富士通は10月12日・13日、グローバルフラッグシップの年次イベント「Fujitsu ActivateNow 2021」をオンラインで開催した。同イベントの開催は今年で2回目となる。初日は、Empowering People for a Sustainable Futureというタイトルの下、オープニングキーノートが行われ、代表取締役社長 兼 CDXOの時田隆仁氏がサステナブルな未来の実現に向けた富士通の取り組みについて語った。

  • 富士通 代表取締役社長 兼 CDXO 時田隆仁氏

パーパス経営を支える新事業ブランド「Fujitsu Uvance」

最近、さまざまなところでSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)という言葉を耳にする。政府、企業がSDGsを基に戦略を定めるようになってきており、2030年には年間12兆ドルの新たな市場機会が生まれるともいわれているそうだ。

時田氏は、「新型コロナウイルスの登場によって、価値観や生活様式が変わり、社会課題の解決が地球規模となった。そして、今や夢だった技術が実用化され、われわれっはその恩恵を受けている。その一方で、未来を脅かす問題も起きており、社会が進む方向性を変える時が来ている。これまでの延長ではいけない」と述べ、われわれが変化の時を迎えていることを強調した。

こうした状況を踏まえ、富士通は今年10月、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」というパーパスの実現を目指す新事業ブランド「Fujitsu Uvance」を立ち上げた。「Fujitsu Uvance」の下、富士通はサステナブルな世界の実現に向け、社会課題の解決にフォーカスしたビジネスを強力に推進していくことを掲げている。

パーパス実現に向けて注力していく事業「Key Focus Areas(重点注力分野)」は、2030年の社会を想定し、社会課題を解決するクロスインダストリーの4分野(Vertical Areas)と、それらを支える3つのテクノロジー基盤(Horizontal Areas)の合計7分野から構成されている。

  • 7つのKey Focus Areas(重点注力分野)から構成されている「Fujitsu Uvance」

  • パーパスの「世界をより持続可能にする」という想いをインフィニティマークに込めて押し出した新たなビジュアルアイデンティティ

時田氏は「Fujitsu Uvance」について、「2030年をターゲットに人々の生活を考えた。スマートシティ、グローバルサプライチェーンなどの先進テクノロジーを融合していく。企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)は、目的を明確にしたうえで、複数のテクノロジーを的確に組み合わせることが重要となる。われわれは社会課題を起点としたビジネスに舵を切った。社会課題の解決は、富士通だけではできない。さまざまな人たちとエンパワーしあうことで、貢献できると確信している」と語った。

エストニアから学ぶ電子国家になるためのポイントとは

続いて、2006年から2016年にかけて、電子国家として名高いエストニア共和国の大統領を務めたトーマス・ヘンドリク・イルヴェス氏が講演を行った。イルヴェス氏は、30年間にわたるエストニアのデジタル化に関する取り組みを例に、「国をどうデジタル社会に導くか」について語った。

  • 元エストニア共和国大統領 トーマス・ヘンドリク・イルヴェス氏

イルヴェス氏は、エストニアのデジタル化のポイントとして、「IDのセキュリティ」「データ交換のレイヤ」「データの完全性」を挙げた。「デジタル社会においてIDは切っても切れないものであり、IDの強化はどの国も直面する問題だ。また、データベース内のデータはすべて分離しておく必要がある。なぜなら、単一のデータベースでは簡単にデータが盗まれるからだ。データの完全性はプライバシーよりも重要だと考えている」(イルヴェス氏)

イルヴェス氏は、デジタル社会の次なる課題として、「今後半世紀で公的部門のデジタル化を進めること」を挙げた。「民間企業のサービスと同じくらいスマートな方法で、国民にサービスを提供する必要がある」と同氏。

その際、デジタルIDのセキュリティが課題になるという。「デジタル化には、安全なIDが必要不可欠だが、これは政府にとって大きな課題となるだろう。われわれは安全なIDを確立し、銀行でもそれを利用できるようにした。銀行が独自のIDをつくって使うよりも安全だったからだ」と、イルヴェス氏は説明した。

さらにイルヴェス氏は「データのセキュリティに加え、本人を確認する仕組みも必要となる。質の良いアーキテクチャを構築し、データの完全性も確保しなければならない。その際、プロックチェーンやキーレス署名といったテクノロジーがカギとなる」と技術的な課題を解決する手法を示したうえで、自国で作ったIDを認証する仕組みが国を越えても使えるよう、他国と交渉を重ねる必要があることに言及した。

GoogleやAppleが提供するサービスが世界中で使えるように、各国の政府が提供するサービスも世界中のどこでも使えるようにするには、国同士の調整が必要というわけだ。イルヴェス氏は「民間企業は国境を越えたサービスも提供できる。しかし、公共サービスは国境を越えることが難しくなる。これは乗り越えるべき壁だ。紙ベースの社会をこれ以上生きることはできない」と、語っていた。