宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所(JAXA/ISAS)と国立天文台は2020年6月8日、次期太陽観測衛星計画「Solar-C_EUVST」について、ISASの公募型小型計画4号機として選定されたと発表した。

太陽から届く紫外線を分光観測し、太陽にまつわるさまざまな謎の解明に挑むミッションで、2020年代中ごろの打ち上げを目指す。

  • Solar-C_EUVST

    Solar-C_EUVSTの想像図 (C) NAOJ/JAXA (SOLAR-C WG)

Solar-C_EUVST

Solar-C_EUVSTは、JAXA/ISASと国立天文台が中心となって開発する太陽観測衛星である。ISASが計画の全般を統括、国立天文台は望遠鏡の開発を主導する。また、名古屋大学などの大学のほか、米国航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)、欧州各国の宇宙機関などとも協力する。

打ち上げ時の質量は約500kgの小型衛星で、ロケットは日本の小型ロケット「イプシロン」を使う。打ち上げ時期は、第25太陽活動周期の極大期に相当する2020年代の中ごろを予定。打ち上げ後、高度600km以上の太陽同期極軌道に投入され、約2年の運用が計画されている。

最大の特徴は、EUVST(High-Throughput Spectroscopic Telescope)と呼ばれる望遠鏡で、従来の約7倍もの高い空間分解能と、高い時間分解能をもつ分光観測を実現する。また、極端紫外域のさまざまな輝線をとらえることで、約1万℃から約1000万℃にわたる幅広い温度帯を隙間なく観測することができる。

Solar-C_EUVSTは、太陽にまつわる大きく2つの謎の解明を目指す。

1つ目は「太陽大気加熱の謎」である。太陽にはコロナと呼ばれる大気層があり、またそのガスは外に流れ出し、惑星間空間を毎秒300~800kmの速さで吹く「太陽風」となっている。

コロナの温度は100万℃以上にもなるが、太陽表面の温度は約6000℃しかなく、なぜコロナがこれほど高温にまで加熱されているのかはわかっていない。そのメカニズムとして、「ナノフレア説」と「波動加熱説」が提案されているが、従来の観測装置では、それぞれの観測する温度帯にギャップがあったり、分解能が足りていなかったりといった理由から、解明は困難だった。

そこでSolar-C_EUVSTは、幅広い温度帯を隙間なく同時に、なおかつ高い空間、時間分解で観測できる能力をもって、コロナの加熱がどのようなメカニズムで、どれくらいの割合で起こっているのかを解き明かすことを目指している。また、コロナの加熱は、太陽風を加速させる仕組みにも密接に関連しているため、その全体像を明らかにすることも目指す。

2つ目は「太陽フレア」と呼ばれる、太陽表面で起こる大規模な爆発現象の発生メカニズムの解明である。

現在の研究では、太陽フレアは「磁気リコネクション」という過程を通じ、コロナ中に蓄積された磁場のエネルギーが熱やプラズマの運動エネルギーに変換される現象だと考えられている。しかし、フレアを生み出せるほどの高速な磁気リコネクションはどのように発生するのか、そしてそれだけの磁気エネルギーはどのように蓄えられ、解放されるのかといったことはわかっておらず、Solar-C_EUVSTが解明に挑む。

  • alt属性はこちら

    太陽を観測するSolar-C_EUVSTの想像図 (C) NAOJ/JAXA (SOLAR-C WG)

計画の経緯と、今後の予定

同プロジェクトは当初、伝説的な太陽観測衛星「ひのとり」、「ようこう」、「ひので」に続く中型の太陽観測衛星「SOLAR-C」として立ち上がった。検討は2007年から始まり、2015年にISASの「戦略的中型計画」と、ESAの「コズミック・ヴィジョン (M4)」にミッションの提案書が提出された。

ISASの理学委員会からは高い評価を受け、最優先で進めるとされたものの、ESAのM4においてSOLAR-Cへの欧州貢献分が選ばれることが前提とされた。しかしその後、M4の選定においてSOLAR-Cが脱落したことで、前提が崩れ、ミッション定義審査(MDR)を通過することができず、ワーキング・グループへと差し戻された。

その後、計画の練り直しが行われ、科学課題の尖鋭化や装置の開発を進め、将来の戦略的中型計画への再提案を目指すとともに、搭載機器や規模などを絞った衛星を、公募型小型計画に提案する作業が進められた。

公募型小型計画は、イプシロン・ロケットを打ち上げ手段とし、日本が主体で実施する、もしくは日本が重要な寄与をする国際的な成果を生み出す科学衛星・探査機プロジェクトで、予算150億円以下の比較的小型の計画と位置づけられている。

そして2018年にSolar-C_EUVSTミッションの提案書が提出され、今回公募型小型計画4号機として選定されることとなった。なお、中型計画のSOLAR-Cについては現在、2030年代の実現を目指し、検討が続けられている。

同プロジェクトではまた、衛星の計画や提案と並行して、新しい観測装置をいきなり衛星に積むのはリスクが大きいことから、観測ロケットや気球を使った技術実証や、観測実験も実施している。

2015年には観測ロケットを使った紫外線で彩層の磁場を測る実験「CLASP」に成功、2019年には観測波長を変えて彩層の磁場をさらに詳しく測る「CLASP2」にも成功した。

また2018年には、高エネルギーのコロナを観測する観測ロケット実験「FOXSI-3」に成功し、さらに2021年には気球に搭載した望遠鏡を使い、赤外線で彩層の磁場を測る実験「SUNRISE」が計画されている。

参考文献

Solar-C (EUVST)が公募型小型4号機に選定されました | 次期太陽観測衛星「Solar-C_EUVST」
ISAS、公募型小型4号機にSolar-C(EUVST)を選定 | 宇宙科学研究所
SOLAR-Cプロジェクト
科学目標 | 次期太陽観測衛星「Solar-C_EUVST」
第48回宇宙理学委員会議事録