東京大学は9月7日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のタンパク質「ORF3b」に、生体の免疫応答の1つで、ウイルスの感染を感知・伝搬する物質「インターフェロン」の産生を抑える効果があることを発見したと発表した。

同成果は、同大医科学研究所 附属感染症国際研究センター システムウイルス学分野の佐藤佳 准教授らによるもの。詳細は2020年9月4日付の学術誌「Cell Reports」(オンライン版)に掲載された。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のこれまでの研究から、COVID-19の特徴の1つとして、ウイルスの感染に対して、その感知や各所にそれを伝える役割を担うインターフェロンの産生が、インフルエンザやSARSなどのほかの呼吸器感染症に比べて抑制されていることが分かっていた。そのため、このインターフェロン産生の抑制がCOVID-19の病態進行と関連すると考えられてきたが、その原理についてはよくわかっていなかった。

そこで研究グループは、今回、新型コロナとSARSウイルス(SARS-CoV)の遺伝子の長さを比較を実施。その結果、SRASウイルスに対し、新型コロナウイルスの方が、ウイルス遺伝子「ORF3b」の長さが顕著に短いことが判明したという。また、SARS-CoVのORF3b遺伝子には、これまでの研究からインターフェロン産生を抑制することが知られていたことから、遺伝子の長さの違いと新型コロナウイルス感染時のインターフェロン産生の抑制との関連性に着目し、新型コロナウイルスのORF3bの機能解析を行ったところ、新型コロナウイルスのORF3bタンパク質は、SARSウイルスのORF3bよりも強くインターフェロンの活動を抑える働き(インターフェロン阻害活性)があることを確認したとする。加えて、こうもりやセンザンコウから見つかっている新型コロナウイルス近縁のウイルスのORF3bタンパク質でも、新型コロナウイルス同様、強いインターフェロン阻害活性があることも確認したという。

さらに、ORF3bの長さが部分的に伸長している配列を持つ新型コロナウイルス変異体が、広く世界で流行している新型コロナウイルスのORF3bに比べ、より強いインターフェロン抑制効果を示すことも確認。エクアドルにて、同ウイルスにも感染していた2名の新型コロナ患者は2名ともが重症であり、うち1名は死亡していたことも判明したという。

これらの結果について研究グループは、新型コロナウイルスのORF3bタンパク質には強いインターフェロン抑制効果があり、それが新型コロナウイルス感染症の病態と関連している可能性があることが示唆されたとする。また、ORF3b遺伝子の変異がインターフェロン抑制効果の増強につながることも明らかになったが、こうした変異体が出現し、強毒株として流行する可能性は極めて低いとの考えも示している。

なお、今回の成果を踏まえ、研究グループでは、ウイルス遺伝子の配列を解析することで、ウイルスの病原性を評価する指標のひとつとして使用できる可能性があるのではないかとの見方を示している。

  • 新型コロナウイルス

    今回の研究で調べられたウイルス遺伝子「ORF3b」の長さの比較イメージ (出所:東大Webサイト)