インド財務省、宇宙省は2020年5月16日、宇宙活動への民間の参入を促進することを目的とした計画を発表した。地球観測のデータの開放や、参入や活動のためのルール作りのほか、将来的には月・惑星探査や有人宇宙飛行も民間に開放するという。

インドのナレンドラ・モディ首相が12日に発表した、20兆ルピー(約29兆円)規模の経済政策「自立したインド」の一環として定められたもので、新型コロナウイルスによる経済危機を乗り越えることを目的とした成長戦略の柱のひとつとして、宇宙ビジネスが選ばれた格好だ。

  • PSLV

    2019年12月に打ち上げられた「PSLV」ロケット (C) ISRO

宇宙活動への民間企業の参入を促進

発表によると、この政策は主に以下の5つのポイントからなる。

  1. 人工衛星の開発やロケットの打ち上げ、宇宙を利用したサービスの分野において、民間企業に公平な競争の場を提供
  2. 民間企業に対し、参入するのに必要となる政策の情報や、活動にあたって必要となる規制を提供
  3. 民間企業によるインド宇宙研究機関(ISRO)の施設やその他の関連資産を利用することを許可
  4. 将来的には惑星探査や有人宇宙飛行などのプロジェクトも民間企業に開放
  5. ベンチャーなどで利活用を目指した、フリーな地球観測データやデータポリシーの提供

インドの宇宙開発は長らく、インド宇宙省と、その直属の機関であるISROが主導してきた。ISROのロケットの商業打ち上げなどを担当する部門として、アントリクス(Antrix)やニュースペース・インディア(NewSpace India)といった会社はあるが、いずれもインド政府が所有する国有企業であり、純粋な民間の宇宙企業はほとんど存在しなかった。宇宙機の製造をヒンドスタン航空機が担当することもあるが、あくまでISROへのサプライヤーという立ち位置であり、そもそも同社も国有企業である。

一方で近年では、民間の企業や団体による月探査を目指した技術レース「グーグル・ルナー・Xプライズ(Google Lunar XPRIZE)」に、インドから「チームインダス(TeamIndus)」が参加したり、2018年には衛星ベンチャーの「サテライズ(Satellize)」が誕生したりと、民間による宇宙開発も徐々に生まれてきている。

ISROが開発した「PSLV」は、世界で最も安価なロケットのひとつであり、コスト競争力では高いポテンシャルをもっているが、打ち上げ頻度は低く、商業打ち上げ市場でのシェアは低い。ISROとインドの民間宇宙企業とが効果的かつ相乗的に協力すれば、インドにとって大きな利益を得ることができるのはたしかであろう。

インドのメディアに対し、ニルマラ・シタラマン財務相は「インドはISROからすでに多くの恩恵を受けていますが、最近では民間企業も革新的な宇宙技術を持って参入しつつあります。私たちはそうした民間企業が、ISROがもつ資産から恩恵を受けられるようにし、インドの宇宙分野をさらに後押しするための、公平な競争の場を提供したいと考えています」とコメントしている。

シタラマン財務相はまた、鉱業や防衛産業、民間の航空産業、電力、原子力などの分野でも、宇宙開発と同様に大規模な改革を行うとしており、「成長の新たな視野」と称している。

モディ首相はTwitterで「インドの科学者たちは、驚くべき知性と思いやりを兼ね備えています。彼ら、彼女らはインドの発展のためにつねに働き続け、そして新型コロナウイルスとの戦いにも貢献しています」と讃えるとともに、この政策における科学の重要性を説いている。

なお、ISROと宇宙省は今回の発表に対して「政府の定めたガイドラインに基づき、インドにおいて民間企業が宇宙活動を行うことができるようにする」とコメントするにとどまっている。

「自立したインド」に向けた、成長の新たな視野

この政策の背景には、5月12日にモディ首相が発表した「Aatma Nirbhar Bharat(自立したインド)」と呼ばれる経済政策がある。これはインドのGDPの約10%にも相当する20兆ルピー(約29兆円)を投入する経済対策パッケージで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による危機を乗り越えるためとして立ち上げられた。

この中でモディ首相は、「経済」、「インフラ」、「テクノロジー主導のシステム」、「人口の活用」、「需要喚起」の5つの柱を打ち立て、主に産業面で、世界から自立することを目指すとしている。モディ首相はまた、「"自立したインド"こそが、COVID-19の危機から抜け出す唯一の方法である」と述べている。

こうした流れは、モディ首相が就任以来打ち続けている、「メイク・イン・インディア」と呼ばれる製造業の振興政策にも連なるものである。

13億人もの人口を抱えるインドは、すでに世界有数の経済大国ではあるものの、多くの分野で輸入超過の状態にある。また、その人口のうちの大半は農村部に住んでおり、産業構造の改革が求められているほか、経済やインフラ整備などの点でも多くの課題を抱えている。このため、他国からの製造業の誘致やインフラ整備、免許制度や規制の緩和といった環境整備が進められている。

参考文献

https://pib.gov.in/PressReleasePage.aspx?PRID=1624536
What are the five pillars of a self-reliant India? Read to find out more…
PM Modi announces Rs.20 lakh crore package focusing on land, labour, liquidity and laws...Know all about it here!
Private firms to get access to ISRO’s facilities, space exploration opportunities - india news - Hindustan Times
Satellize - The faster, smarter way to space.

鳥嶋真也(とりしましんや)

著者プロフィール

宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。

宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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