「ステップアップステーションセンター」「訓練線と摸擬駅ホーム」「トンネルと橋梁と高架橋」を紹介したところで、残すところは、「研修棟」「安全繋想館」だ。

研修棟

線路やトンネル以外の設備に関する訓練施設は、研修棟の中に集約されている。運転士や車掌の養成もここで行うため、シミュレータ訓練設備も整えられている。

以前から別の場所で稼働していた、7000系を模した運転訓練用シミュレータに加えて、16000系を模したシミュレータ(写真)を増設した

16000系のシミュレータは運転士用と車掌用がワンセットになっている。左側が運転士用、右側が車掌用

普通、鉄道のシミュレータというと主幹制御器とブレーキ設定器の操作に従って画面の内容が変わったり計器が動作したりするものだが、16000系のシミュレータはさらにモーション機能が付いているようで、カーブを走ると遠心力を感じた。なにしろ、飛行機のフライト・シミュレータを手掛けているメーカーが製作しているのだから筋金入りだ。

シミュレータと同じ部屋に、本物の電車で使用している各種の機器をそろえてあり、名称・機能・構造について学ぶ一助としている。おそらく、廃車になった車両から持ってきたのだろう

パンタグラフ、断流器、空気圧縮機といった主要機器については、ひとまとめにして架台に搭載したものがある。ちゃんと「電気側」と「空気側」に分けて取り付けてあったのだから念が入っている

スケルトン教習室とは、駅に設置してあるトイレ、それと建物の防音・防振構造を再現した施設で、外側からは見えない内部構造について理解を深めるためのものだ。別のところには、内部構造がわかるようになっているエスカレーターが設置されているそうだ

スプリンクラー設備は、消火訓練ではなく水防訓練のために使用するためのもの。床には止水板を設置してあり、ずぶ濡れになりながら止水板を設置して水を食い止める訓練を行える。海上自衛隊の防水訓練並み!?

場所によっては信号扱所があり、連動制御盤を操作して分岐器の切り替えを行う場合がある。そこで、連動制御盤や信号関連の機器、操作用のパネルがそろえられている。ちなみに連動とは、分岐器を切り替えて設定した進路と信号の現示に矛盾が生じないように、両者を連携させる動作のこと

電化路線では、架線や第三軌条に電力を供給するために変電所を設けている。その変電所に設置しているものと同じ電力関連機器の用意もあり、操作・保守・点検を体験できるようになっている。また、駅構内の照明や各種機器が使用する低圧電源は、各駅に設けられた電力設備を通じて供給する。そちらの機器もそろっており、不具合が発生したときに予備電源に切り替える操作も体験できる。

安全繋想館

安全繋想館とは、以前は「事故に学ぶ展示室」といっていたもので、過去に発生した事故の事例を知ることで事故防止に役立てようという趣旨のものである。

東京メトロの大事故というと、2000年3月に発生した日比谷線の中目黒脱線事故が挙げられる。実は、この事故の発生した後に入社した社員が、すでに半数を超えているという。そうした事情もあり、過去に発生したインシデントやアクシデントについて知るための場を設けたわけだ。

重要なのは、単に「いつ、こんなインシデントやアクシデントがありました」と展示するだけではなく、どういう事情で、どういう経過をたどって事故が発生したのかを知ることだ。それを知ることが再発防止のために重要である。実際、そういう方向で展示がなされていた。

安全繋想館の扉を開けて入った場所は、日比谷線事故の現場を再現する形になっている。だから床には線路が描かれており、奥には事故後に停車した状態の車両の写真を配置している。そして、左側には日比谷線03系、右側には東武20000系について、事故現場の写真を配置した

おわりに

取材後に、この施設にないものが少なくとも2つあったことに気がついた。1つは車両基地、もう1つは指令室である。

もっとも、前述したように、車両が搭載する機器について学ぶ施設はある。そして、検修にしろ輸送指令業務にしろ、OJT(On the Job Training)が大事で、実際に現場で場数を踏みながらスキルを上げていく性質が強そうだ。そして車両基地なら本物が隣にある。

指令業務については、コンピュータ・ベースの運行管理システムがあれば、指令業務はシミュレーション訓練で対応できそうだ。実際、他社では運行管理システムにシミュレーション訓練機能を併設している事例もあると聞く。

軍隊には「訓練された通りに戦え」という金言があり、いかにしてリアルな、実戦に即した訓練をするかに腐心している。他の業界も同じことで、できるだけ現場をリアルに再現した状態で訓練できるほうが望ましい。それを具現化したのが、東京メトロの総合研修訓練センターだと言える。