米国の宇宙企業ブルー・オリジンやシエラ・スペースなどは2021年10月26日、商業用の有人宇宙ステーション「オービタル・リーフ」を建造する計画を発表した。

「宇宙に浮かぶ複合型ビジネス・パーク」と銘打ち、世界中の顧客から研究や産業、観光目的での利用を受け付けるとともに、人員や物資の輸送、運用などを商業サービスとして提供するとしている。

運用開始は2020年代後半の予定で、国際宇宙ステーション(ISS)と入れ替わりに、地球低軌道での有人活動の主導権を握ることを目指す。

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    オービタル・リーフの想像図 (C) Orbital Reef

オービタル・リーフ

オービタル・リーフ(Orbital Reef)の旗振り役を務めるのは、実業家ジェフ・ベゾス氏の宇宙企業ブルー・オリジン(Blue Origin)と、米宇宙企業のシエラ・スペース(Sierra Space)。このほか、ボーイングやアリゾナ州立大学など複数の企業や大学も参画する。

オービタル・リーフは「宇宙に浮かぶ複合型ビジネス・パーク」として、完全な商業目的の宇宙ステーションとして建造、運用され、科学的な宇宙実験から新技術の宇宙での実証、宇宙旅行まで、宇宙に新たな市場を開拓することを目的とするという。

宇宙ステーションの運用や、人員、物資の輸送、目的に応じた施設・設備の貸し出し、ロボットや乗組員による作業などは、ブルー・オリジンなどがサービスとして提供。世界中のあらゆる企業や大学、研究機関などを対象に、費用さえ払えば自由に利用できるようにするとしている。

オービタル・リーフが周回するのは高度500km、軌道傾斜角約45度の軌道で、内部は国際宇宙ステーション(ISS)とほぼ同じ約830立方mの広さをもつ。また、科学ゾーンと居住ゾーンに分かれており、最大10人が滞在できる。さらにモジュールや「エネルギー・マスト」と呼ばれる太陽電池パドルを追加することで、より大きく拡張することもできるという。

ブルー・オリジンは、オービタル・リーフのコア・モジュールや生命維持システムなどの開発を担当。また、開発中の大型ロケット「ニュー・グレン」を使い、モジュールの打ち上げも担当する。

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    ブルー・オリジンが開発中の大型ロケット「ニュー・グレン」の想像図。オービタル・リーフのモジュールの打ち上げを担う (C) Blue Origin

シエラ・スペースは開発中の小型スペースプレーン「ドリーム・チェイサー」による物資輸送サービスを提供するほか、膨張式のモジュールも開発する。

ボーイングは科学研究用のモジュールの開発のほか、ステーション全体の運用を担当。また、開発中の有人宇宙船「スターライナー」による人員の輸送も担う。

このほか、レッドワイヤー・スペースは微小重力環境を利用した研究、開発、製造などの機能を提供。ジェネシス・エンジニアリング・ソリューションズは小さな宇宙船のような船外活動服を開発し、ステーションのメンテナンスや宇宙観光に使用する。アリゾナ州立大学は、世界の14の大学からなるコンソーシアムを設立し、宇宙研究や公共アウトリーチを提供するとしている。

オービタル・リーフの運用開始は2020年代の後半を予定する。建造コストなどは明らかにされていない。

現在、米国航空宇宙局(NASA)をはじめ、日本や欧州などが運用しているISSは、老朽化などにより2030年ごろまでに運用を終える見込みとなっている。それと同時期にまったく新しい宇宙ステーションを建造することで、ISSで行われていた研究や実験、技術開発などを受け継ぎ、さらに発展させてビジネスにつなげる狙いがある。

なお、NASAも将来的に商業宇宙ステーションの運用の時代が来ることを見据え、そうした動きを支援するため、「商業地球低軌道実証プログラム(Commercial LEO Destinations program)という計画を進めている。

NASAは2000年代から、ISSへの物資補給や宇宙飛行士の輸送を民間企業に委託する計画を進め、フェイズ(段階)に分けて優れた提案や成果に基づいて資金を与え、ロケットや補給船、宇宙船の開発を振興した。そして現在、スペースXやノースロップ・グラマンなどが実際に商業輸送ミッションを担っており、商業宇宙ステーションでもそのやり方を踏襲している。

オービタル・リーフも同プログラムに参画しているが、計画の進み具合が遅いことから、完全には当てにせず、前倒しで進める意向を示している。

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    オービタル・リーフの想像図 (C) Orbital Reef

ブルー・オリジンのブレント・シャーウッド(Brent Sherwood)上級副社長は「過去60年以上にわたり、NASAをはじめとする宇宙機関は、人が宇宙を飛行する技術、そして宇宙で生活する技術を開発し、この10年でビジネス化する動きを進めてきました。私たちはそれを受け継ぎ、アクセスを拡大し、コストを下げ、宇宙飛行を当たり前にするために、必要なすべてのサービスと設備を提供します。これから地球低軌道は、活気あるビジネス・エコシステムが成長し、そして新たな発見や製品、娯楽、そして世界的な関心を生み出すことでしょう」と語っている。

シエラ・スペースの社長を務める、元NASA宇宙飛行士のジャネット・L・カヴァンディ氏は「ブルー・オリジンと協力し、商業的な研究やものづくり、旅行のために宇宙を開放することに興奮しています。元NASA宇宙飛行士として、宇宙で仕事をしたり生活したりすることが、世界中の人にとって当たり前になるときを待ち望んできましたが、いよいよその瞬間がやってきたのです」と期待を語っている。

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    オービタル・リーフの想像図 (C) Orbital Reef

参考文献

Orbital Reef | Orbital Reef
BLUE ORIGIN AND SIERRA SPACE DEVELOPING COMMERCIAL SPACE STATION
Orbital Reef One Pager
Blue Origin | Blue Origin and Sierra Space developing commercial space station