近年、働き方改革や人手不足を解決する手段として企業の業務を効率化させるRPAが盛んに導入されています。今まで人が多くの時間を費やして行っていた打ち込み作業やデータ処理等がRPAによって短時間で処理され、企業のコスト削減や人手不足の解消に役立っています。RPAはデータ入力だけでなく、提出書類の不備チェックや受注案件の事務処理など多くの作業をこなします。各企業の導入事例について詳しく説明していきます。

①事務業務へのRPA導入事例

事務業務でRPAを導入する大手企業の事例として、タイヤ大手の住友ゴム工業経営企画部、神戸製鋼所などの事例を取り上げてご紹介します。また、RPAを積極的に取り入れて成果を上げている業界には大量の顧客情報を管理する金融業界もあり、大手、地方問わず定型業務が多い中、RPA導入に伴う大きな作業時間の削減効果を出しています。さらにシステム開発のさくらケーシーエスについてもご紹介していきましょう。

導入理由・現状の課題

タイヤ大手の住友ゴム工業の経営企画部では、毎月月末の役員会議用の資料作りに異なる書式の資料を切り貼りし、17時間以上の時間をかけていました。また、神戸製鋼所でも同様に社内会議で使う資料作成に多くの時間を費やしており、両社はこの問題を解決すべくRPAを導入しています。大手銀行の三井住友銀行では低金利で利益確保が忙しい中、データ整理などに大量に費やされていた時間の改善のためにRPAを導入しています。

導入効果

住友ゴムではRPAを導入することにより、たった30分で資料の準備ができ、残業時間は3分の1に減りました。余裕が生まれたことで一歩踏み込んだ分析に時間をかけられるようにもなりました。同様に、三井住友銀行ではデータ整理などに追われていた時間を顧客との面談や提案内容の準備に使えるようになり、意欲や生産性の向上につながっています。さくらケーシーエスではRPA導入で蓄積した社内のノウハウを外販する予定です。

②製造業へのRPA導入事例

製造業へのRPAの導入事例として兵庫県にある1965年設立のヒメジ理化株式会社を紹介します。同社は熟練された技能者たちの技と自社オリジナルの機械設備による生産技術力を強みとしています。各種照明用のバルブの生産や液晶、半導体、デジタル家電や太陽光発電、環境、医療の分野などで幅広く利用される石英製品などを製造していて、2019年2月から本格的にRPAが稼働しています。

導入理由・現状の課題

ヒメジ理化株式会社では新しい工場の設備を見据えており、既存工場の業務効率化や働き方改革への対応が課題になっていました。具体的には業務スピードの向上、ヒューマンエラーの防止で、月間約80時間を要していた業務の全工程をRPAによって自動化し、作業を効率化することが導入の目的です。ポイントは残業時間、作業品質と作業スピード、効率、ブラックボックス化している業務、注力すべき業務です。

導入効果

導入からまだ時間が経っていないためRPA導入による効果は定かではありませんが、可能性として考えられるのは以下の5点です。導入効果として残業時間の削減や担当者の作業品質、作業スピードの改善、また担当者ごとにやり方が異なるといった問題を解決し仕事に統一性を持たせられることがあります。また、業務内容は常にオープンで各業務にしっかりと担当者を配置すること、新たに注力すべき業務を後回しにせず速やかに取り組めることです。

③自治体へのRPA導入事例

RPAは将来的に自治体の大量の定型業務を担うことも考えられており、2018年10月から2019年3月にかけて北海道や北海道内の9個の自治体で実証実験がありました。その事例を紹介します。

主な実験の内容は、全国の自治体で同じように行われている定型的な業務を対象にRPAとAI-OCRを用いた実験で、業務効率化の可能性の検証です。

具体的には定型的な業務を標準化・共通化してRPAに自動処理させる仕組みを構築した実証実験です。

導入理由・現状の課題

自治体によるRPA導入の理由としては、自治体が支えている住民生活に身近な行政サービスが人口減少などによって労働力不足になることや、定型的な業務に多くの労力が必要とされていることなどが挙げられます。RPA導入やAIロボティクス導入でこれらの課題を改善することによって、スマートな自治体へ転換していくことが目的です。

導入効果

自治体によるRPA導入では、給与支払い報告書の入力支援やワンストップ特例申請の省力化などがシナリオとして描かれ、職員の作業は最大9割低減できることも実証できました。一方、課題としては動作環境も含んだ業務フローの見直し、共同利用を見込んだ様式の標準化などがあります。また他システムとの接続を考慮した出力、OCRの識字率を踏まえた最終確認作業、利用者を意識した操作性などもあり、今後の検討が必要になります。

多摩市のRPA化 - エバンジェリスト育成し内製化を推進

④総務へのRPA導入事例

企業には多くの部署があり、各部署のことは互いによく知らないという場合がほとんどです。総務は社員が働きやすい環境を整え、スムーズな業務をサポートする仕事で、他にも設備品の交友や会社の建物管理、福利厚生制度の整備や社内制度の見直し、さらに会社主催のイベント運営などを行います。どの部署にも属すことのない総合的な仕事を引き受ける、いわば会社の便利屋的存在の総務でのRPA導入の事例を紹介します。

導入理由・現状の課題

BPOやコールセンターのアウトソーシングを手掛けるビーウィズの総務部の業務は繰り返しの作業が多く、RPAが活躍する可能性が大いにありました。それまで力業で進めていた総務部の業務のうち、ワークフローの処理をRPAで行うことにし、実際に実行しています。ワークフローの処理は求められるスキルはさほど高くないものの、トータルで見ると多くの時間がかかり、総務部の課題になっていたのが導入の理由です。

導入効果

RPAツールのGaroonを導入した結果、人為的なミスを防ぐことができ、年間ベースで100時間の工数削減につながり、貴重な社員のリリースを別の業務にあてられるようになりました。結果として業務の効率化が進み、社員は技術を使って他社よりも価値のある提案ができるようになりました。ビーウィズではRPA導入に関してのノウハウだけでなく、人間が行う業務の工程も含めた整理や提言を外販する準備を整えています。

RPA×BPO ビーウィズ

⑤人事へのRPA導入事例

社員の入社や退社といった情報を顧客企業に代わって自治体に申請する業務を手掛ける人事労務コンサルティングのTMCの事例を紹介します。TMCは栃木県那須塩原市にある会社で、NTT東日本が開発したロボティックはプロセス・オートメーションなどを導入し単純作業を任せ業務効率の向上を図っています。手書きの書類の読み取りからデータ登録、申請後の完了報告までをほぼ自動で済ませることができます。

導入理由・現状の課題

MTCでのRPAツール導入の理由は多くの企業が人手不足によって総務事務をアウトソーシングし、多大な仕事に追われるようになったことと、人手による入力ではこなせる量に限りがあったことです。自治体が先行して行っているRPAを中小企業で導入し、活用している事例は珍しく注目を浴びています。

導入効果

TMCでNTT東日本のロボティック・プロセル・オートメーションを導入したことにより、入力スピードがアップしただけでなく、ミスが少なくなり、作業効率は人の10~60倍になりました。夜間にシステムを動かして自動で作業を進め、日中に人の目で確認することにより、生産性が大幅に向上しています。2カ月ほどの試験運用で誤作動の有無などを確認し、本格導入を行っています。

栃木の社会保険労務士法人がAI-OCR+RPAで月間1100時間を削減

⑥保険へのRPA導入事例

一般的にはコンサルティング企業やSIerによる全体最適化が主流のRPA導入ですが、保険会社のあいおいニッセイ同和損害保険を含めたMS&ADインシュアランスグループでは一部の部署にRPAの導入を開始しており、一定の成果を得ています。人材育成を並行させ、業務再摘果の目的を明確にすることで現場の抵抗をはねのけRPA導入に踏み切ったあいおいニッセイ同和損害保険の事例を紹介しましょう。

導入理由・現状の課題

あいおいニッセイ同和損害保険のRPA導入の理由としてはデジタル社会・将来の外部連携を見据えたデータ蓄積・分析基盤を段階的に構築していくためであり、自ら変革を生み出す企業文化の構築を目指すためでもあります。RPA導入は数年前から課題として認識していた紙ベースのやり取りや二重入力業務の無駄を払拭し、事務管理部門をフロントに移行させ新たな付加価値を生み出すことによって新しい資源を生み出すのが目的です。

導入効果

あいおいニッセイ同和損害保険の経理部では作業の上流からデータ化を実現することで約4万時間の削減に成功しています。しかし当然現場の抵抗感は根強く、自らの業務の企画立案をし、継続的業務改革を実現させることに労をいとわず取り組むことが必要だとしています。

⑦営業へのRPA導入事例

RPAを営業へ取り入れている企業もあります。営業は企業活動の中でも企業の売り上げに関する重要な部署で常に人間を相手にしている人間臭い部分でもあります。一見RPAとは無関係の分野に思える営業ですが、RPAを活用し、作業の負担軽減を図ることが可能です。キャノンマーケティングジャパンとCogent Labsが共同で2017年に横浜銀行に提供し、営業面の強化を図った事例を紹介します。

導入理由・現状の課題

横浜銀行では銀行を取り巻く経営環境が厳しく、本部事務の効率化や行員の生産性向上による営業面の強化が課題でした。しかし、RPAを導入し業務の効率化を推進していくためには、紙から手入力するインプット業務の効率化を進めなければならず、キヤノンMJとコージェントラボはイメージエントリーシステムと手書きAI OCRエンジンを連携するソリューションの構築を提案し、提供することになります。

導入効果

イメージエントリーシステムと手書きAI OCRエンジンを連携するソリューションの導入後はインターネットバンキングや投資の申込書など年間約24,000件のデータに関する作業をデジタル化、自動化することにより効率的な作業が実現します。これにより横浜銀行では約40%の時間短縮を目指し、さらに対象帳票の拡大を行って、業務効率化を推進していくことでコスト削減を拡大していく予定です。

⑧医療へのRPA導入事例

医療分野においてもRPAツールの本格的な導入が始まっています。国立大学法人名古大学医学部附属病院の院内全ての事務部門でRPAテクノロジーズの提供するRPAツール「BizRobo」を導入した事例を紹介します。名大病院は業務の洗い出しを行い、各部署にて実証実験を行い、医師勤務時間の集計、外部資金や科学技術研究費補助金の収支簿作成など9つのロボットを職員自らの手で作成しています。

導入理由・現状の課題

名大病院で「BizRobo」を導入した背景には医療業界の医師や看護師をはじめ、様々な職種における過重労働・人手不足に悩まされている現状があります。今後、高齢化社会に拍車がかかることによって労働需給の逼迫が深刻化することは間違いありません。そんな中、事務業務の効率化や自動化を行い、余力時間の確保により病院の企画や戦略的な業務、患者サービスなど付加価値の高い業務へシフトできる可能性がRPAツールです。

導入効果

名大病院でのRPAルーツ導入の効果としては業務の効率化による415.7時間の業務削減、さらに2019年5月からは院内全ての事務部門においてもRPAを本格導入することで合計9,800時間の業務効率化が見込まれています。さらに名大での事例は国立大学病院では他機関に先行したモデルケースとなり、全国の国立大学病院で成果を共有し、業務効率化を促進し、医療現場の働き改革の支援にもつながることになるでしょう。

⑨勤怠管理へのRPA導入事例

アサヒビールやアサヒ飲料といった大手飲料メーカーを擁するアサヒグループホールディングスのバックオフィスであるアサヒプロマネジメントではグループ30社、社員1万7,000人あまりの給与計算や勤怠管理を一手に引き受けています。大々的なビアガーデンに伴う1カ月で200人ものアルバイトの雇用など人事データ年間3万6,000件になるという膨大な仕事量をこなすアサヒプロマネジメントの勤怠管理の事例を紹介します。

導入理由・現状の課題

アサヒプロマネジメントでは各社からエクセルで作成した連絡票をメールで受け取り、内容を確認してから人事システムと勤怠管理システムに手入力するという二度手間の作業を行っていました。また、夏のイベントやお中元、お歳暮のシーズンに増えるアルバイトには人事業務部のメンバーが手分けしてデータを処理するなどの状況が続いていましたが、対応が間に合わないこともあり、RPAの導入に踏み切ります。

導入効果

アサヒプロマネジメントはRPAを導入したことにより年間約1,300時間の業務量削減に成功しています。手入力の作業がなくなり、記入漏れなどもなくなり、担当者が本来取り組むべき業務に集中し、質を高めることにつなげられました。現在はシステム導入で手にしたノウハウを使い、経理、営業部門など他の業務領域に適用範囲を拡大しています。さらに業務システム部では業務時間の削減効率も重視していく方向です。

リンク-導入事例:アサヒプロマネジメント

⑩コールセンターへのRPA導入事例

NTTコミュニケーションズは人工知能とRPAを組み合わせてコールセンターの業務を自動化するサービスを展開しています。自動音声による問い合わせ対応から対応内容の記録などの後続処理まで一連の業務をオペレーターを介することなく自動化し、通信販売の電話による商品注文、飲食店の予約確認などコールセンター業務での利用も想定しています。自社のコンタクトセンターで実施している事例をご紹介します。

導入理由・現状の課題

コールセンターの需要は拡大傾向にある一方で人材採用が難しく、定着率も低いという課題を抱えていました。また、大手飲食店では予約客の無断キャンセルなどが相次ぎ、一方的に飲食店側が損害を被るケースも頻繁に起こっていました。このような現状を打破するための策としてRPAの導入が考えられました。

導入効果

NTTコミュニケーションズのコンタクトセンターの一部で営業時間外の問い合わせ対応を自動化した結果、9割以上の問い合わせをAIによる対応のみで完結できています。また一般的なオペレーター1人当たりにかかる費用を通常より2~3割低い金額で提案することも可能としています。さらに大手飲食店予約サイトとの提携では年間2,000億円に上るとされる食品ロスなどの損害抑制にもつながると考えています。

リンク-実用段階に入った AIによる自動応答 - NTTコミュニケーションズ

⑪不動産へのRPA導入事例

約9万都に上る賃貸住宅を管理している東急住宅リースではアメリカUiPathのRPAソフトウェア「UiPath」を導入し、基幹システムへのデータ入力やPDF化した契約書類のアップロード、入出金管理に関する一覧表や集計表の作成など多くの事務作業を自動化しています。ここでは、より複雑な事務作業を自動化するためにOCRやAIの検討もはじめている東急住宅リースの事例を紹介します。

導入理由・現状の課題

東急住宅リースでは毎年約20%の入居者が入れ替わり、そのたびに契約や解約に関する基幹システムへのデータ入力作業が発生していました。これらの作業は煩雑でとても時間がかかっていたため、事務作業を効率化するためにRPAツールの導入を決めました。

導入効果

東急住宅リースでRPA導入に伴い2019年1月時点で74件の業務を自動化しています。同社では基幹システムへのデータ入力、PDF化した契約書類のアップロード、入出金管理に関する一覧表、集計表の作成などの多くの事務作業を自動化した結果年間約4万時間ほどが削減できると想定しています。またロボット開発の内製化を進めて2020年度末までには年間15万時間の事務作業の自動化を予定しています。

RPA導入に失敗するよくあるパターン

多くの企業や業務でRPAの導入が検討され、また実際に導入された事例をご紹介してきましたが、RPA導入に関しては、これらの成功事例だけでなくもちろん失敗事例もあります。高額な経費をかけて導入する一大プロジェクトですからじっくりと検討し、導入を決めたいものです。RPA導入にあたり、失敗するよくあるパターンを3つのポイントで紹介します。決して魔法のツールではないRPAの本質を理解し有効利用しましょう。

最終目標なく導入を進めてしまう

RPA導入の失敗した事例に共通する点として、しっかりとしたプロジェクトとしてスタートし、計画的に改革を進めるのではなく、とりあえずRPAツールのライセンスだけを購入して、成り行きで進めてしまうということがあります。明確な最終目標がないので出来た分だけの自動化になってしまい、いつの間にか導入したRPAツールの欠点が目につきプロジェクト自体が自然消滅してしまうパターンです。RPA導入には最終目標をしっかりと定めることが必要です。

現場の業務ユーザーの要望を吸い上げられていない

RPAの目的は現場の業務の軽減化であり、全体の業務効率化で、その目標を達成するためには現場の業務ユーザーがどんな業務に時間を割いているのかを把握しておく必要があります。また逆に企業としての方針や最終目標を業務ユーザーに理解してもらうことも重要です。そのどちらかを怠ったプロジェクトは失敗するパターンが多く、実際の業務に従事する現場ユーザーの声をしっかりと吸い上げ、巻き込んでいくことが重要です。

導入前後での数値による効果検証ができていない

RPA導入にあたりその成果を検証できないというケースでも失敗する事例が多くあります。業務の自動化はできたけれど結局どの程度効率化されたのかが数値で表せない場合は成果を公にも出来ませんし、職員のモチベーションを上げることもできません。具体的な数値目標を設定する、もしくはプロジェクトを始める前に計画的に定量効果を算定するなど、数値として成果が表せるような方法を考える必要があります。