名古屋大学(名大)は1月11日、85症例の「中枢神経系原発悪性リンパ腫」(PCNSL)の遺伝子異常と予後の統合解析を行い、「CD79BY196変異」は、PCNSLに対する抗がん剤などを併用した「R-MPV」療法の良好な反応性の予測因子になることを同定したと発表した。

また、PCNSLで特異的かつ高頻度に見られる「MYD88L265P変異」を診断マーカーとして、同変異とCD79BY196変異を同時かつ迅速に解析するシステムを開発し、PCNSLの分子診断と治療反応性の予測を、従来は生検術後1週間ほどを要していたところ、90分以内で判定することが可能となったことも併せて発表された。

同成果は、名大大学院 医学系研究科 脳神経外科学の山口純矢医員、同・大岡史治講師、同・齋藤竜太教授らの研究チームによるもの。詳細は、がん医学に関する全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Cancer Medicine」に掲載された。

PCNSLは希な脳腫瘍ではあるが、高齢者に好発するため、近年の高齢化に伴いその発症数が増加しているという。多くの悪性脳腫瘍と異なり、化学療法や放射線療法に感受性が高く、手術は診断を目的とした生検術に留め、放射線化学療法を行うことが基本治療方針となっている。化学療法の発達に伴い予後は改善してきているが、長期生存者では認知機能の低下などをきたす放射線治療後の晩期障害が問題となるため、化学療法の強度を上げ、放射線治療の強度を下げる、または省略するという方針で治療戦略の開発が進められている。

現在は、減量放射線療法を併用したR-MPV療法が国内外で広く行われているが、その疾患の希少性から、R-MPV療法の長期予後、感受性因子については、まとまった症例数を用いての調査が行われていなかったという。また、近年の網羅的遺伝子解析により、PCNSLではMYD88遺伝子、CD79B遺伝子の点突然変異が高頻度に見つかることが報告されているが、これらの遺伝子変異と予後の関係についても十分に調べられていなかったとする。

そこで研究チームは今回、これまでの標準的な治療だった、抗がん剤「メソトレキセート」を高容量で使用する「HD-MTX療法」と比較したR-MPV療法の長期予後、MYD88L265P変異、CD79BY196の変異と予後の関係性についての検討を行うことにしたとする。