今回の研究では85症例の初発のPCNSL患者が対象とされ、その遺伝子異常と予後の関係性が調査された。85症例中の治療法の内訳は、21例がHD-MTX療法、64症例がR-MPV療法だ。調査の結果、R-MPV療法は、HDMTX療法と比較して有意に予後良好であることが判明した。長期生存者ではR-MPV療法治療群で、良好な全身状態が保たれている傾向が示されたという。
そして遺伝子解析の結果に関しては、MYD88L265P変異は70.2%、CD79BY196変異は40.4%の症例で同定されたとする。MYD88L265P変異の有無と無増悪生存期間、全生存期間の間に関係性は認められなかったが、CD79BY196変異が陽性だった症例では、R-MPV療法で治療が行われた場合、無増悪生存期間、全生存期間が有意に延長していることが確かめられた。この結果は、HD-MTX療法で治療を受けた症例群では認められず、CD79BY196変異はR-MPV療法の良好な反応性を予測する因子であることが明らかにされた。
MYD88L265P変異は、悪性脳腫瘍の中ではPCNSLに特異性が高く診断マーカーとして応用が可能だという。そこでCD79BY196変異と同時に判定することで、PCNSLの分子診断とR-MPV療法の反応性を同時に判定するシステムの開発が行われた。PCNSLの診断目的に生検術を予定された連続4症例に対して、採取された腫瘍組織から遺伝子が抽出され、同システムでの解析が行われた結果、90分以内に正確な判定を得ることができたとする。
これまでは、PCNSLの診断には生検術後1週間ほどを要していたが、今回開発されたシステムにより生検術後に速やかに分子診断がつくことで化学療法の導入の迅速化が可能となったという。また、CD79BY196変異の有無を軸にした、放射線治療の省略などの治療強度の層別化への応用により、長期生存者の晩期障害の軽減が期待されるとしている。