中国国家航天局(CNSA)の月探査機「嫦娥四号」が2019年1月3日、月の裏側への着陸に成功した。月の裏側に探査機が着陸したのは史上初となる。

さらに同日夜には探査車「玉兎二号」が月面に降り、走行を開始。月の裏側の写真も送られてくるなど、本格的な探査に向けた準備が順調に進んでいる。

  • 嫦娥四号

    月の裏側の「フォン・カルマン・クレーター」に着陸した「嫦娥四号」の着陸機(探査車「玉兎二号」から撮影) (C) CNSA

嫦娥四号と玉兎二号

嫦娥四号は2018年12月8日に打ち上げられた探査機で、月までの飛行と月面への着陸を行う着陸機と、そこに搭載された探査車「玉兎二号」からなる。

着陸機は質量約1200kgで、カメラや月面の塵の測定装置、地震計、ドイツから提供を受けた高速中性子やガンマ線、宇宙線の計測装置などを搭載している。

玉兎二号の質量は約140kgで、カメラや地中レーダー、またスウェーデンから提供を受けた、太陽風と月との相互作用や、月の水について調べる高速中性粒子分析機などが搭載されている。

  • 玉兎二号

    嫦娥四号の着陸機から発進した探査車「玉兎二号」(着陸機から撮影) (C) CNSA

機体は、2013年に打ち上げられた探査機「嫦娥三号」の着陸機と探査車「玉兎号」をもとに、改良や観測装置の変更などを施したもので、基本的には同型機である。両者のいちばんの違いは、三号は月の表側に降りたのに対して、四号は月の裏側に降りるという点である。

月は自転周期と公転周期がほとんど同じで、地球に対してつねに同じ面を向けている。この面のことを月の表側といい、その反対側の地球から決して見えない面を裏側と呼ぶ。月の裏側が見えない、直接通信ができないといった問題から、そこに探査機を着陸させるのは、表側よりも難易度がやや高い。

そこで中国は、「嫦娥一号」や「嫦娥二号」のデータで作成した月の地図を活用したり、2018年5月に月の裏側を回る軌道に「鵲橋」(じゃっきょう、かささぎばし)と名づけた通信衛星を打ち上げたりなど、周到に準備をしたうえで嫦娥四号のミッションに挑んだ。

嫦娥四号は打ち上げ後、まず地球を回る軌道に入り、続いて高度を上げて月に到達。そこでエンジンを噴射し、12月12日に月を回る軌道に入った。観測機器や通信機器などの試験や調整などを行ったのち、12月30日には近月点が高度15kmの軌道に移った。

そして2019年1月3日11時26分(日本時間、以下同じ)、月の裏側の、南緯45.5度、東経177.6度の地点に軟着陸した。また同日23時22分には、玉兎二号が着陸機から発進し、月面に踏み出した。

すでに着陸時の映像や、月面で撮影した写真なども送られてきており、これから観測機器の試験や調整などを経たのち、本格的な探査が始まることになる。

  • 嫦娥四号

    嫦娥四号の着陸機から撮影されたパノラマ写真 (C) CNSA

嫦娥四号が降りた月の裏側

嫦娥四号が降り立った場所は、「南極エイトケン盆地」と呼ばれる領域の中にある、「フォン・カルマン・クレーター」の内部にあたる。

南極エイトケン盆地は深さ約13km、直径約2500kmで、月の南緯15度から南極にわたって広がっていることからその名がつけられた。月の中で最大、また太陽系の天体の中でも最大級のクレーターで、過去に巨大な天体が衝突してできたと考えられる。南極エイトケン盆地は過去に巨大な天体が衝突してでき、その衝突によって月の内部の物質が掘り起こされ、露出した状態で固まっていると考えられており、月の裏側の中でもとくに地質学的に興味深い場所とされる。

その後、年月を重ねるにつれ、多数の小天体が衝突し、クレーターを生成。そのうちのひとつが、今回嫦娥四号が着陸したフォン・カルマン・クレーターである。

この場所が着陸地点として選ばれたのは、大きな科学的成果が得られる可能性のある南極エイトケン盆地の中であること、またクレーターの中なので比較的なだらかで着陸しやすいこと、そして南緯45.5度と、比較的着陸しやすい場所であることが挙げられる。

また、その名前の由来となった、有名な航空宇宙エンジニアであるセオドア・フォン・カルマン氏が、中国の宇宙開発の父とも呼ばれる銭学森氏の、米国留学時の師であるというつながりもあったのかもしれない

  • 月の裏側

    NASAの月探査機「ルナ・リコネサンス・オービター」が撮影した月の裏側。南半球のやや暗くなっている一円が南極エイトケン盆地 (C) NASA

月の裏側は、1959年にソ連が打ち上げた探査機「ルナー3」によって初めて探査されたのを皮切りに、ソ連や米国、欧州や日本など、多くの月周回探査機が探査し続けてきた。しかし、その地面に降りた探査機はなく、嫦娥四号が史上初となる。

これまでの探査で、月の裏側は表側とは多くの違いがあることがわかっている。

月は大きく分けて、斜長岩の高地と、玄武岩の「海」の二種類の地質に分かれている。海、といっても水があるわけではなく、玄武岩の色が黒っぽいため海のように見えることからこの名がついている。この海が、月の表側には30%ほどあるものの、裏側には2%ほどしかない。

また、地中をレーダーなどで測ったところ、表側の地殻の厚さは平均60kmほどなのに対して、裏側は平均68kmほど、最大で100km以上もある。そして、この地殻の厚さの違いも一因となって、月の重心は月の中心より2kmほど地球側に寄っていることもわかっている。

こうした違いは、月の誕生と進化の歴史にかかわる問題のひとつと考えられているが、なぜ違いが生まれているのか、まだよくわかっていない。

嫦娥四号による探査は、こうした謎を解くきっかけになるかもしれない。

参考:月の裏側へ着陸せよ! 中国、月探査機「嫦娥四号」を打ち上げ

出典

http://www.clep.org.cn/n5982341/c6805036/content.html
http://www.clep.org.cn/n5982341/c6805050/content.html
http://www.clep.org.cn/n5982341/c6805058/content.html
http://www.clep.org.cn/n5982341/c6805087/content.html
http://www.clep.org.cn/n5982341/c6805176/content.html