【金融国際派の独り言】長門正貢・元日本郵政社長「重化学工業のみならず」

日立製作所の親しい優秀なある部長曰く『2008年度、製造業として史上最大の赤字を計上後、新経営陣のもと皆で頑張り、見違えるような勝ち組企業になった。

 ただ不満なのは、日立が時価総額でソニーグループに負けていることだ。ソニーさんって、ゲームや映画、音楽とかエンターテイメント関連の企業でしょ。我々は王道のデジタル製造業なのに納得出来ない』。現在は日立が抜いたが数カ月前までは長らくソニーの後塵を拝していた。その頃の発言である。

 この発言には少し違和感がある。『経団連等経済団体トップは非製造業からではなく製造業出身であるべきだ』等の議論と似ています。確かに、鉄鋼や自動車等の重化学企業や、衣食住に直接係る企業群と比較し、エンタメ業は一見、不要不急業に見える。

 だが例えば『草枕』で夏目漱石曰く『束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ……。あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするが故に尊い……。詩である、画である。音楽と彫刻である』。芸術とかスポーツ等・広義のエンタメは人生から切っても切れない楽しみであり感動・癒しであり、人間生活に必須だろう。そのエンタメが重化学工業よりも劣後する理由はないと思う。

 時価総額で検証してみよう。3月27日現在、ソニーは20兆円、我が国7位で三井物産、東京エレクトロン、三菱重工業等を凌いでいる。任天堂は20位、12兆円で、直下には三菱電機、丸紅、武田薬品工業がある。58位オリエンタルランド、4・9兆円はブリヂストン、味の素、JR東海を従えている。

 カプコン129位、1・8兆円の下には三井金属、川崎汽船、オリンパスがある。経済市場は草枕と同様、エンタメ業を相応に評価しているように見える。

 ただ、エンタメ企業上位の多くがゲーム関連であることが少し気になる。東大阪の司馬遼太郎記念館。司馬の住んでいた家に安藤忠雄作の蔵書館が隣接している素晴らしい記念館だが維持が大変な由だ。

 『坂の上の雲』のテレビドラマ化等で維持費を捻出している由。大人気の司馬にしてこうだ。素晴らしい本、劇、音楽、スポーツ等、価値が大きいにも拘わらず、寄付や援助も得て何とか繰り回している所が多いと聞く。

 1980年、テッド・ターナーが24時間ニュース報道のみのCNNを創立したように、欠くべからざる意義があるからには、ビジネスモデルを何とか工夫して、ゲームに留まらずスポーツ・音楽・文学関連においても有力企業が出て来ても良いのではないか、と感じている。スタートアップ志願の青年たち、トライしてみません?