
「我々は利益が出るか出ないかではなく、『世のため人のため』が事業をする上での基本的な考え方」─北尾氏はこう話す。AI(人工知能)を全社で活用できる組織への移行、新会社を設立した新たなメディア構想など、SBIは金融から出発しながら、それを超えるビジョンを描き、実践し続けている。そして日本の課題である「地方創生」に向けては地方銀行への出資や提携を通じて、その課題解決に貢献しようとしている。北尾氏が目指すものは─。
日本のメディアが抱える問題をどう捉えるか
─ 中東情勢の緊迫化が世界の政治、経済に影響を及ぼしています。どう見ていますか。
北尾 確かに社会全体、経済に大きなインパクトがあります。そしてイランは米国やイスラエルだけでなく近隣のアラブ諸国を攻撃し、周囲の国を敵に回すような状況になっている。この後どういう展開があるのか。
ただ、米国・イスラエルもイランも、お互いに「大本営発表」のような発信をしており、現在の状況について正確に評価するのは難しいと思っています。一方で一つ言えるのは、米トランプ大統領は中間選挙前に、この問題を解決したいと思っているだろうということです。
─ 日本がすべきことをどう考えていますか。
北尾 日本は、まずは経済を何とかしなければいけません。外交面では、先日の日米首脳会談は厳しいシチュエーションでしたが、高市早苗首相は何とか切り抜けてくれました。
ただ、日本経済を立て直すためには、政治の安定と国益を見据えた建設的な議論が不可欠です。しかし、現在の情報空間では、本質的ではない対立を煽るようなメディア・情報も散見され、課題を感じています。
─ 北尾さんはメディアのあり方について、かねてから提言してきていますね。
北尾 ええ。本当にメディアの問題は大きいと思います。今の日本のメディアは、フェイクニュース、偏向、隠蔽、イメージ操作などが多く、公平・公正・迅速にグローバルな情報コンテンツを提供し、健全な世論形成に資するというメディアのあるべき姿から大きく乖離していると言わざるを得ません。
報道で最も大事なことは正しいニュースを隠すことなく、ファクトに基づいて適時に発信していくということのはずです。全てがネガティブという報道は、最初からおかしい。
─ 情報空間という観点ではSNSの存在をどう考えますか。
北尾 SNSもフェイクがあるなど、全面的に信頼していいものでもありません。この信頼性をどう担保するかという時には、AIを使って偽情報をはじいていくといった仕組みが必要だと思います。これは世界的課題でもあります。
もちろん、AIが万能というわけではありませんが、我々はグループ全体を徹底的にAIドリブンの組織体に変えようとしているところです。
私が直接陣頭指揮を取り、当社の持分法適用関連会社であるAIソリューション企業・Ridge-iの柳原尚史社長に全面的に協力してもらい、AIエージェントを統合した次世代の経営モデルへの変革を進めています。
今は技術進化が激しいですから、日々新しくなっていくものに対して最速で導入しないと間に合いません。特にAIは生産性を上げるのには非常に役立ちますし、日常の業務は専門的な知識を読み込ませたAIエージェントがやってくれますから、今後さらに普及していくでしょう。
ただし「意思決定」、「計画立案」、「倫理的価値判断」などはAI任せにはできませんから、「人」がやらなければいけません。
「地方創生」をどう進めるか?
─ メディアに関しては、新会社も立ち上げていますね。
北尾 そうです。昨年5月に、SBIネオメディアホールディングスという会社を設立しました。この会社を中心にメディア・IT・金融の融合によって、日本の一大産業にどう作り上げていくかということを考えています。
例えばIP(知的財産)です。これまでは制作者が全て保有して利益を上げた後は、二次利用、三次利用があまりなされていない状況です。我々はこれをトークン化して、流通市場を整備することでファンの人たちに保有してもらうということも考えています。
その流通市場として、SBIグループが運営する大阪デジタルエクスチェンジを活用します。
また、地方創生についても、地方の情報を国内全体に発信するということもやっていきたいし、それを東南アジアを中心にグローバルにも発信していきたい。私は地方にインバウンド(訪日外国人観光客)をどんどん増やし、経済を活性化したい。
─ 地方創生に関連して、北尾さんは「第4のメガバンク構想」を掲げ、複数の地銀に出資も行う中、その中核に位置付けるSBI新生銀行の公的資金返済、再上場をやり遂げました。今後の方向性を聞かせて下さい。
北尾 我々は「第4のメガバンク構想」を掲げて、これまでいくつかの銀行の姿を大きく変えてきたという自負があります。一方で政府は、どれだけの資金を使って、どういう成果を挙げてきたのでしょうか。
大事なのは実効性のある取り組みです。例えば大阪府泉南市で開催されている「泉州夢花火」を「SBI舞花火」という名称に変えるとともに、それを日本全国で開催するという取り組みも進めています。日本の花火は世界で最も美しいですから、それをゆくゆくは世界に輸出しようとも考えています。
また、夜の花火大会だけでなく、我々のグループの「SBI MUSIC CIRUS」が昼に音楽イベントを開催して若者を集め、夜は花火大会にそのまま参加するという流れをつくろうとしています。
地域に人が集まるという点で、地方創生にも貢献できる取り組みだと考えており、我々の提携先の地方銀行からも「自分たちの地元でも開催して欲しい」という声が出ています。
─ 複数の地方銀行に出資していますが、手応えは?
北尾 私が2019年から地方銀行への出資に取り掛かった時、最大の問題だと考えたのは地方銀行の基幹システムです。それまで使っていたシステムは、10年足らずで更改が必要となり、その度に莫大な償却負担が発生していました。
そこで我々は、システム費用を安くするために、クラウドを活用することにしました。その構築のために、地銀向けシステム提供に実績のあったフューチャーアーキテクトの協力を得て「次世代バンキングシステム」を開発し、既に地銀5行で採用されています。
銀行としては固定費を変動費に変えることで償却負担が減るほか、業務効率化や機動的な事業展開が可能となります。そして2026年1月には、SBI新生銀行でも導入を決定しました。
─ SBI新生銀行は「第4のメガバンク構想」では、どのような役割を担っていくのですか。
北尾 SBI新生銀行は、シンジケート・ローンなどを地銀と連携して進めたり、地域でストラクチャード・ファイナンスを組成するなど、様々な形で協力していきます。
地域を活性化させないと地銀や地方経済はもちません。十分な預金が集まってきませんし、集まってきたとしても投資先、融資先がない。ですから我々が提携先各行に伝えているのは、「リージョナル(地域)からネイションワイド(全国)」ということです。
地方銀行が地元に貢献するのは大前提ですが、地域一本槍ではいけません。例えば、出資先である島根銀行はスマホ専用支店を立ち上げ、地元だけでなく全国から預金を集めたことで、約800億円も預金を増やすことに成功したのです。改革には、こうした実効性が大事です。
「辞は達するのみ」の生き方
─ 地方創生には、どういう思いで取り組んでいますか。
北尾 他社が地方創生に注力しないのは、大した利益にならないからでしょう。しかし我々は、利益が出るか出ないかではなく、「公益は私益に繋がる」が事業構築の基本観であり「世のため人のため」が事業をする上での我々の基本的な考え方です。
地方創生の実現、地域金融機関の活性化という公益は、最終的にきちんと私益に繋がるのです。こうした姿勢は、企業の規模が大きくなればなるほど大事ではないかと考えています。
─ 新しいものを創り出すため、挑戦し続けるのが北尾さんの生き方ですね。それを実践する上で、若い頃から古典も含めて勉強してきたことが役立っていますか。
北尾 そう思います。中国古典を中心に、私淑する安岡正篤先生や森信三先生といった方々の著作を読み込んできましたが、そこから学んだことが自らの中で体系化され、私の精神的バックボーンになっています。
また、英ケンブリッジ大学への留学は私の世界観を広げるのに非常に役に立ちました。今も、海外の人たちと英語で直接話す中で、孔子が言うように「辞は達するのみ」(言葉や文章は、自分の意思や内容が相手にしっかり伝わりさえすればそれで十分だ)であることを実感しています。
上手か下手かは関係なく、情熱がこもり、それでいてロジカルな話をしっかりとすれば、海外でもどんどんビジネスができるということなのだと思っています。
─ その意味でも教育は非常に重要ですね。そして自ら学ぶことが大事だと。
北尾 おっしゃる通りですね。中でも「リベラルアーツ」、「教養」が非常に重要だと思います。最近は受験勉強の参考書は読んでも、きちんと本を読んでいない人が多いのではと感じます。
特に、AIがこれだけ多くの人に使われるようになってくると、クリエイティビティをいかに養うかが問われます。知識を得るだけでなく、その知識をベースに思索を深めることが大事です。知識と思索が深まり、知行合一的になって初めて、人物ができていくわけです。
経済人は国の課題への発信を
─ 今の時代の経済人の役割をどう考えますか。
北尾 主導的な立場にある人はリーダーシップを発揮して、国のために何かをしようという強い思いを持って欲しいと思います。公益のためには私益を一部犠牲にしても、最終的に結果は必ずついてくると思う。
例えば我々で言えば、国内株式のオンライン取引手数料をゼロにしました。言葉にすると簡単に聞こえるかもしれませんが、10年前なら信じられないことだと思います。それでもなお、SBI証券は黒字を上げ続けていますし、グループ全体でも国内約5000万、海外も合わせて約8000万と顧客基盤を増やしています。
事業を成長・安定させるためにも、企業はお客様を惹き付ける何かを持たなくてはいけません。
─ 経済人はもっと発信しなければいけませんね。
北尾 そう思います。会社のことを発信するだけでなく、例えば将来を担う子どもたちをどう育成するかといった社会問題への意識も持つ必要があります。
人口減少で日本が衰退しようとしている中、生産性をどう向上させるか。AI活用など教育をどうしていくかといった、根本的なことをやっていかなければ、いつまで経っても状況は変わらず、むしろ悪化していきます。
我々が子どもの頃、あるいは社会人になってからも本当に日本は輝いていました。日本は戦後の廃墟から立ち上がり、GDP(国内総生産)で世界2位にまでなり世界も日本を称賛の目で見ていました。
今は日本経済をどう立て直すか、どうやってみんながもっと働けるようにするか、どうやって起業家が日本で事業をやりたいと思う環境をつくるかという根本的なことを考えるべき時です。
─ 改めて、北尾さんは野村證券から独立してSBIをつくって今日までやってこられたわけですが、厳しい時もあったと思います。そうした時に支えになったものは何でしたか。
北尾 自分は正しいことをやっているという思いです。やはり自分の行動には大義、正義が大事です。正しいことを正しいやり方で取り組み、きちんと利益を積み上げていくということを徹底してきました。
もう一つは技術です。革新的な技術、新しい技術をどんどん導入することが、経済の民主化を推し進める力になると信じてやってきました。
問題に突き当たったら、その問題をどう解決するか。その時に知識を集め、思索を積み重ねて解決手段を考え抜かなければ、何も変わりません。
─ 正しいことをやると。考え方は非常にシンプルですね。
北尾 そうです。大義や正義に基づいて仕事をしている限り、誰も何も言うことはできません。私は仕事というのは、そういうものだと思っています。