバックが済んでエンジンをかけたら、次にタキシングの承認をもらうとともに、経由する誘導路の指示を受ける。

そこで、コンタクトする相手がタワーに変わる。タワーは離着陸機の状況を見て、滑走路に進入して良いか、その手前で待つかを指示する。着陸機が来ているのに、離陸機が滑走路に進入したら事故が起きるし、逆もまたしかり。

問題がなければ、タワーは滑走路への進入の許可、続いて離陸の許可を出す。離陸した後は、デパーチャー・コントロールにコンタクトして、目的地に向かうための針路の指示を受ける。

上昇して巡航に移ると、その後はエンルートにコンタクトする。エンルートは飛行場から離れた場所を扱うので、目視できるように管制塔に陣取っている必然性はない。東京近辺だと、所沢の東京航空交通管制部が担当しており、レーダー画面を見ながら無線でやりとりしている。

場合によっては、複数の航空交通管制部を渡り歩くこともある。例えば、羽田から千歳に向かう場合、途中で東京航空交通管制部のエリアから札幌航空交通管制部のエリアに移るので、コンタクトする相手も変わる。

札幌航空交通管制部といえば、しばらく前に、停電事故が発生して無線が使えなくなったために大騒動になったところだ。無線が使えないと管制ができず、そこに飛行機が入って好き勝手に飛んだら事故が起きるので、札幌航空交通管制部のエリアは飛べない状態になってしまった。

着陸進入に移ると、コンタクトする相手は目的地のアプローチ・コントロールに変わる。アプローチ・コントロールは前述したように、進入機の交通整理を行って、等間隔の「列」を構成するように指示を出す。

無事に着陸すると、また誘導路を通って駐機場に向かうことになるので、グラウンド・コントロールにコンタクトして、経由する誘導路や、最終的に行く場所に関する指示を受ける。

こうやって複数の管制とコンタクトするので、それぞれに違う周波数を割り当てないと混信して収拾がつかなくなる。だから、前回に書いたように複数のチャンネルをプリセットしてパッと切り替えられる仕組みが必要になるわけだ。