嫦娥四号

こうした準備をした上で、嫦娥四号は12月8日3時23分(日本時間)、「長征三号乙」ロケットによって、四川省の西昌衛星発射センターから打ち上げられた。深夜だったためか打ち上げの生中継はなかったが、ロケットは順調に飛行し、嫦娥四号は無事、月に向かう軌道に入った。

そして12月12日17時45分、月の周回軌道に入った。今後、中継衛星との通信や航法センサーなどの試験を行いつつ軌道を調整し、着陸を目指すという。なお、着陸日は公式には発表されていないが、2019年1月3日ごろを予定しているという。おそらく月軌道上での各種装置の試験や、正確な着陸場所の選定の進み具合によって、多少遅れることはあろう。

嫦娥四号の機体は、もともと嫦娥三号のバックアップ機として開発していた機体に改良を加えたもので、着陸機と探査車という構成にも変わりはない。双方とも太陽電池で発電し、また月の夜に耐えられるよう、プルトニウム238の崩壊熱を使うヒーターを搭載している。

着陸機は質量約1200kgで、設計寿命は1年が予定されている。嫦娥三号の着陸機にも搭載されていた、降下時に撮影するカメラと、着陸後に地形を撮影するカメラを搭載している。なお、嫦娥三号の地形カメラは、着陸後に最初の月の夜を迎えた際に故障したため、改良型と考えられる。

嫦娥三号にはこのほか、紫外線望遠鏡や極端紫外線カメラなどが搭載されていたが、嫦娥四号では代わりに、月の塵を観測する月面ダスト・アナライザー、月面からの高さごとの電場の大きさを測定する電場分析器、プラズマ・磁場観測装置、地震計、電波天文観測のための超長波(VLF)の電波干渉計、そしてドイツが開発した、高速(エネルギー値の高い)中性子やガンマ線、宇宙線の線量を計測できる装置も搭載している。

また一部報道では、ジャガイモとシロイヌナズナの種と、カイコの卵を入れたカプセルも搭載されているという。発芽した植物は光合成によって二酸化炭素を取り入れ酸素を出す一方で、孵化したカイコは酸素を吸って二酸化炭素を排出することから、小さな人工生態系を作り出せると考えられている。カプセル内には小型カメラがあり、成長の具合を見守ることができるという。この成果は将来的に、月での植物や動物の育成に役立つかもしれない。

  • 月の裏側に着陸した嫦娥四号の想像図

    月の裏側に着陸した嫦娥四号の想像図 (C) CNSA

一方の探査車は、質量約140kgで、設計寿命は3か月。なお、嫦娥三号の探査車には玉兎号という愛称があったが、嫦娥四号にはいまのところ付けられていない。愛称の公募は行われていたようだが、何らかの事情で選定されなかったか、まだ公表されていないようである。

嫦娥四号の探査車にも、やはり玉兎号にも搭載されていたパノラマ・カメラ、地中レーダー、赤外線分光計を搭載している。ただ、ロボット・アームに取り付けられていたアルファ粒子X線分光計は、ロボット・アームごとなくなっている。その代わりに、地震の探査装置と、超長波の電波受信機が搭載されているという。

また、スウェーデン宇宙物理学研究所(Swedish Institute of Space Physics)が開発した高速中性粒子(energetic neutral atom)分析器も新たに搭載。この装置は太陽風と月面との相互作用や、月の水について調べることができるという。

なお、嫦娥三号の玉兎号は、ミッション開始早々に走行不能になったことから、この部分にも改良が施されているものとみられる。

  • 嫦娥四号の探査車の想像図

    嫦娥四号の探査車の想像図 (C) CNSA

嫦娥計画の今後

嫦娥四号のミッションはまだ始まったばかりだが、中国はすでに、嫦娥計画の次の一手を打っている。

2019年に打ち上げ予定の「嫦娥五号」は、月面に着陸し、石や砂などのサンプルを採取し、地球に持ち帰ることを目的としたミッションである。

機体は大きく、地球軌道と月軌道との往復を担う機械モジュールと、サンプルの回収カプセル、月着陸機、そしてサンプル採取機構や月からの離陸を担う上昇モジュールの、4つの部分からなる複雑な構成をしている。たとえるならアポロの司令船や着陸船を無人にしたようなものといえよう。

打ち上げ時の質量は8200kgで、持ち帰ることができるサンプルの量は2kgとされる。着陸場所は、月の表側にある「嵐の大洋」の中の「リュムケル山」が予定されている。

打ち上げは2019年12月の予定。当初は2017年に予定されていたが、打ち上げに使う予定だった「長征五号」ロケットが、同年7月に別のミッションの打ち上げで失敗したことから、延期されることになった。

なお2014年には、月からの帰還時に、高速で地球の大気圏に再突入する回収カプセルの技術を実証するため、「嫦娥五号試験機」が打ち上げられ、無事に実証に成功している。

また、嫦娥五号の後継機となる「嫦娥六号」の開発も進んでおり、こちらは2020年の打ち上げが予定されている。着陸場所はまだ決まっていないようである。

さらに、嫦娥三号、四号に続く月着陸ミッションとして、「嫦娥P1」と「同P2」を開発していることも明らかにされている。PとはPoleの頭文字で、月の南極への着陸、探査を目指している。月の南極にはかねてより、水が氷の状態で存在する可能性が指摘されており、将来の有人月面基地の建設候補地として、世界中の科学者や技術者らからの注目が集まっている。

現時点で、嫦娥P1は2023年に、P2は2026年の打ち上げが予定されている。

そして2030年以降には、有人月探査を行う構想もある。まだ正式な計画としてはスタートしていないようで、詳細は不明である。

ただ、嫦娥P1、2による月の南極の探査は、まさに将来的な有人基地建設という目標を見据えたものだろう。また、月への飛行に使える新型の有人宇宙船の開発が進んでいることもわかっており、さらに2020年代には、大型の宇宙ステーション「天宮」の建設と、中国人宇宙飛行士の宇宙での長期滞在が始まることから、実現に向けた下地づくりは少しずつ、しかし確実に進んでいるようである。

現代の中国が紡ぐ、新たな『嫦娥奔月』の行方に期待したい。

出典

嫦娥四号の打ち上げに関する中国国家航天局のプレスリリース
Liftoff for Chang'e-4! | The Planetary Society
China to launch Chang'e-4 lunar far side landing mission on December 7 | gbtimes.com
Plans for China's farside Chang'e 4 lander science mission taking shape | The Planetary Society
Comsat Launch Bolsters China's Dreams for Landing on the Moon's Far Side - Scientific American

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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