埼玉大学は5月13日、X線観測用の「eROSITA宇宙望遠鏡」を使った全天掃天観測などから、これまで静穏であった2つの銀河の中心核が準周期的な爆発を起こし、数時間おきに銀河全体に匹敵するほどに明るくなっていることを確認したと発表した。

同成果は、ドイツ・マックスプランク地球外物理学研究所(MPE)のリカルド・アコーディア大学院生、埼玉大大学院 理工学研究科 天文学研究室のマルテ・シュラム特任助教らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された。

eROSITA宇宙望遠鏡はMPEによって開発され、ドイツとロシアにより運用される高エネルギー天体物理学宇宙展問題「Spektr-RG」の一部をなすX線観測装置だ。2019年にラグランジェ2ポイント周囲のハロー軌道に乗せられ、掃天観測を行っている。そんなeROSITAが数時間から20時間弱の時間で増光を繰り返し、最も明るいときには銀河に匹敵するほどのX線放射を行っているという、2つの銀河を発見した。

銀河の中心部の非常に狭い領域が、その銀河全体の明るさを大きく上回るほどの激しい電磁波放射をしている場合、「活動銀河核」と呼ばれ、そうした活動銀河核を持つ「活動銀河」や、活動銀河核の一種で最も明るく輝く「クエーサー」などは古くから知られている。どちらも非常に遠方にある天体で、銀河中心の大質量ブラックホールにとてつもない量の物質が落ち込むことがきっかけで、その銀河のすべての恒星を足したよりも明るく輝くと考えられている(すべての物質がブラックホールに落ち込むわけではなく、一部はジェットとして莫大なエネルギーが放出される仕組みがある)。

しかし、今回のタイプの天体はそうした既知の天体とはまた異なり、今まで発見例の極端に少ない天体だという。これまでの発見例は、偶然発見された1例と、過去数年のアーカイブデータの詳細な調査から発見された1例の合計2例のみとしている。

eROSITA宇宙望遠鏡は掃天観測を行っていることから、こうした天体を発見するのを得意としており、論文主著者のアーコーディア大学院生はそれに気がつき、すぐに同望遠鏡で無バイアス観測を実施。その結果、同様の天体をさらに2例発見するに至ったという。

そして、欧州宇宙機関が1999年に打ち上げて現在も活動中のX線観測衛星「XMM-Newton」と、国際宇宙ステーションに2017年に搭載されたNASAの次世代X線望遠鏡「NICER」による追観測結果と合わせると、いずれもわずか数時間の間に振幅の大きなX線変動が確認された。

一方、埼玉大が参画する光・赤外線天文学大学間連携による観測などからは、通常の活動銀河核とは異なり、これらの天体に降着現象を示すスペクトルや高度変化は確認されなかったという。つまり過去の2例に対し、eROSITAによって発見された今回の天体の母銀河は、ブラックホールの活動性をこれまで示していなかったということである。

銀河の中心に位置する大質量ブラックホールは、天の川銀河の「いて座A*(エースター)」のように、周囲に物質がそれほど多くなくなり、現在は激しく物質を飲み込んでおらず、あまり活動的でないものも多い。今回発見された天体も、これまではあまり活動していないブラックホールを伴う平均的な低質量銀河と考えられていたという。そのため、突発的なX線の爆発的かつ準周期的な増光現象を、eROSITAが今回とらえていなければ、このような天体があることが見逃されていた可能性があるという。

銀河の中心にある大質量ブラックホールは、大質量とはいっても“比較的小さめ”から“超特大”まで、実はかなり幅がある。たとえばいて座A*は太陽質量の約400万倍ほどだ。それでも十分大質量だが、宇宙を見回したとき、実はまだまだかわいい方であることがわかる。

超特大な方は、いて座A*に0をさらにいくつか追加するレベルで、たとえばイベント・ホライズン・テレスコープ・プロジェクトが人類史上初めて直接撮影に成功したM87銀河中心のブラックホールなどは、太陽質量の約65億倍もある。

eROSITAによって今回発見されたブラックホールは、太陽質量の10万倍から1000万倍と、比較的小型である。今回の発見により、これら比較的小型の大質量ブラックホールのごく近傍を探査する機会を人類は手に入れたという。

今回の準周期的な放射は、連星系によく見られる現象だという。もし大質量ブラックホールの周囲を公転する天体の存在が、このようなX線の準周期的な爆発的上昇の引き金となっているとすれば、その質量はブラックホールの質量よりも遥かに小さいとする。具体的には、一般的な恒星や、太陽の8倍程度までの恒星が燃え尽きたあとに残される白色矮星程度である必要があるとしている。しかも、その公転する天体はブラックホールに近づくときに受ける強大な潮汐力によって、一部が破壊されている可能性もあるとしている。

  • X線の増光が見られた2つの銀河

    今回最初に発見された準周期的にX線の増光が見られた2つの銀河の画像。(左)eROSITAの掃天観測で初めて発見された、X線での準周期的爆発が見られた銀河の可視画像。画像上部の緑色のスパイクは、NICERによって得られたX線の光度変化。この銀河は「2MASS 02314715-1020112」と同定され、赤方偏移はz~0.05だった。X線変動の最大から最小までの時間は約18.5時間 (c) MPE; optical image: DESI Legacy Imaging Surveys, Legacy Surveys / D. Lang (Perimeter Institute)、(右)今回2番目に発見された、X線での準周期的爆発的が見られた銀河の光可視画像。この銀河は「2MASX J02344872-4419325」と同定され、赤方偏移はz~0.02である。画像上部のマゼンダ色のスパイクは、XMM‐Newtonによって得られたX線の光度変化。X線変動の時間間隔が狭く、頻度も高く、平均的には約2.4時間と最初の銀河よりも圧倒的に間隔が短い (c) MPE; optical image: DESI Legacy Imaging Surveys, Legacy Surveys / D. Lang (Perimeter Institute) (出所:埼玉大Webサイト)

現状、X線の準周期的かつ爆発的な増光の理由は、まだわかっていない。しかし、最近までこれらのブラックホールの近傍は静寂だったことから、何かが変化したのは間違いないだろう。一般的に活動銀河核やクエーサーなどの大質量ブラックホールは、その周囲に降着円盤が存在するが、今回発見された銀河のブラックホールに関しては、X線の準周期的な爆発的増光現象を起こすのに、これまで降着円盤が存在していなかったとしても説明はつくという。

今後のX線観測は、「公転する天体による爆発仮説」に制約をつける、もしくは否定することや、周期的に起こりうる変化を調べるのに役立つという。また、新たに同様の天体現象が見つかれば、世界に分散した光赤外天文学大学間連携の望遠鏡で、連続的な光赤外線観測も可能となるとしている。今後、このような天体は電磁波と重力波の療法での観測が可能となることも期待され、光赤外線天文学大学間連携による、さらなる観測からマルチメッセンジャー天文学の新たな道が切り開かれることになるだろうとしている。