米航空宇宙メーカーのノースロップ・グラマンは2021年6月15日、米国国家偵察局(NRO)の偵察衛星3機を搭載した「ミノトールI」ロケットの打ち上げに成功した。

ミノトールIの打ち上げは、2013年以来約8年ぶり。また、搭載された衛星については一切が謎に包まれている。

  • ミノトールI

    ミノトールIの打ち上げの様子 (C) Northrop Grumman

ロケットは日本時間6月15日22時35分(米東部夏時間9時35分)、ヴァージニア州にあるワロップス飛行施設のミッドアトランティック・リージョナル・スペースポートの第0B発射台から離昇した。

偵察衛星の打ち上げであったため、飛行プロファイルなどの詳細は公開されていないが、打ち上げは成功したという。

NROL-111

この打ち上げミッションは「NROL-111」と呼ばれており、3機の衛星を軌道に投入したという。それ以外の詳細は明らかにされておらず、衛星の目的、姿かたち、開発・製造業者、打ち上げられた軌道などは不明である。

打ち上げに使われたミノトールIは、地球低軌道に最大約580kgの打ち上げ能力をもつことから、1機あたり100kg級の小型衛星であると推察される。また、3機同時に打ち上げられたことから、編隊(コンステレーション)を組んで運用することを目的としたミッションと考えられる。くわえて、打ち上げ後は南東方向に飛行しており、軌道傾斜角(赤道に対する傾き)が約50度の軌道に乗ったものとみられる。

NROL-111という名前は、特定の衛星の種類を表すのではなく、単に「NROの衛星の111機目の打ち上げ」を意味する。また、打ち上げの順番や数字の割り振りは前後しており、これまでに111機が打上げられたというわけでもない。

NROのクリストファー・スコールズ(Christopher Scolese)局長は「NROは、米国の安全を守るために働く50万人以上の政府関係者に、宇宙からの情報や監視・偵察能力を提供する、世界で最も優れた機関です。NROL-111の打ち上げ成功により、NROはこの18か月の間に16回ものペイロード打ち上げをなしとげ、そして情報機関・コミュニティのすべてのメンバーと、20を超える国の機関、そして軍隊や政治家、意思決定者などに、重要な情報を提供するという私たちの使命を前進させるものとなりました」と語った。

また、NROの副局長を務めるトロイ・ミンク(Troy Meink)氏は「NROL-111は、創意工夫と共同作業により、可能性の限界を押し広げるという、NROの60年間にわたる伝統を受け継いで開発されたものです。私たちの遺産は、NROの献身的な職員によって引き継がれるとともに、今日の打ち上げを成功させた優れたミッション・パートナーによって支えられています」とコメントしている。

  • ミノトールI

    ミノトールIの打ち上げの様子 (C) Northrop Grumman

ミノトールI

ミノトールIは4段式の固体ロケットで、退役した3段式の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「ミニットマン2」の1段目と2段目を流用し、ノースロップ・グラマンが製造する固体ロケット・モーターを第3段、第4段として搭載。さらに電子機器を新しいものに換装することで、宇宙ロケットに仕立てている。

ミノトール(Minotaur、ミナトー、マイノトーとも)とは、ギリシア神話に登場する怪物ミーノータウロス(ミノタウロス)のことである。ちなみに、ノースロップ・グラマンはミノトールI以外にも、ミノトールIVやV、VIといったロケットもラインナップにもっているが、これらは「ピースキーパー」という別のICBMを転用したものであり、ミノトールIより打ち上げ能力が高く、また技術的なつながりは薄い。

ミノトールIは2000年から運用が始まり、今回を含め12機すべてが打ち上げに成功している。ただ、今回の打ち上げは2013年11月以来、約8年ぶりとなった。

ミノトールIなどのミサイルから転用したロケットは、規定により軍事衛星などの政府系衛星の打ち上げにしか使うことができず、商業打ち上げ(企業などから受注してビジネスとして行うロケットの打ち上げ)は禁止されており、打ち上げ回数の少なさに影響している。なお、同社はロケット・モーターを新造した「ミノトールC」というロケットを商業打ち上げに使っているほか、ミノトールIなどの商業打ち上げを解禁しようという動きもある。

今回の打ち上げの契約は2016年に結ばれたもので、米空軍(当時)からオービタルATK(当時)に対して2920万ドルが支払われている。

また、ワロップス飛行施設からのミノトールIの打ち上げは、今回が8機目となった。ミノトールIは同地以外にも、フロリダ州のケープ・カナベラル宇宙軍ステーション、カリフォルニア州のヴァンデンバーグ宇宙軍基地、アラスカ州のPSCA(Pacific Spaceport Complex - Alaska)からも打ち上げられている。

NROにとって、今回のNROL-111は2021年中に予定している最後の打ち上げとなる。今後、2022年1月と2月には、ニュージーランドからロケット・ラボの「エレクトロン」ロケットを使い、NROL-162とNROL-199の打ち上げを予定しており、また2022年後半にはさらに3つの打ち上げミッションを予定している。

  • ミノトールI

    ミノトールIの打ち上げの様子 (C) NRO

参考文献

Northrop Grumman Successfully Launches Minotaur I Rocket for the National Reconnaissance Office | Northrop Grumman
NRO returns to Virginia’s Space Coast with NROL-111 > National Reconnaissance Office > News Articles
Minotaur Rocket - Northrop Grumman