イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)コラボレーション・ジャパンは5月20日、同プロジェクトが直接観測を成功させたM87銀河中心に位置する超大質量ブラックホールの観測データを重力理論を検証するためのツールとして利用することに成功し、一般相対性理論はその正しさが間違いないことに加え、超弦理論を基にした重力理論も完全には否定できないことが明らかになったことを発表した。

同成果は、EHTコラボレーションのメンバーである独・フランクフルト大学理論物理学研究所のプラシャント・コチャラコタ博士、同・ルチアーノ・レッツォーラ教授らの研究チームによるもの。詳細は、米物理学専門誌「Physical Review D」に掲載された。

ブラックホールは、太陽質量のおよそ20倍以上の大型の恒星が超新星爆発を起こしたあとに誕生するが、その本体そのものといえる「特異点」は、超新星爆発で生じた重力崩壊の行き着いた先であり、現代の物理学が通用しない未知の領域とされている。そしてその特異点を中心として、シュヴァルツシルト半径の大きさで仮想的に描かれる球面である「事象の地平面」は、“そこを超えて内側に入ると光すら脱出できない”として知られる境界線である。

今もって事象の地平面の向こう側はどうなっているのか、特異点はどうなっているのかなど、ブラックホールは謎だらけだが、質量、回転、そしてチャージと呼ばれる物理量の3種類で表すことのできる天体であることがわかっている。

ブラックホールを表現する式としては一般相対性理論がある(ただし、特異点を除く)。それ以外には、超弦理論(超ひも理論)にヒントを得た重力理論も扱うことが可能だ。超弦理論とは、クォークよりも遥かに小さい、すべての根幹となる粒子が丸い粒ではなく、1本の「ひも」とすることを基点とした考え方だ。

そのため、超弦理論で表現したブラックホールは、基礎物理学に対して新しい場を追加する必要があり、一般相対性理論で表現した場合と比べてその大きさや時空の歪み具合が観測可能なほど変化するという。

そうした中、研究チームは今回、EHTが撮影したM87銀河の中心に位置する超大質量ブラックホール(太陽質量の約65億倍)の観測データと、これらの異なる重力理論が適合するかの調査を実施することにしたという。

その結果、M87ブラックホールの観測データは、一般相対性理論と完全に一致することが判明。さらに、超弦理論に基づく重力理論に関しても、ある程度は一致していることが確認されたとした。つまり、M87ブラックホールの観測データを用いることで、さまざまな物理学の理論を検証することができるようになったとしている。

今回の研究の結果、現時点では、一般相対性理論以外の超弦理論に基づいた重力理論など、そのほかの重力理論の可能性を否定することはできないが、今回行われた計算により、これらのブラックホール解の有効範囲を制限することができたという。今後、新たにブラックホールの直接観測がまた行われれば、こうした制約条件も改善されていくとしている。

  • EHT

    さまざまな重力理論における事象の地平線(Horizon)のサイズの例。ブラックホール・シャドウ(Shadow)の大きさもそれぞれ異なり、上のモデルのように点線で表現されるシャドウのサイズが灰色の領域(EHT allowed region)に入る理論だけが、M87超大質量ブラックホールの結果と一致することになる。下の赤丸で表された理論モデルは、小さすぎるためM87巨大ブラックホールのモデルにはならない。(c) P. Kocherlakota (Univ. Frankfurt), EHT Collaboration & Fiks Film 2021(出所:EHT-Jpana Webサイト)