東京都市大学(都市大)は6月21日、水素を使わずに、窒化鉄と炭酸水のみを用いる、常温・常圧での低環境負荷なアンモニア合成技術を考案したと発表した。

同成果は、都市大 理工学部 応用化学科の江場宏美准教授らの研究チームによるもの。詳細は、水素エネルギー専門誌「International Journal of Hydrogen Energy」に掲載された。

今日の農業に必要不可欠な化学肥料のうち、三要素の1つである窒素肥料の多くは、アンモニア(NH3)を原料としているほか、水素エネルギーの活用に向け、アンモニアはそのキャリアとしても期待されるようになっている。しかし、アンモニアの製法は100年以上前に開発された「ハーバー・ボッシュ法」が使われており、その環境負荷の高さが近年、問題視されるようになっており、新たな合成法も開発が求められるようになってきた。

現在では、比較的低温での合成も報告されるようになってきたが、それらは触媒などに高価な希少金属や特殊な化合物を用いるものが多く、実用化するためにはクリアすべき課題がある状況だという。

このような背景のもと、研究チームが進めているのが使用済みの鉄製品や、製品の製造工程で生じた鉄の端材といった“スクラップ鉄”を利用した水素生成の研究だ。鉄にCO2とH2Oを加えると、H2とFeCO3(炭酸鉄)が生成する反応が常温・常圧で進行することがわかっていたことから、関連研究としてアンモニア合成を着想したという。

そして今回、窒化鉄を原料とし、炭酸水(CO2+H2O)を利用することにより、常温・常圧でアンモニア合成を行える技術の開発に成功したという。特別な触媒なども必要なく、基本的に窒化鉄に含まれるすべての窒素をアンモニアに変換することが可能で、アンモニアは副生される水素とともに気体として回収することができるという。

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    今回開発された技術によるアンモニア合成の概要 (出所:都市大Webサイト)

今回の技術は、10℃程度の温度環境下でもアンモニアを合成できるが、加熱すると反応速度は向上するという。また、特定の添加物を加えることにより、室温でも反応速度を向上できることを確認済みとしている。

さらに、反応後に得られるアンモニア水には、微量の鉄イオンや炭酸イオンも含まれるが、いずれも無害であり、そのまま肥料として用いることが可能だとするほか、またFe2+が、炭酸イオンと結合してFeCO3(炭酸鉄)として析出されるが、これは鉱物の「菱鉄鉱」で、古くから鉄鉱石として用いられてきたものであり、環境への悪影響はないとしている。

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    反応のメカニズム (出所:都市大Webサイト)

窒化鉄にはさまざまな組成、結晶構造のものがあるが、今回の技術では、窒化鉄であればどのようなものでも大丈夫だという。スクラップ鉄に窒素が含まれている場合には、それを原料とすることも可能としている。

そして水素源として利用する炭酸水も、飲料として誰でも購入できるものであることからもわかるように、入手の難しくない液体だ。今回の技術はCO2を消費することから、工場などにおいて副生されるCO2を大気中に放出せずに炭酸水として固定化することで、その削減につなげることも可能だという。

今回の技術は小型プラントでも利用可能であり、農地など消費の場において、取り扱い許可さえ得れば、その場で必要なときに必要なだけ生産することを可能とするものだと研究チームは説明しているが、実際の実用化にあたっては、窒化鉄の入手経路やコストなど、産業界の状況を確認していく必要があるとしている。